便利屋セイル
「『ディバインシフター』を使いましたね?」
エスメラルダのギルド支部、その会議室か応接間かに連れ込まれた俺は明らかに怒気を孕んだ声でミリアさんに詰められていた。
表情こそは無表情に近いそれだけど、声音は完全に怒ってる。結構長い付き合いだしこれくらいのことは分かる。
そして、彼女が怒っている理由も当然。
「いやぁ、必要な措置だったと思うぜ? 経験があるヤツならともかく、ルーキー2人を逃がしながらだ。使わざるを得ないって」
「最小限に抑える努力をした事は認めます。ですが、何度も言うように気軽に使うような『スキル』ではありません。あなたの実力であれば、鷹竜くらいはあのまま対処することも可能だったでしょう」
それ自体は否定しないが、やはりルーキー2人ってのがポイントだ。ある程度知識と経験を持っていれば、逃げたポイントに戻るなんて真似はしないが、ルーキーは違う。
不安になれば、戻ってしまうこともあるだろう。その判断をさせてしまうのが経験の差ってヤツだし、人の心理ってもんだ。
人は視えない不安を目視で確認して解消しようとするからな。これは本能的な心理だ。何も知らないとこれを抑えることは難しい。
「時間を掛けると2人が戻って来る可能性がどうしてもあった。その危険性を考えれば、最短で処理するのが最も効率的だったんだ」
「それも分かりますが、昔からですがセイルさんは自分を軽視し過ぎです」
何も考え無しに俺の固有スキル『ディバインシフター』を使ったわけじゃない。それが一番、安全で確実だった。
わざわざ高いリスクを取るより、『ディバインシフター』の最小限の仕様が良かったことを説明するとミリアさんはそれでも、と食い下がって来る。
彼女の心配も分かる。というか、彼女こそが俺の固有スキル『ディバインシフター』の危険性を理解していると言っていい。
何せ『ディバインシフター』のデメリット、或いは反動や代償と呼ぶべきものを発見したのはミリアさんだからな。
彼女、ミリア・レインはギルド所属の職員。だが、彼女は元受付嬢で現在は全く別の部署で働いている。
その部署とはギルド本部の監査記録課・特殊スキル観察班。
簡単に言うと特殊なスキルを保有している個人や団体を監視、観察してその記録を取る、という仕事だ。
俺の持っている『ディバインシフター』はまさにその特殊スキルに該当する。何せ、どんだけ過去の記録を遡っても、こんなスキルを持っている奴はいないからな。
その効果も馬鹿げていると言って良い。
「『女神』の力を引き出す、それどころか女神そのものになってしまうそのスキルの危険性をもう少し考えてください」
『女神』の力を引き出す。さらにあろうことか『女神』そのものになることが出来る。それが俺のスキル『ディバインシフター』の能力だ。
破格、なんてモノじゃない。ハッキリ言ってスキルの範疇を超えているって言って良い。
そりゃそうだろ? 神になるスキルだぜ? そんなの普通じゃない。
他のスキルってのは火の魔法を強化するとか、身体能力を強化するとか、特殊な技能を得るとか、そう言うもんだ。
スキルってのは神からの贈り物なんて言われてるが、実際に神になるスキルなんて見たことも聞いたことも無いハズだ。
だからこそ、俺のスキルってのはずっと一目に付くところで使うことは禁止して来た。
あまりにも破格すぎる。それが呼び込んで来る面倒ごとがあることは誰が考えたって明白だからな。
俺のスキルについて知っている人はごく一部だ。
「だから、それをわかってるから最小限にしたんだろ? 大丈夫だって、今回の使用で侵食は進んでないから」
「今回は、です。次に使ったら一気に進む可能性はあります。お願いですから、大人しくしててください」
そんでもって、ミリアさんがこんなに怒っている理由は『ディバインシフター』のデメリット効果にある。
そもそも普通、スキルにデメリット効果なんて無い。相性とか状況によっては使えないとかはあるが、使ってるだけで不利益が生じるなんてスキルは俺が知る限り『ディバインシフター』だけだ。
さっき言ったようにスキルは神からの贈り物、とされているからな。言い換えれば祝福だ。
俺のこれは、どっちかというと呪いのそれになっちまう。
「とりあえず、侵食の状況を記録しますので。服、脱いでください」
「……毎度思うけど、脱がなきゃダメか?」
「ダメです。目視のチェックが最も確実なので」
そのデメリット効果ってのが、俺の身体の侵食。俺の身体が、どんどんと女神のそれに置き換わっていく。それが『ディバインシフター』のデメリットだ。
……だからって、その記録のために半裸にさせられるのだけは、何とかなんねーかな。
流石の俺も、異性の前でパンツ一丁になるってのは恥ずかしいんだが。




