協力者
シチューを食い終えた後、俺達は村長の家の一室を借りて、ようやく本題に入ることになった。
カイには同じ部屋の端で図鑑を読んでもらっている。別の部屋に追いやることも考えたが、自分のことを勝手に話し合われるのは良い気分じゃないだろうからな。
それに、これから一緒に逃げるなら情報は共有しておいた方が良い。
「まず、ミリアから預かって来たもの」
リリアが机に置いたのは、封蝋された薄い封筒と小さな金属板だった。封筒にはギルド本部の監査記録課が使う印。金属板の方には見慣れない番号と簡単な術式が刻まれている。
「封筒は報告書。そっちの板はカイ君の臨時の身分証だって。偽造じゃなくて、監査記録課の協力員として正式に発行されたもの」
「子供を協力員扱いにするのかよ」
「仕方ないじゃない。保護対象なんて明け透けに言ってたらそのうち目を付けられるわ。それなら才能を見出された天才児、くらいの方がまだ良いわ」
確かに、貴族の養子を保護して逃げ回ってます、なんてバカ正直に言ってたら即バレも良いところだ。ギルドの調査に同行している子供、くらいなら多少怪しまれても押し通せる。
金属板にはカイの情報が最低限だけ登録されているらしい。読み取り用の魔道具に通せば本物だと確認できるが、詳しい所属までは表示されない。
ま、そもそもカイ自身の情報を俺達はまだまだ知らないしな。これで各地のギルドにも出入りがしやすくなったってもんだ。
良いもんを用意してくれたな。監査記録課は俺が思っているより遥かに本気らしい。
「それで、ギルドと『天律聖教』の話は?」
「表向きはまだ何も。異端審問庁は存在しない部署だから、正式な抗議を出そうにも相手がいないのよ」
「面倒くせぇ組織だな」
「でも、セイルがギルド管理下の特殊スキル保持者だってことは教会側も理解しているわ。勝手に拘束すれば、ギルドとの関係が拗れる。それを嫌う人達も教会の中にはいるみたい。身元が割れてないのはラッキーね。おかげで向こうもやたらめったらに詮索出来ないから組織的にはお互い二の足を踏んでるって感じ」
つまり、異端審問庁が好き勝手出来るわけでもない。当面、イリス・クロウベルって名乗った異端審問官が出会った俺と、探索者セイル・ノクティスがイコールで繋がることは無さそうだ
このまま出来るだけ隠し通したいもんだが、それがどうなるかは神のみぞ知るってやつだな。
俺が腕を組んで考えていると、リリアが今度は地図を広げた。
「当面の目的地はここ。南部平原の北西にある交易町、ワインヒル。監査記録課の連絡所があるし、人の出入りが多いから紛れやすい」
「王都からは?」
「街道を使えば近い。でも、私達は外れ道を使う。途中に小さな集落が幾つかあるから、補給もしやすい」
悪くない案だ。人が少なすぎれば余所者は目立つ。多すぎれば追手も紛れ込む。交易町くらいが一番都合が良い。
「で、リリアはどこまで一緒に来るんだ?」
俺が聞くと、リリアは心底呆れたように眉を寄せた。
「どこまでって、最後までに決まってるでしょ」
「ん?」
思っても無かったセリフに思わず俺は首を傾げる。ミリアさんからは事情を知る味方を増やして置きましょうとまでは言われていたんだが、こっちとしては大きく巻き込むつもりもなかった。
何せ相手が相手だからな。そう簡単に巻き込むわけにもいかない。だから俺はてっきり、一時的なフォローや物資の供給だと思っていたんだが……。
「何その顔。まさか、案内だけして帰ると思ってたの?」
「いや、だってお前。ここ最近はどうしてたんだよ。他にパーティー組んでるんじゃないのか?」
「今さら別のパーティーなんてごめんよ。ミリアさんからの話が来るまで、実家に戻って稼業を手伝ってたの。だから、気にしなくて良いわ」
いや、気にするだろ。
よく見れば、リリアの脇には新調された旅用の大きな背負い鞄が置かれている。着替えに魔法触媒、野営道具まで一通り入っているんだろう。
口だけで付いて来ると言っているわけじゃない。本当に、俺達と同じ生活をする準備を全部済ませて来たらしい。
俺が何を言っても変えるつもりが無い顔だ。昔からコイツはこうだった。普段は騒がしいくせに、一度決めたら絶対に曲げない。無茶を止める側に見えて、いざとなると一番思い切りが良いのもコイツだった。
「迷惑じゃ、ないんですか?」
カイが恐る恐る口を挟む。心配性のカイからすれば、自分のせいで俺の仲間が面倒ごとに巻き込まれて行くわけだから、不安にもなるか。
それを見てリリアは椅子から立ち上がると、カイの前まで歩いてしゃがみ込んだ。
「迷惑かどうかを決めるのは私。私は君を助けたいし、このバカを一人にすると無茶するから付いて行く。それで良い?」
「……はい」
「よし。じゃあ決まり!!」
リリアは笑ってカイの頭を撫でる。
全く。勝手なヤツだよ。
だが、胸の奥にあった重石が少し軽くなったことだけは否定できなかった。
仲間が増えたから安全になる、なんて単純な話じゃない。守る相手も、失うかも知れない相手も増える。
それでも、一人で背負うよりは仲間がいた方が安心できる。これは人間の心理だ。
「また頼む」
「えぇ、もちろん」
そう言って俺とリリアは固く握手を交わす。かつて袂を別ったっと思っていた仲間が再び一緒にいてくれるのはあまりにも心強かった。




