便利屋セイル
あの後もミリアさんに小言を言われ続け、なんとか煙に撒いてきた俺は受付嬢達に預けられていたカイを回収して帰路に着く。
「美味かったか?」
「はい、ご馳走様でした」
体格を考えるとかなりデカいだろうホットドッグを食べきったカイに味の感想を効くと美味かったんだろう。素直な答えが返って来る。
人間、美味いモノを喰うと少し緊張がほぐれるもんだ。特に子供はその辺顕著なんじゃねえかと思う。
腹いっぱい美味いモノを喰えるのは幸せなことだからな。それが出来るだけで精神的にも肉体的にも満たされる。
それは愛されてるって証拠だ。俺は親じゃねぇから分かんねぇけど。少なくとも飯に困らせることはしない。
「お腹いっぱいです。こんなに食べて良いんですか?」
「子供は飯食って遊んで寝るのが仕事なんだよ。金の心配なんてすんじゃねぇ。俺はお前が思ってる10倍は金持ってるぜ」
「す、すみません……」
すぐに金勘定とか俺の顔色をうかがうカイにそんな心配は必要無いことを伝える。それでカイは少し萎縮するが、俺はそれを黙って頭をがしがしと撫でて何とも思って無いことを暗に伝える。
8歳のカイは当然まだまだ子供。身体なんて出来上がって無いから基本的に細身だ。
だが、それにしたって同年代より細い。生まれながらの体格や体質を考慮しても、露骨に肉が付いてない。
筋肉じゃない、脂肪の方だ。
子供に限らずだけど、身体をデカくする。つまり筋肉を付けたり骨太にするためにはある程度の脂肪。つまりエネルギーや栄養が必要だ。
これは食うことでしか補給出来ない。補給しないとエネルギーは溜まらない。
だから、鍛えようと思った時やることはまず食う事。とにかく、喰って喰って喰いまくる。そうやってまず脂肪で身体をデカくする。
そうしてから、筋肉を付けると身体はその脂肪をエネルギー源にして筋肉や骨を強化する。
子供の頃ってのは身体が自然とこういうことをしてくれるんだ。
何せ、成長期だからな。わんぱく盛りのガキンチョなんて、ご飯を喰って、遊んで、寝る。これを毎日してるだろ。
アレは自然なトレーニングなんだ。だから身体が一気に成長する。でもカイはそれを出来てなかった。
いや、させてもらえなかったらしい。
「お屋敷にいた時は、その、出来ないとご飯を貰えなくて……」
「そんなところにいたことなんてさっさと忘れろ。ロクな連中じゃないってのは教えただろ」
「そう、ですけど……」
「俺がどうにかしてやる。心配すんな。子供は自分のことだけ考えてろ。わがままなくらいが丁度いいんだ」
カイがいた環境は最悪だった。まだ全部を聞き出せているわけじゃないが、少なくとも断片的に話してくれたことだけでも本当に胸糞悪くなる内容ばかりだった。
その中の1つに訓練の強要と、それを達成できなかった時の過剰な罰だ。
聴いた話の中では木剣で素振り千本。出来るまで休憩も睡眠も無し。それを8歳の子供にやれって言ってんだぜ?
千本だぞ、千本。大人だって悲鳴を上げる数だ。それを8歳の子供にさせるなんて正気の沙汰じゃねぇだろ。
虐待、って言うのすら憚られる。もはや拷問だろうよ。
「ベルゼルトの野郎のことは忘れろ。お前は無事に逃げおおせて見せたんだ。だから今は忘れてて良い」
「……はい」
レガリアス・ベルゼルト。王都、アストレアにいる名門貴族様がカイにそんな拷問紛いのことをしていた張本人だ。
許すことは出来ねぇ、がいくら本部ギルドで名を上げたパーティーの一員だったからと言って肩書はあくまで一般人。
貴族様に真正面から盾付いたら、首が飛ぶのはこっちの方だ。
だから、カイのことは保護しながら時間を掛けて打開策を見つけるしかない。
俺もちょうど静かに過ごして行かなきゃいけない理由があるしな。ミリアさんはあんまりこの件に深入りすることに良い顔をしていないが、だからと言って俺とカイを引き離すことや、ギルドが変に介入することにも慎重な立場。
ギルドからすれば、見てない聞いてないの知らない顔をしていた方が得策だからな。王都の名門貴族様相手に面倒ごとなんて誰だって起こしたくねぇよ。
「ゆっくりしようぜ。俺も、お前も」
静かにやり過ごして、ベルゼルト卿がそれで諦めてくれるのが一番都合が良い。そうなってくれることを祈って、俺達は仮の住まいにしている宿屋へとたどり着く。
だが、残念ながらそんな時間はそう長く続かないことを俺達は後で思い知らされることになる。
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