逃亡劇の始まり
サブスキルを持てない。固有スキルは隠さなきゃいけない。そうなると、俺が周囲にどう映るかって言うと、自分の持っているスキルすら十分に扱えない無能か、スキルを持っていない無能力者に見える。
学生の頃はこれで随分苦労したもんだ。そもそも入学当初は『ディバインシフター』がどんなスキルなのかすらわからなかったからな。
アレコレ試して、やっとこさ使えるようになったと思ったら、俺らに目を掛けてくれたババァ。
今のギルドのトップであるギルドマスターに『ディバインシフター』を人前で使うなって言われたりな。
「……セイルさん?」
「おっと、悪い。ちょっと昔のことを思い出しててな」
『ディバインシフター』には良くも悪くも振り回されてばかりだ。卒業してからの方が随分気楽になったな。
魔物と戦う時は事情を知っている身内しか周りにいないしな。
そんな昔のことを思い出しているとカイが何かあったのかと覗き込んで来ていた。
おっさんの苦労話なんて子供に聞かせるもんじゃない。ただでさえ、カイは色々と気を使い過ぎる。
なおさら聞かせるもんじゃない。カイが委縮しちまうよ。コイツには今まで理不尽な目にあってた分、伸び伸びと生きてて欲しい。
「お待たせいたしました。角兎の香草焼きと火鶏の串焼きでーす」
「お、来た来た」
「わぁ」
話題を区切るにはちょうど良く、料理が運ばれて来る。注文したのはまぁ、定番の料理ってところだな。
初めて来た店だったら、この手のリーズナブルで定番の料理の味の良し悪しが店全体の味の良し悪しの基準になる。
そこまで長期滞在をするつもりは無いが、美味い飯の店は探して置いた方が良いってもんよ。
飯が不味いとそれだけでやる気が下がるからな。
「はふっ、はふ」
「火傷すんなよ」
鉄板の上で跳ねる脂。その源泉である肉にナイフを入れて、早速頬張るカイに火傷だけはしないように注意しながら、俺も火鶏の串焼きを口にする。
うん、美味い。当たりの店だな。肉はジューシーで柔らかいし、塩っ気の塩梅も良い。
フライパンで焼いたりとか、魔力バーナーで炙っただけのヤツじゃない。炭火でじっくり焼いて、炭に落ちた脂から立ち昇った煙に燻されないと出ない香りだ。
串焼きはこの香りが無きゃな。ここの店主は分かってるな。
「美味しいです!!」
「そら良かった」
香草焼きをもぐもぐと食べ、次にパンを頬張って飲み込んでから水を飲む。良い食いっぷりだ。
エスメラルダにいた時は遠慮していたんだが、良い感じに遠慮しなくなって来たな。
つい先日の話なんだがな。この逃亡劇が逆にカイの俺への信用度というか、信頼度というか。
甘えるとは違うが、色々な表情を見せてくれるようになったのは本当に良いことだ。
このまま何事も無く行ければ良いんだが、まぁそうは上手くは行かないだろう。
「そんなに急いで食わなくても平気だ。てか、俺の分残しておけよ」
「あ」
残り1/3切れになったところで俺が香草焼きを一口も食っていないことに気が付いたらしい。
美味かったのなら別に良い。好きに食え。俺が笑いながら言うと、おずおずと随分と食われた香草焼きの鉄板を差し出して来た。
それがまた面白くて俺はクスクスと声を殺して笑う。この女神の姿じゃ大声上げて笑うのも見合わないからこうしてお上品に笑うしかないのが。ホントこのスキルはめんどくさい。
それが板についてるのも、なんだかな。ホントに。
「こんなことで怒らねぇって。串焼きも食うか?」
「……食べます」
正直でよろしい。食べ盛りなんだから腹がはちきれるまで食え食え。
味の良し悪しも分かったし、俺は追加の注文もしてしっかり腹を満たすとする。ホントだったら酒も飲むんだが、カイがいるうちはそれも無しだな。




