協力者
そんなことを考えながら沢の流れに沿って進んで行くと昔使われていた灌漑用水路だろうドーム状のレンガ造りの人工物。そこには水を引き込むための穴がある。
ちょうど子供一人が通れるくらいの穴だ。今でも水が冷たい水が引き込まれていて、中は暗い。空も更に暗くなって来たのもあって、中は殆どわからないくらいだ。
「ここか?」
「でしょうね」
正直、逃げる先としては最悪だ。灰爪狼はこの穴よりデカいから入れないが、この中は当然湧いたばかり冷たい水がくるぶしくらいの深さで流れている。
入口には灰爪狼がうろつき、食料も無く、冷たい水だけが体温を奪って行く。
素人目には如何にも良い逃げ場所に見えるんだけどな。実際は袋小路状態。このままじゃ外に出ようとしたところを灰爪狼に食われるか、このままこの中にいて低体温症になるか。
どっちにしたって死ぬことになる。
「おい、誰かいるか!?」
俺が呼びかけると、奥の方から微かな泣き声が返って来た。それを聞いて全員がホッと息を撫でおろした。
とりあえず子供は生きてる。あとは連れて帰るだけ。灰爪狼の対処は後で。
としたかったんだが、背後の林から枝を踏み砕く音が響いた。振り返ると、夕闇の中に赤い目が三つ、四つと浮かんでいる。
それに思わず舌打ちが出る。
「一頭じゃないんだけど」
「足跡を重ねてやがったな。思ったより賢い群れだ」
予想していた単独のはぐれ灰爪狼じゃなく、五頭の灰爪狼の姿が確認できた。こういうことがあるのがまさに探索者業ではあるあるだ。
常にセオリー通りには進まない。特にこういう魔物を相手にしている時にはな。相手は生き物。人間が思っているよりも頭の良い魔物たちはこうしてこっちの裏をかくような行動をして来ることも多い。
だから俺達探索者は常に余裕を持ち、可能な限りのもしもに対応することが求められる。
そんな俺達の最初の予想を上回って来た灰爪狼達は俺達を追い込むように、ゆっくりと距離を詰めて来る。
口元には仕留めた家畜の血らしきものがこびりついている。
ったく、家畜一匹食ってもまだ足りねぇのかよ。
「カイと子供を一緒に連れて行け。ここは俺が――」
「却下」
俺の提案を聞いて、リリアが俺の背中を小突く。あぁ、わかったわかった。1人ではやらねぇよ。ったく、心配性なヤツめ。
灰爪狼の小規模な群れくらいじゃどうってこともねえのによ。
「一人で全部やろうとしない。アンタが前、私が後ろ。カイ君は水路に入って中の子の様子の確認と安全の確保ね」
「りょ、了解です……っ」
「三人で来たんだから、三人で助けるのよ。カイ君にだって出来る役目がある。中で声を掛け続ければ、中にいる子がパニックになったりするのが防げるから」
役割を与えられて表情がこわばり、分かりやすく緊張するカイ。リリアの提案と役割分担は理に適っている。
同じ年頃の子供同士なら、話も聞き入れやすいし、片方が落ち着いていればパニックになるのも防ぎやすい。
俺も視線を送って、カイに行くように促すと頷いてからカイは中にいる子供のところへ向かった。
それを見て、灰爪狼が一斉に低く唸る。俺達が自分達に対応しようとしているのが理解出来ているんだろう。
頭の良い群れだ。リーダーの質が良いんだろう。魔物の中には時折、こういう特別優秀な個体がいるんだよな。
だからこそ、今ここで仕留める。この手の頭のいい個体は後でデカい被害を出す個体にもなりやすいんでね。
俺は小さく息を吐いて、腰の道具袋に手を伸ばす。
「分かったよ。久しぶりに合わせるぞ、リリア」
「任せなさい」
背後にいるリリアに声だけかけて、視線は灰爪狼達に向けたまま。返って来た心強い声に懐かしい気持ちを抱えながら、戦闘が始まった。




