暗躍
セイルとカイが南の港町『ソレイユ』にて『天律聖教』異端審問庁の審問官、イリス・クロウベルと接触、戦闘を行ってから数日後。
彼女の姿は王都アストリアにあった。
「……」
修道女風の衣装を身にまとい、馬車に揺れる彼女の行く先は彼女が所属している『天律聖教』。
その本部。いや、総本山などと表現した方が正しいだろうか。
少なくとも、大きく絢爛な建物が並ぶアストリア王国の王都の中でも目を引く2つの建物。
一つは当然、幾つもの尖塔が並ぶアストリア王国の王城であるが、それに迫る程の巨大なドームを持つ大聖堂こそが、『天律聖教』の総本山。
ルーメン・アルヴェリオス大聖堂である。
『天律聖教』の主神にして唯一神『アルヴェリオス』の名を唯一冠する大聖堂は『天律聖教』を信奉する信者にとって、いつかは訪れたい場所の一つだ。
その中にはイリス・クロウベルが在籍する異端審問庁も存在する。
『天律聖教』の闇の部分でもある異端審問庁は当然ながら、表向きにはそう見えないようにカモフラージュされている。
イリス・クロウベルが暗殺などには向かない修道女風の衣装を着ているのはまさにそのような理由だ。
彼女達はあくまで体面上ではただの修道女や神父、牧師などでその正しい役職や異端審問庁が明確に存在する証拠などは『天律聖教』に所属しているごく一般的な信徒。
それどころか中位程度の神父ですら、その存在を正しく認識していることはない。
異端審問庁の存在と運用をしているのは『天律聖教』の中でもごく一部。簡単に言えば――。
「失礼いたします」
『天律聖教』の中でも最上位の立場にいる人物達だ。
「ご報告に上がりました。『ベルゼルト枢律卿』」
イリス・クロウベルが入った部屋。そこにいたのはレガリアス・ベルゼルト。セイルやカイがベルゼルト卿と呼んでいる人物その人がその一室にある豪奢な椅子に腰かけていた。
40代ほどの男性。体格が良く、肩幅も身長もある大柄な男性だ。うねりのある銀髪をかき上げ、薄く皴の入った額が出ている。
何より特徴的なのは人を射抜くような金色の眼光。細く鋭い目から覗く金色がその冷たさが強調されている。
「よく戻った。イリス・クロウベル。簡単な話は聞いているよ」
「はい。『女神の器』と思われる人物を発見しましたが、逃げられました」
片膝をつき、頭を垂れ、許しを請うようにイリス・クロウベルが言葉を絞り出す。その内容にベルゼルト卿は表情を綻ばせることも無く、怒りを滲ませることも無く。
ただただ無表情でイリス・クロウベルを見つめ返す。
「構わん。長年探し続けた中でようやくまともな情報を手に入れられた。まずはそれを喜ぶとしよう。よって、今回の君の失敗は不問とする」
「ありがとうございます」
「君には『女神の器』の捜索を再度依頼する。次は頼むよ」
「はっ!!」
ベルゼルト卿に新たな命令を受け、イリス・クロウベルは素早く退室する。その様子からも2人の関係には明確な上下関係があることが伺える。
イリス・クロウベルが退室するのを見届けてから、ベルゼルト卿はゆっくりと立ち上がり部屋をぐるりと一周回ってから、窓の外から天を見上げる。
「ようやく見つけた」
そうして、能面のような表情が初めて綻ぶ。口角だけが上がる、歪にも見える笑み。
「我らが『女神の器』に、勇者になり得る才能。どちらも、必ず手に入れる」
何を映しているのか分からない金色の瞳の先には何が見えているのだろうか。
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