逃亡劇の始まり
「わぁ……!!」
隣では大人しくしていたカイが目を輝かせていた。こういう店は入ったことが無いだろうな。専門店の類だし、出入りしているのは屈強な探索者や航海士、学者なんかのハズ。
子供を連れて買い物に来るような場所じゃないのは間違いない。それでいて、子供にとってはまさに憧れの場所でもあるだろう。
自分達が触ったら大人達に怒られる、本物の仕事道具ってのはいつだって子供の憧れだからな。
扱い1つ間違えれば大怪我をするような物や、高価な物も多いからな。触らせてやりたくても、触らせるわけにはいかない。
中にはその道具で飯を食っている人だっているわけだしな。
「悪戯するなよ、坊主?」
「は、はい!!」
「良い子だ。飴をやろう」
カウンターに引っ込んだ爺さんがカイの声を聞いて機嫌良さそうにしている。
自慢の店を無垢な子供に羨望の目で見られることはやっぱ気分が良いんだろう。何度も言うが子供に褒められたら大体の大人は気分が良いもんだからな。
カイに飴を渡して、アレコレと手に取って良さそうな物を並べているのを見て、俺もその横に並ぶとする。
「コイツは探索者に人気のバックパックだ。見た目より荷物が入るし、グレイトハイドボアの皮を使っていて耐久性にも優れている。ちょっとやそっとじゃ壊れないのがウリだな」
「魔導圧縮術式を使っているんですか?」
「ほう、難しいのを知っているな。残念だが、その手合いの物は使っていない。何故か分かるか?」
「何故か……? えーっと、食料品も入れるから?」
たくさん荷物が入ると聞いて、カイは昨日俺に教えてもらった魔導圧縮術式を使っているのかと質問した。
覚えたばかりの言葉を使いたいってのもあるだろうが、好奇心が旺盛なのが伺える。
知ることが好きなんだろう。未知の知識や経験に強い興味を持っていることがだいぶ分かって来た。
だからこそ、ベルゼルド卿の訓練方式はカイに取って最悪の方法だっただろうなとも思う。
カイは動いて覚えるタイプじゃなく、理屈から入るタイプだ。
剣の振り方一つにしても、とりあえず素振りしていろと言うよりは何故素振りが有効なのか、どの角度で振るのが適切か、そういうことを教えてからやらせるとぐんぐん伸びるだろうと、俺は感じる。
「正解だ。なんでバックパック型が人気なのかは、教えてもらうと良い」
「……バックパックは一般的に一番容量が大きいです。食料や水は移動距離にもよりますが、現地調達するとなると手間やリスクも孕みます。その不安要素を出来るだけ排除するためには必需品です。特に高難度の依頼を熟す上位の探索者にとってはバックパックは欠かせません」
「流石だ。坊主の母ちゃんは相当腕利きだな」
突然、話を振られて少し驚くが、自分が何故バックパックを使うのかを自分なりの理屈で説明してみる。
とにかく、バックパックのような大型の鞄は出来るだけ食料と水を詰め込む。
勿論、依頼に寄るけどな。高難度の依頼や、護衛の依頼とかになって来ると長期間の移動やキャンプ設営をする場合がある。
依頼の内容に合わせて、持ち物とそれに合わせた鞄のサイズを選ぶのが出来る探索者の必須スキルでもある。
最適な数や種類の道具や物資を用意出来れば出費も嵩まないしな。
「なんでもお見通しですね」
「客も品も目利きが重要だからな」
自慢げに笑う爺さん。こりゃ良い店に出会った。ここで必要になりそうな物は大抵揃いそうな気配を感じるぜ。
なんなら、店頭に無くても言えば出てきそうだ。多分、ここはそういう店だろう。
爺さんが店前にいたのも、良い客がいるかを見極めていたからか。偏屈だが、お眼鏡にさえ叶えばかなり良い店だな。
そう思いながら、カイを連れて店内を回ることにする。しかし、本当に凄い品揃えだな。こりゃこの店で一日潰れるかもな。




