逃亡劇の始まり
さて、突然だが女神の姿ってのは色々と便利だ。やっぱ美人ってだけで色々と利に働く。
例えば店で買い物していると割引やオマケをしてくれる率が高かったり、親切にしてくれる人が増えたり。
目つきの悪い本当の俺の姿だと、中々こうはいかない。人間は見た目が大事とは言われるが、俺はまさにそれを身をもって理解している存在ってのもそういないんじゃないか?
だが、物事ってのは何でも一長一短。良い面があれば悪い面もある。
この見た目が分かりやすく美人な女神の姿の最大の欠点は。
「なぁなぁ姉ちゃん。俺らと遊ぼうぜ」
「良いだろ? 金なら出すからよ」
この手合いの輩が寄って来やすい、って点だ。
見るからにガラの悪そうなチンピラ、と言った体の連中が合計3人。俺とカイを取り囲むようにして勝手に陣取っている。
こいつ等は店に入って来たと思ったらずかずかとこっちに寄って来て、コレだ。心底迷惑で美味かった飯が途端に最悪になった。
カイもすっかり萎縮しちまって、さっきまで美味そうに食っていた料理に一つも手が付いていない。
「カイ、料理が冷めちゃうから食べちゃいなさい」
「でも……」
「大丈夫。気にしなくて良いわ」
見るからにチンピラと分かる風体の野郎三人に囲まれちゃ誰だって萎縮する。カイみたいな子供ならなおのこと。
それでも、飯が冷えて美味しくなくなるのはナンセンスだ。
そもそもに、こんな連中はいないのと同じと考えて良い。基本的に無視だ。いてもいなくても誰も困らない。
なんならいない方が助かるくらいの連中のことなんて視界に映ってもいないものとして扱うのが適切だ。
それはそれとして、店の方で何も動いてくれないのも困ったもんだがな。
もしかすると、この辺でヤンチャしまくっているろくでなしなのかもな。誰も手を付けられなくて、困ってるって雰囲気は若干感じる。
ギルドもこの手合いにはあんまり干渉しないしな。依頼があればまた別なんだが。
『ブルーリオン騎士団』もこの程度のチンピラ相手にするのは後回しになりがちだ。もっとヤバい手合いなんて山ほどいるしな。
街で小さな暴力沙汰を幾つも起こして、周りから敬遠されているのを自分達が何をしても誰も文句を言えないんだと勘違いしているバカ、ってワケだ。
「おいおい、無視は酷いんじゃねぇか?」
「何とか言えよ」
「口が汚れてるわ。もう少しゆっくり食べましょうね」
俺の方は連中をガン無視決め込んで、カイの世話を焼いておく。カイはカイでこの状況に緊張しているのか、口に入りきらないくらいの量を詰め込んでいる。
まるでリスだな。ちょっとおかしくて笑いそうになるのを堪えながら、口元を拭いてやると連中の内の1人が我慢しきれなくなったのかテーブルを殴りつけた。
「無視してんじゃねぇぞアマぁ」
凄んで来るがこれも無視。こうやって大きな音を立てて威圧してくるのが大したことが無い連中だってことの証拠だってのを分かってねぇんだよな。
本当に強い奴ってのは静かなもんだ。デカい音で騒いで威圧するのは猿でも出来ることだぜ。
「テメェ……!!」
完全に眼中に無いという姿勢を示されて、プライドが傷ついたんだろう。今までは威圧すればリアクションが返って来た。
それこそ、その辺の町娘なんてデカい声で威圧すればそれだけで怯えて震えてしまう。
こいつらはそうやって色々好き勝手やって来たんだろうが、相手が悪かったな。
我慢出来なくなったチンピラの1人が俺の手首を掴んだ瞬間、そいつの身体の上下が入れ替わった。
理由は単純。俺が投げた、それだけだ。近くの空きテーブルまで吹き飛ばされて周囲の空気がガラリと変わる。
当然、チンピラ連中の雰囲気もな。
「はぁ、カイ。こっちに来て」
「は、はい!!」
カイに手を出される前に近くに引き寄せる。頭の回転と切り替えはカイの方が早い辺り、こいつ等の質ってのも分かるもんだ。




