逃亡劇の始まり
「初日から買い込んだな」
「いっぱいですね」
結局、ソレイユの街の探索は殆ど進まなかった。というか、進めなかった。あの店『蒼月商会』の品揃えとその質の高さにしっかりきっかり買い込んじまったからだ。
まさか初日にここまで揃うとはな。1週間くらいはかけるつもりでいたんだが、良い出会いをしたぜ。
「カイも色々買い込めて良かったな」
「はい。あのお爺さん、たくさんオマケしてくれたので今から読むのが楽しみです」
俺の買い物もだが、カイの物もかなり買い込んだ。何せ、俺用の旅の装備はあってもカイの装備は無かったからな。
子供向けの装備ってのは大人向けの物より数が少ない。大抵は特注になるのも考えていた。
だがあの店にはその辺りの物も揃っていた。実際は子供用じゃなくて女性用や小人族用の品だとは思うんだが、カイが使うにはちょうどいいサイズ感だ。
何よりカイが喜んだのは図鑑なんかの書物類だ。旅の邪魔にならないように造りは簡素だし、情報は最小限の記載しかないが、知っていると知っていないでは大きな違いがある。
好奇心旺盛なカイにとってこれ以上に嬉しい物もそう無いだろう。古書だから、とタダ同然でオマケをしてくれたのもありがたい。
他にも長距離の移動にも耐えられるブーツや外套。グローブ。防寒具の類なんかの基礎的な装備を整えた。
多少調整は必要だが、その辺りは俺の腕の見せ所だな。『便利屋セイル』の名は伊達じゃないってところ見せないとな。
「他にも色々買っていましたけど、どういうモノなんですか?」
「ほとんどは消耗品さ。携帯食料とか燃料とか、ロープ、ナイフ。この辺の詳細な地図とかな」
「どれも必需品、なんですよね?」
「だな。特にロープとナイフは絶対にあった方が良い。あらゆる場面でこいつ等さえあれば何とかなる」
他にも便利な物はあるが、探索者にとってこの二つはどんな時でも持っておくべき必需品だ。
使わない場面も多いが、いざとなった時にこいつ等があるか無いかでまるで違う。
例えば、誤って遭難してしまった場合。ロープは拠点の設営、魔物接近を知らせる罠の設置、解きほぐせば火種にも使える。
石を括りつけて振り回せば武器にもなるし、大きなモノを運ぶときにも有用だ。
ナイフは調理から加工、いざという時の最低限の武器になる。
ぱっと考えるだけでもコレだ。二つとも現地調達しようとするとほぼ無理に近いし、その器用万能さから、使わなくても念のために持っておくべき必需品だってことは探索者を続けていれば嫌でも理解させらるな。
「その辺についても今度教えてやるよ。いざという時ってのは想定しなきゃいけねえからな」
「いざという時……」
暗くなるカイの表情を見て、今のは失言だったかと理解する。俺からすれば、ありとあらゆる状況に対応出来るように準備しておくのは当たり前のことだが、子供のカイからするといざという時、ということは俺に何かあった時ってことだ。
今、カイにとって頼れる大人はあまりにも少ない。それを失う可能性をチラつかせるのは良くねぇよな。
「言い方が悪かったな。男なら、自分で出来ることは多い方が良い。知っているか知っていないか、出来るか出来ないかで守れるモノが変わって来るからな」
「守れるモノ、ですか」
「あぁ、自分の命、友達の命、家族の命。帰る家とか、色々あるな。知らない出来ないじゃ、自分の命も守れないが、知ってれば結果を変えられる。出来れば嫌な結果を跳ね除けられる。そのためには沢山勉強して、経験しないとな」
いなくなった時じゃなくて、いなくならないために自分が何を出来るか。そっちの方が建設的でポジティブだ。
こういう気配りもしなきゃいけないんだな。保護者ってのは大変なもんだぜ。
「……はい!! 僕、頑張ります!!」
「ははは、その意気だ。まずは荷物整理して、お前の装備を調整しないとな」
言い方一つで受け取り方を変えることが出来たカイは、やる気に満ちた顔つきでハキハキと返事をしていた。




