協力者
リリアの合流決定が決まったところで、リリアはカイのメインスキル『暁の加護』を確認したいと言い出した。
「確認って、何をするんだ?」
「魔力の流れとかを見るだけ。痛いこともしないし、無理にスキルを使わせたりもしないわ」
「確認、ですか……?」
「そう難しいことはしないわ。ただ嫌だったら途中で止めるから言ってね?」
リリアが念を押すと、カイは少し迷ってから頷いた。
ベルゼルト家で何度も無理矢理スキルを使わされていたんだろう。確認って言葉だけで、肩が目に見えて強張っている。
それに気付いたリリアは、すぐに確認作業に移ることはしなかった。まずカイの向かいに座り、自分の手の平に小さな光を浮かべる。
「これはただの灯り。こっちは?」
光の色が緑に変わり、ふわりとカイの髪が風に揺れる。
「風の魔法、ですか?」
「正解。私はね、自分で大きな火を出したり、敵を吹き飛ばしたりするのは苦手なの。その代わり、誰かの力を強くしたり、動きやすくしたりするのが得意」
「強化術師、でしたよね」
「覚えてたんだ。偉い偉い」
褒められたカイが照れ臭そうに俯く。それを見て、リリアは小さな楽器を取り出した。
いわゆる弦楽器だ。小型のハープのようなもの、って言えば伝わるか? リリアはそれを構えるとポロン、と指で弦をつま弾いて魔力の乗った音を奏で始めた。
これがリリアの魔法。そしてスキル『勝利の律動』による強化魔法だ。
強化術師は他人の魔力へ干渉する。そのため相手の魔力がどう流れているのかを読む能力にも長けている。
下手な鑑定道具を使ってあれこれ計測するより、リリアほどの実力者にもなればこっちの方が正確だ。昔も俺達の体調や魔力の乱れを誰より先に見抜いていた。
俺にもその魔力が触れるが、敵意も強制力も無い。体の表面を撫でられるような感覚だけだ。
心地よさすら感じるそれにカイも自然と身を委ねて行く。
「カイ君。深呼吸して。何かしようとしなくて良いよ。ただ座ってて」
「はい……」
数秒。十数秒。
リリアの表情から普段の軽さが消えていく。眉間に皺を寄せて、何かを探るようにカイを見つめていた。
やがて演奏が止まり、森のさざめきの音が耳に戻って来た。
「どうだった?」
「……変ね」
その言葉にカイの肩が跳ねた。明らかに何かに怯えている様子で身体をキュッと縮めていた。
「ご、ごめんなさい」
「違う違う。カイ君が悪いって意味じゃないわ。ただ、少なくとも普通じゃなかったから」
リリアは慌てて両手を振り、俺は思わず溜息を吐く。言葉を選べよ、全く。
俺にじろりと睨まれて、両手を合わせて「ごめーん」と謝るリリア。それを見てもう一度溜め息を吐いてから、カイの頭をがしがしと撫でて落ち着かせた。
「私が変だって言ったのはスキルが目覚めてないっぽいなって感じたからなのよ」
「スキルが目覚めてない?」
どういうことだ。カイのメインスキルは『暁の加護』だと分かっているんだろ?
制御出来ているかどうかはさておき、リリアの言い方的にはそもそもにスキルが使用できない的な言い方だ。
……待てよ? その症状には俺も身に覚えがある。まさか。
「昔のセイルの『ディバインシフター』と同じ症状ね。特殊なスキル過ぎて、スキルの発動条件がまだ分かっていなんだと思う」
カイの顔が青くなる。その様子を見るに、どうやら当たりらしい。
スキルってのは大きく二つに分かれる。個人の特性や才能が大きく反映されているとされているメインスキルと、後々の努力や経験から取得することが出来るサブスキルだ。
『ディバインシフター』、『暁の加護』、『勝利の律動』はそれぞれ俺達のメインスキル。どれもこれも個性的なスキルで、似たようなスキルはあれど全く同じスキルを保持している人に出会うことはほぼ無いと言って良い。
それでもスキルの発動ってのはそこまで難しくない。大体の場合、スキルの名前なんかで予想が付くか、似たようなスキルがあるからだ。
例えば『勝利の律動』は律動って言葉から音楽系のスキルだってことが想像出来る。リリアの実家は楽器屋だしな。
「もしかして、まだ『暁の加護』が発動したこと、無いんじゃない?」
「……先生は、根性が足りないからだって」
「そっか」
カイの返事を聞いて、リリアがそっとカイの手を握りしめる。何を言うでもない。ただ握るだけだ。
たったそれだけのことでもカイにとっては新鮮な行動だったらしい。否定も肯定もしない。ただ自分がスキルを発動できたことが無いという事実を受け入れてくれたのはカイにとっては初めての経験だったんだろう。
「何度も、発動させるように言われました。でも、どんなに頑張っても出来なくて……」
「うん」
「だから、毎日倒れるまで訓練させられました。努力を続ければ『加護』が発動するようになるって言われて」
「うん」
リリアは真っ直ぐにカイを見る。
その光景は、かつての俺を見ているようで。
「でも、分からなかったんです。『暁の加護』なんて言われても、凄いスキルだって言われても、どうやったらいいかなんてわからなくて」
「やり方が間違ってたの。少なくとも、君に剣を千回振らせるような方法じゃ『暁の加護』は目覚めない。セイルだってそうだった」
カイはすぐに返事をしなかった。ただ、リリアの手を握りしめていたのがゆっくりと力が抜けていく。
自分が駄目だったわけじゃない。
たったそれだけのことを受け入れるのに、カイはどれだけ苦しんだんだろうか。
その日の確認はそこで終わりにした。
答えを急いで、またカイへ何かを強いることになったらベルゼルト家の連中と同じだ。
『暁の加護』が何をする力なのか。どうすれば目覚めるのか。
それはカイの身体と心が落ち着いてから、本人と一緒に探せば良い。
少なくとも今は、出来ないことを責める大人がここにはいない。それだけで十分だろ。




