協力者
最初に飛びかかって来た灰爪狼へ、俺は鉄杭を投げつける。狙いは狼そのものじゃない。足元の地面だ。
杭が突き刺さった瞬間、巻き付けてあった網が弾けるように広がる。先頭の一頭がそれに足を取られ、派手に転倒した。
「『迅駆の律動』!!」
小さなハープのような楽器をつま弾いて奏でられたリリアの強化魔法が俺の全身を包む。
足が軽い。視界が広がる。久しぶりの感覚だ。
昔は当たり前のように受けていた支援が、今では懐かしく感じる。俺が一歩踏み込むより先に、リリアが欲しい強化を掛けてくる。
転倒した1体を踏みつけ、跳び上がってから2体目の頭も踏んづけようと踵を振り下ろす。俊敏な灰爪狼には流石に避けられるが、それで良い。
「右、半歩!」
言われるまま右へ踏み込む。
直後、左右から飛びかかって来た狼の鼻先を、リリアが放った圧縮風が弾き飛ばした。俺は右の一頭へ短剣を投げ、背中を浅くだが切り裂く。
キャインと悲鳴を上げた灰爪狼の1体が慌てて下がり、恨めしそうに俺達の周りを距離を取りながらうろうろと取り囲む。
「やっぱ楽だな、お前の強化」
「今さら気付いた?」
「一人になってありがたみを思い出した」
「ちょっと遅いんじゃないのっ!!」
文句を言いながらも、魔法の精度は一切落ちない。残った一頭が俺達を避け、水路へ向かって走り出す。多少無理矢理にでも入口を通って、中のカイと子供を狙う気か。
「行かせるか!」
追おうとした瞬間、網を破った最初の狼が足へ噛み付こうとする。それを蹴り飛ばしてから対応に入るが、ワンテンポ遅れた。
元灌漑用水路の入口に体当たりをして無理矢理入口を広げようとしている。中にいる2人からすれば恐ろしいもんだろう。
咄嗟に『ディバインシフター』を発動しようと喉元まで言葉が出かかる。
だが、今は一人じゃない。俺が全部を片付けなくても良い。そう考え直した俺の前へ、緑色の光が走った。
「『不協和音』!!」
かき鳴らされた耳をつんざく不快な音が響く。リリアの妨害魔法だ。そこまで高い効力のある魔法ではないが、耳の良い灰爪狼には比較的高い効果を発揮しやすい魔法だ。
それによって周囲の灰爪狼の動きが少しだけ止まる。ほんの一瞬のことだが、その一瞬がありがたい。
俺はワイヤーを射出し、狼の胴へ巻き付ける。そのまま全身を捻って投げ飛ばし、近くの木へと叩きつけた。
ボキッと骨が砕ける音がして、どさりと崩れるように灰爪狼が地面に落ちる。
これでまずは1体。水路へ向かった一頭を止めた。残りは4。そう考えた直後、急に視界が暗くなる。
魔法とかじゃない、物理的に光が遮られている。
バッと上を見上げると、大きな影が俺達の上にいた。落ちかけている夕暮れの光によって浮かぶシルエットは巨大なモモンガってところ。
だが、俺達はそれが非常に凶暴な魔物だってことを知っている。
「ナイトグライダー?!」
「まずい!」
ナイトグライダー。夕方から夜明けまで活動する肉食の魔物の一種。その見た目はさっきも言った通り、人よりデカいモモンガって言ったところ。
薄暗い、あるいは夜の暗闇の中を飛翔と滑空を繰り返して獲物を探し、狩る。中型の魔物。
中型って言ってもそのサイズは人よりデカい。その巨体が、殆ど落ちるような動作をしながらカイと子供が隠れている古いレンガ造りの水路の入口。
そんなところに数m上から人よりデカい物が落ちて来たらどうなるかは考えなくても分かる。
「カイ!!」
俺が駆け込もうとするより先にナイトグライダーが着地。レンガ造りの水路の入口。そのドーム状の天井の一部がガラガラと音を立てて崩れたのだった。
俺達も中にいる2人の位置までは把握していない。その崩れた古いレンガの下にカイと子供がいたら、と考えると背筋が冷たくなった。




