逃亡劇の始まり
「……どうして、ベルゼルト様は僕をそんなに探すんでしょうか?」
「心当たりは無いのですか?」
とんでもない規模で自分を探していると知ったカイは青い顔をしながらも不思議そうに俺達に聞いて来るが、残念ながら俺達に分かることは無い。
むしろカイにこそ心当たりが無いのか、俺達が知りたいくらいだ。
「うーーーん……。ベルゼルト様と僕が直接話すことは殆ど無かったんです。突然連れて来られたと思ったら、ずっと訓練ばっかりで……」
この話を聞くのは何度目か。何度聞いても胸糞悪いぜ。
固有スキルってのは7歳になると教会に行って、診断というか一応牧師とか神父とかに神託を受けるって形で知ることが出来る。
カイはまさにそのスキルを知った直後くらいにベルゼルド卿に養子として迎えられた、ってのが表面上の話だ。
実際はどういう経緯でカイがベルゼルド卿の養子になったのかどうかは、両親とベルゼルド卿とその周辺の連中しか知らないだろうな。
今のカイが8歳らしいから、本当に固有スキルが分かった直後に連れて来られたことが分かる。そして、そこから一年間。壊れる直前まで心身ともに酷使されたんだからな。
「因みにですが、カイさんはご自分の出身は分かりますか?」
俺がベルゼルド卿に対してイライラしているとミリアさんが結構深く突っ込んでいた。
一瞬、ギョッとする。ちょっと突っ込み過ぎじゃないかって思っていたからだ。カイはまだ心身ともにまだまだ回復し切って無いからだ。
その中で過去の話に切り込んでいくのは時間を掛けてからだと俺は思っていた。思い出すのがつらいだろうから。
「……しゅっしん?」
「あぁ、失礼しました。その、ベルゼルト卿に連れて来られる前。ご両親と住んでいた街の名前を教えて欲しいんです。あと、以前の名字も」
そう思っていたんだが、何か当の本人は全然気にしてなさそうな反応をしていた。
出身、という言葉の意味がよく分からなかったらしく首を傾げて、ミリアさんが言い方を訂正していた。
確かに出身って8歳に言ってもよく分からんか。そもそも聞かれる機会も少ないだろうしな。
それにしても、ミリアさんめっちゃ突っ込んで行くな……。
「えっと、前に住んでた街ですよね? 確か、『オリエンス』? って名前だったと思います。ソレイユみたいに船が沢山ありました」
「『オリエンス』。東の玄関口ですね」
「名字はロウです。カイ・ロウ」
「ありがとうございます。また今度、色々質問させてください」
『オリエンス』か。アストレア王国の東の玄関口の港町だな。ソレイユに次いで2番目の大きな港町だったハズだ。
名字の方は、結構一般的な名字だな。ロウって名字は結構いたハズだ。この国ではかなり普通のよくある名字の1つ。
多分、カイの正確な身元を割り出そうって話なんだろう。
養子にする時に色々怪しいところがあるって言ってたしな。カイの話とそこの書類とか手続きでの齟齬を洗おうってヤツか?
「聞いている話と違うのか?」
「まだ何とも。課長に報告を上げて調べてもらいます」
こそこそっと短く話しをして、認識を擦り合わせておく。まだまだ細かいところは分からないってことか。
流石に大貴族周辺の情報ともなるとつつくだけでも慎重にならざるを得ないんだろう。下手に嗅ぎつかれると難癖を付けられる理由になっちまう。
牛歩で行くしかねぇよな。焦らず、確実に。そして、敵に見つからず、か。改めて考えると難易度高過ぎだぜ。
「とにかく、ベルゼルド卿はかなり本気でカイさんを探しています。今はセイルさんの機転で間違った方向に捜索を集中しているようですが」
「それに気が付かれるのも時間の問題、か」
「はい。あまり同じ土地に長居するのは危険かも知れません。ですが、準備を整える必要はあります」
まだ誘導されたことに気が付かれないウチにあれこれ準備して、移動を始める。忙しくなりそうだな。




