逃亡劇の始まり
「『天律聖教』と異端審問庁についてはまぁ一旦後で考えるとして、問題はあの女だ」
「結構大きな問題だと思いますけど?」
「デカすぎるんだよ。俺の頭だけじゃ足りない。ミリアさんにも報告して、そっちの対策も考えてもらわないとな」
異端審問庁は俺のスキル『ディバインシフター』を異端と判断して捕らえようとしたわけだが、そもそも俺はギルド本部から監視対象。一応、秘密裏にって体裁でギルドが直轄して監視と管理をしている探索者だ。
つまり監視対象ではあるものの、ギルドに正式に所属している探索者だ。
ギルド側からすれば、監視と管理をしている正式な探索者を横からちゃちゃを入れられることを快く思わないだろう。
絶対に『天律聖教』とギルドでひと悶着起きる。ギルマスでもあるババアはそういうタイプだ。
一応、教え子だしな俺。ババアは口は悪いが義理人情に厚い。この手の組織同士の揉め事は絶対に動く。
というか、動いてもらわないと困る。頼むから動いてくれ。
「目下の問題はあの女の魔眼だ」
「まがん?」
「目に宿る特殊なスキルの総称さ。目で見ることで色んな能力を発動させることが出来るんだ」
『天律聖教』と異端審問庁による茶々入れに関しては組織同士の揉め事として対処してもらうとして、俺にとっての一番面倒な案件はあの女の魔眼そのものだ。
あの魔眼、俺の予想が正しければ『ディバインシフター』にとってはた迷惑なほどにクリティカルな能力を持っている。
「看破系のスキルとはな。全く、嫌な奴に見つかったもんだ」
「かんぱ……」
「あぁ、悪い。難しい言葉ばっか使ったよな。アイツのメインスキルの魔眼は恐らく、見破ったり探したりすることに特化した魔眼なんだ」
まだ8歳のカイにはムズイ言葉ばっか使って、ポカンとさせちまったな。この辺の話はどうしたって専門用語だらけになっちまうからな。
説明するのも一苦労だ。
ま、魔眼のスキル持ちの大半はこの看破系のスキルだ。見ることで発動するからな。対象の何かを把握する、見破る能力は全て看破系に数えられるから、視界に収めることが発動条件の魔眼とは相性が良いってワケだ。
「じゃあ、セイルさんの変身は見破られちゃった、ってことですか?」
「それがそうでもないんだよな。恐らく、アイツは俺が本当は男で女神の姿に変身しているってことには気が付いていないだろう」
戦っている時、アイツは俺が『ディバインシフター』の出力を上げた時に、神秘の力が増した。と表現した。
これが具体的に何を指すのかは魔眼を介して俺を見ているアイツにしか分からないが、多分表出した女神の力のことを言っているんだろう。
これから察するにアイツの魔眼は魔力以外の力を視覚化して認知する能力。それを神秘の力と表現しているのなら、俺が変身していると言うことを見破り、認知している訳じゃないってことになる。
その証拠に俺が女だってことを疑ってなかったっぽい雰囲気あったしな。男だと分かってたら、顔見た時点でなんかもうちょっとリアクションあるだろ。いくら表情が動かないように訓練されてる異端審問庁の所属だとしてもよ。
「あ、だから変身を解除したんですか?」
「そういうことだ。アレは『ディバインシフター』で変身した女神の姿に反応しているからな」
『ディバインシフター』は何度も言うように女神に変身するスキル。
アイツが女神の力を視覚化して認識出来る能力を持っていたとしても、それは『ディバインシフター』が発動していればの話。
発動してない時の俺は、あくまでごく普通の人間の男だ。
変身を止めちまえば、アイツは魔眼で追うことは出来ない。
「それに魔眼には明確な弱点が一つある」
「見えてないとスキルが発動しない、ですか?」
流石、察しが良いな。魔眼は視界に依存するスキルだ。基本的に対象を目視出来ないとスキルが発動しない。
煙幕程度ならある程度は貫通することもあるだろうが、それでもその精度は平時よりも著しく落ちるのは確実。
だから、魔眼を持つ相手と戦う時は視界を遮ることが最も有効になる。魔眼持ちは基本的にそれを軸に戦略を立てるしな。
ま、それが出来れば苦労しないってヤツだが。魔眼持ちだって対策は当然して当たり前。
だからアイツも人通りが少なく、障害物も少ない裏路地で攻撃を仕掛けてきたってワケ。
それだけで障害物も人混みもない場所なら魔眼の通りは良いからな。
「問題は変身を解いて人混みの中を歩くのがリスクって点だ」
「もしベルゼルド卿の息がかかった人がいたら、それでお終いですもんね」
「そういうこと。ちと面倒だが、ここで夜になるまで時間を潰すしかないな」
幸い、時間は夕暮れ時。夜になるまではそんなに時間がかからない。完全に夜になったら、宿に戻って作戦会議だな。




