逃亡劇の始まり
チンピラ三人を撃退した翌日。俺達は改めてソレイユの街の把握や店の場所を確認しながら、必要な物資を買い集めていた。
大方の物は昨日訪れた蒼月商会で買えたから、今日のメインは街の把握と保存食以外の食料ともっと細々とした品の調達だな。
例を挙げれば薬とかは街の薬屋に言った方が種類も豊富だ。魔物は毒を扱う奴も多いし、怪我を治療するポーションの類は最低限持っておかねぇと。
「オリエンスとは様子は違うか?」
「はい。こっちの方が活気があります。あっちはどっちかと言うと騎士や司教さんが多くて、こんなにお店と人はいなかったです」
「あー、『ブルーリオン騎士団』の本拠地も近いしな」
カイの故郷、暁の港『オリエンス』と同じ港町である『ソレイユ』。その違いはどうやら明確らしい。
どっちかと言うとソレイユは俺達が出会った西の港町『エスメラルダ』と雰囲気が似ているんだろうなと予想する。
エスメラルダは規模こそ小さいが商業が盛んな方だった。南のソレイユはアストレア王国でも最大の港町。活気はエスメラルダの数倍だ。
東の港町であるオリエンスも同じようなモノなのかと聞くとオリエンスはそれらとは随分と雰囲気が違うらしい。
その差はやっぱ勇者伝説の残る『勇士の山脈』の近くだってことが関係しているんだろう。アストレア王国の国教『天律聖教』も王国の治安を守る『ブルーリオン騎士団』。そのどちらも勇者伝説に大きな影響を受けている組織だからな。
その傍にあるオリエンスは商業都市ってよりは王都に近い雰囲気があるんだろう。一般人が経済を回しているんじゃなくて、権力者や金持ちが経済を回している街ってワケだ。
「父ちゃんと母ちゃんは何をしている人だったんだ?」
「お父さんとお母さんですか? お父さんは漁師でした。街のレストランに魚をおろしているって言ってました」
「母ちゃんはその手伝いか」
「だと思います。お母さんは一緒に家にいましたけど、お父さんの手伝いもしていたので」
カイの両親は漁師、っと。覚えておいてミリアさんに情報提供をしねぇとな、と思いながらソレイユの街並にも目を通していく。
そんなに複雑な街の構造はしていない。流通の弁を考慮した街の造りだな。造り的にはエスメラルダの方が複雑で道が入り組んでた。
ソレイユの街は大体運河で街の区画が区切られていて、それにそって人が通る道もあるって感じだ。
大きな街だが、覚えること自体はそこまで不便しないからありがたいもんだ。
「セイルさんの生まれ故郷のミネルヴァってどのへんなんですか?」
「んー、ちょうど南部と西部の間くらいだな。一応遠くに『勇士の山脈』が見えたな」
「へぇ、僕も行ってみたいです!! 工業と鍛冶が盛んなんですよね。見たことないのが沢山あるんだろうなぁ」
「代わりにガラクタも多いけどな。変な奴が多い街なんだ」
ミネルヴァほど偏屈というか変人たちが集まっている街もそう無い。そこで生まれたお前はじゃあどうなんだと言われると弱いが、あそこは間違いなく王国屈指の変人の街だ。
職人気質のヤツが集まった場所だからな。近くに鉱山も豊富だから、鉱夫と職人っていう聞くからに頑固で偏屈な連中しかいないだろ?
カイからすれば、好奇心を刺激されて良いんだろうが今行くのはな。セイル・ノクティスを追っているベルゼルド卿からすれば俺の実家は真っ先にマークしている場所のハズ。
直接手出しをしようもんなら、あの街は仲間意識も強いから街全体で平然と貴族様だろうと叩き出すだろうが、だからといって今のタイミングで顔を出すのはちょっとな。
両親にもカイにも危険すぎる。顔を出せるなら事が全部落ち着いてから、だな。
それよりも気になることが一件あるんだよな。今のところカイには悟らせないようにしているが、宿屋を出てからしばらくしてから俺も気が付いたことだ。
「さて、どうしたもんか」
「セイルさん?」
「そのまま聞け。誰かが付けて来てる」
俺達のことをずっと付け回っている妙な輩が1人いる。遠巻きな上にちゃんと視界に捉えたわけじゃないから正確な人相まではわからんが、確実に1人いる。
また厄介ごとかよ。ちっと連続し過ぎなんじゃねぇか?




