逃亡劇の始まり
買い込んだ荷物を軽く整理して、カイの装備の調整に入る。
ま、やることはそんな難しくない。カイに一旦一通り身に付けてもらって、体格に合わない所を切った貼ったして調整する、そのくらいだ。
「……そんなまじまじと見られると流石に緊張するな」
「す、すみません!!」
「いや、別に良いんだけどよ。図鑑読んでても良いんだぜ? 地味だろ?」
「そんなころないです!! 凄いなぁ、って思ってみてました」
最初にやったのはブーツの調整だ。サイズ的には問題ないモノを買ったが、これは確か小人族向けの商品だったはず。
人間族のこどもであるカイと、小人族の大人とでは足の形。特に足裏の形が違うだろうから、その辺の調整だな。
今後は歩きでの長距離移動だって十分あり得る。乗合い馬車を使うにしろなんにしろ、歩かないなんてことも無いしな。
そうなると、足元の調子ってのは最優先だ。ブーツ1つでもこの足のコンディションってのはかなり差が出る。
これが最適だったら、脚に来る疲労感がまるで違う。特にブーツは重いからな。この調整はめちゃくちゃ重要だ。
一から作る本職には及ばないかも知れないが、既製品の加工くらいなら問題ない。
とりあえず、こんなもんかと判断してカイに履いてもらう。本人は大丈夫そうだと言っているが、さらに細かい調整は明日長距離歩いてみてからだな。
他にもカイに持たせるポーチやバックの紐の調整、グローブ、マントの調整をして大体かな。
そんなことをしているとあっという間に夜。
夕食を取るためにホテルを出て、近場のレストランを探して適当に入った。
「セイルさんは本当に器用ですよね」
「まぁ、自分で言うのもあれだが、手先は器用な方だな」
ガキの頃からガラクタ弄りばかりして来たし、小賢しく頭も回る方なもんだから大人相手にモ平然と口でやり合って来たしな。
色々と器用な方だって自覚はある。専門家には負けるが、一般人には負けない。広く浅くって言うのかな。
技術的にはそんなところだろう。人間関係についてはまぁ自分を誤魔化すのは得意だろうな。
なんせこんなスキルだ。猫を被るのはなんてことは無い。恥だのなんだの言ってたらやってられないしな。
下手に勘繰られたら厄介ごとでそれこそ何も出来なくなる。
そのためには自分を偽って、取り繕ったりするのは上手くなれなきゃダメだったな。
「なんでも出来て凄いなぁって思います」
「なんでもって、そりゃ買いかぶり過ぎだ。俺にも出来ないことは山とあるよ」
「そうなんですか?」
「そうさ」
なんでも出来る、と俺を評価するカイに俺は笑いながら訂正する。子供のカイからすれば、確かに器用で一通りのことは自分でやっちまう俺は何でも出来るように見えるんだろうがな。
実際は逆だ。なんでも出来る器用貧乏にならなきゃ、俺は俺としての地位を確立出来なかった。こうなるしかなかったんだ。
何せ、俺のスキルは『ディバインシフター』だけだからな。
本来、スキルってのは複数あるんだ。個人が1つ保有する固有スキル。それ以外のサブスキルが3つまで。
最大4つのスキルを持つことが出来る。実際に4つまで持てるのはごく一部の限られた連中だけだ。
騎士団の士官クラスや、上位の探索者、著名な学者、優れた職人なんかは最大数のスキルを保有していることが大半だな。
対して俺は『ディバインシフター』しかない。一般的にはそのへんにいる普通の人ですらサブのスキルは1つ持っているっていうのに俺はそれを一つも持っていない。
恐らくは『ディバインシフター』が特殊過ぎる代償、あるいは『ディバインシフター』がサブスキルの取得する余裕まで奪っているんだろうな。
だから俺はこの扱いにくい『ディバインシフター』というスキル一つしかない。それが何を意味するのかは中々理解されないかもな。
「いつか必ず、カイは俺より上手く出来るようになるモノがあるぜ」
「そう、ですか?」
「あぁ、今はまだ俺の方が何でも出来るが、そうだな。あと6年もしたら何かで俺はお前より劣るところが出てくるよ」
個人の差、と言えばその通りだ。いつかどこかで自分と誰かは差が付く。その差を上手く使って人は生きて行くわけだが、この世界ではその差がスキルだ。
それが本当に重い。それに気が付ける人はこの世界に何人くらいいるんだろうな。




