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便利屋セイルは女神にならない ~使うほど身体が侵食される女神変身スキルで、訳あり少年を守る話~  作者: 伊崎詩音
逃亡劇の始まり

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逃亡劇の始まり


「このアマぁ……。俺を投げ飛ばすとは良い度胸だ」


「泣いて謝っても許さねぇぞ」


「ボコボコにした後に可愛がってやるよ!!」


なんだってこの手合いの輩は投げ飛ばされた後も勝てるつもりでいるんだろうな。

それを理解する頭が無いって言われればそれまでなんだが、はた目から見て体格差があるのに投げ飛ばされた時点で相手が格上なのは考えなくても分かる気がするんだが。


ま、何にせよ連中はやる気満々だ。3対1ってのも考えると店の中でやるのはあまり得策じゃない。

既にテーブル一個ぶっ壊してるしな。これ以上派手にやると俺まで店から出禁にされそうだ。ここは店の外まで誘導して、外でボコボコにするのが良いだろ。


「待ちやがれ!!」


判断したのなら即行動。店の外までカイを抱えて一気に走り出す。ちんたらしてると囲まれて動けなくなるし、カイも危ないしな。

そういう意味でも広いところでやった方が都合が良い。


風を通すための窓から飛び出して、外の通りへと躍り出る。


通り縋りのご婦人から驚きの悲鳴が上がるが、それをかき消すようにチンピラ三人が店から大声を上げながら出てくるんだから、ご婦人の悲鳴は更に一段階上がる。


「鬼ごっこか? 良いぜ、ちょっとずついたぶるのも面白そうだ」


「いひひひ、いくらでも遊んでやるよ」


「ガキとも遊んでやるよ。サンドバッグだけどなぁ?」


ナイフやメリケンサックといった携行性の高い武器を取りだしたチンピラ連中。ったく、ホントろくでなしだな。

言動全部がクズそのもので怒りよりも呆れが来るぜ。よくそんなしょうもない性格に育ったもんだ。何を食ったらそうなるのか、教えて欲しいもんだ。


じりじりと距離を詰めて来る三人のチンピラと後ろに隠れているカイ。そして運悪く巻き込んじまったご婦人が後ろで悲鳴を上げながら縮こまっている。


ちょうど店の前はソレイユの街の運輸網の要になっている運河だ。見てくれは背水の陣ってヤツだが……。俺にとってもありがたい要素だ。さっさとケリを付けられる。


「あんま抵抗すんなよ。傷物にし過ぎちまうとこっちも萎えちまうからよぉ!!」


ナイフを振りかざして突っ込んできたチンピラ一号。ナイフにしては大振りのそれはまともに受けたら大怪我だが、こちとら何度も死線を潜り抜けたベテラン探索者。


この程度の質の悪い突撃行為なんて遅すぎて欠伸が出る。


まずは得物であるナイフをどうにかしたいんだが、体格差があるからこのままじゃ届かない。魔法は街中なので当然NG。

だから逆に懐に一歩踏み込んでナイフの刃の有効攻撃圏内から外れる。


振り下ろして来たナイフを握りしめる手に思いっきり掌底。握りの甘くなった手を掴んで引き寄せて肘で更に蹴るとナイフが手から零れて行く。


そのまま体勢を崩したチンピラ一号をまた投げ飛ばして二号三号へとお返しする。


「おばさま。今のウチに」


「あ、アンタも逃げるんだよ!!」


「私は大丈夫です。さ、早く」


後ろで震えていたご婦人に逃げるように促すと私達も一緒に逃げるように言ってくれる。心優しい方だなとも思うが、ここは逃げてもらうのが先。

問題無いことを伝え、背中を押して逃げるように促すと心配そうな顔をしながら駆け出して行った。


よし、これで不安材料は無くなったな。


「いつつ……。この、もう容赦しねぇぞ!!」


「顔面がどうなろうと知ったこっちゃねぇ!!」


「ボコボコにして奴隷商に売りつけてやるよ!!」


おい、顔面ボコボコにしたら奴隷商に売りつける時に価値下がるだろ。バカなのかお前ら。


なんて冗談はさておき、そんなのはただの嘘っぱちだから気にも留めない。この国の奴隷制度は厳格だからな。

奴隷商も資格制だし、国からの細かい監査も入る。奴隷にも千差万別あるが、ボコボコにされた女子供を連れて来ようものなら捕まるのはお前らだよバカたれども。


この後、飛びかかって来たチンピラ三人を運河に沈めて、騒動は一件落着。


店に戻ると見物していた客達からは拍手喝采を受けた。どうにも最近居着いた厄介者だったらしく。

美女に良いように遊ばれるアイツらを見て清々したみたいだ。


「……」


客から奢り絡まれる俺達とそれを見ていた1人の女が、ニヤリと口角を上げていたのを俺達は気が付かなかった。


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