協力者
すぐに村の外へ出ると、一頭だけ戻って来ているという家畜の足跡を探す。
地面は乾いているが、蹄の跡は見つけやすい。問題は人間の足跡だ。村人達が先に探し回ったせいで、あちこちに足跡が増えている。
家畜の蹄の足跡は薄いが間違いなく話しの通り村の東の方からやって来ていた。それを追っていくと徐々に他の村人の足跡も減り、痕跡を探しやすくなる。
「セイル!!」
古い灌漑用の水路があるという場所の近くまで来たとき、リリアが声を上げて草むらの端を指差した。
そこには千切れた縄が草むらに紛れて落ちていた。家畜につけていた縄と見ておおよそ間違いが無いだろう。太くて丈夫な縄が引きちぎられているのが断面を見ればわかる。
更にその先。草が不自然に倒れ、蹄の跡が林の奥へ続いていた。
千切れた縄をもっと観察すると端の方は多少鋭利な刃物のようなモノで切断された跡も残っている。刃物で切ったわけじゃない。何かに噛み千切られたか爪か何かで引き裂かれた跡だ。
家畜が襲われて暴れて逃げ帰り、もう一頭の家畜と子供一人が取り残された可能性が高い。
これでただ迷子じゃないことが確定した。この先に何かがいる
最悪の想定も頭に思い描きながら、俺は腰のナイフを抜く。『ディバインシフター』はまだ使わない。相手も分からないしな。
「リリア、強化の準備」
「わかってるわ。いつでもOK」
「カイ。ここから先は俺達の指示だけ聞け」
夕暮れも深まり殆ど夜。暗いの林の奥から、何かが飛び出して来るんじゃないかという根源的な恐怖が頭をよぎり続けるが、それを今までの経験と知識で押し殺して、ゆっくりと進んで行く。
カイは発光石を握りしめながら、それでも俺達のすぐ後ろを付いて来る。
怖くないわけじゃないだろう。それでもよく知りもしない子供のために進もうとしている。
底抜けに優しい奴だよ。普通だったらそんな余裕なんて無いだろう境遇だってのに、お前はホント良い奴だな。
その小さな勇気を無駄にしないためにも、この先にいる何かと何が起きているのかを正しく認識し、解決する必要がある。
林の奥へと進んで行くと、痕跡ははすぐに分かりやすくなった。
家畜の蹄の跡に子供の靴が片方だけ落ちている。そして、その二つを追うように残る太い爪痕と肉球のある獣の足跡。
「灰爪狼ね」
その太い爪と足の跡が残る地面を見たリリアが小声で言う。
灰爪狼は名前の通り灰色の毛と大きな前脚を持つ狼型の魔物だ。単体なら新人探索者でも対処出来るが、コイツらは普通、数頭の群れで動く。
「足跡が一頭分しかない」
「群れからはぐれた若い個体かも。だから人里の近くまで来た」
群れの中で獲物を捕る経験を積めなかった個体は、弱い獲物を求めて人里へ近付くことがある。子供や家畜は格好の獲物だ。
幸い、血の跡は無い。襲われたとしても、まだ無事でいる可能性は高い。
「おーーい!!」
遠く、林で村人の叫ぶ声が聞こえる。
俺は舌打ちした。大声で探すのは迷子相手なら有効だが、魔物が近くにいる状況じゃ逆効果だ。灰爪狼を刺激して、被害が拡大する可能性がある。
「リリア、村人達に知らせられるか?」
「伝声の魔法は距離が足りない。私が戻る?」
「いや、今から離れる方が危険だ。このまま先に見つける」
足跡を追って更に林の奥へ進む。
途中で小さな沢。おそらく村の水源か。その付近で痕跡が途切れた。水の中を歩かれたせいだ。俺はしゃがみ込み、対岸の泥を調べる。
だが、見つけたのは狼と家畜の蹄の足跡だけ。
「子供の足あとが無い」
「……最悪のパターンってわけでは無さそうね」
「だな。それなら血か引きずった跡がある。多分、自分で別の方向へ逃げたんだ」
周囲を見渡す。家畜は沢を飛び越えて対岸へ向かったのは痕跡から分かる。子供はおそらく水源の沢の流れに沿って逃げたんだろう。
灰爪狼はより図体のデカい家畜を優先したってところか。だとするなら、餓えてるな。
長らく食料に在りつけていない肉食動物ってのは欲が出てデカいのも狙い始めるからな。




