逃亡劇の始まり
ガルド課長の用意してくれた宿は少しだけ上等な宿だった。少なくとも、エスメラルダの街で俺が取っていた宿よりは格上だ。
まぁあの宿取ったタイミングの時はまだカイもいなかったしな。しっかりしている宿なら色々安心できるしな。
「すぅ……、すぅ……」
腹いっぱい食ったし、移動の疲れもあっただろうからか、カイは良く寝ている。それを見てホッとした後、俺も外套を脱ぎ、軽く身体の汚れを落としてから布団に入る。
俺もここ数日であれこれあり過ぎて、流石に疲れたな。横になるとすぐに眠気が襲って来て、うつらうつらと微睡みの中へ落ちていく感覚に全身を任せて行く。
「んん……」
そのあいだに寝返りを打ったカイが俺の腕の中に潜りこんで来る。子供特有の高い体温が更に俺の眠気を誘い。
「すぅ……」
俺とカイはあっという間に夢の中へと落ちて行った。
翌朝。柔らかいベッドの上で見事に爆睡をかました俺達は朝と言うには少しばかり遅い時間に起床していた。
「おはようごじゃいます……」
「ふわぁぁ……。おう、おはよう。朝飯、ギリ頼めるけど頼むか?」
「たべましゅ……」
寝起きでふにゃふにゃのカイに朝食について聞いて、モーニングメニューを頼むのにはだいぶギリギリの時間で注文。
注文を受けに来た兄ちゃんに一瞬だけギョッとした顔をされてから、『ディバインシフター』を解除しないで寝たことをそこで思い出す。
視線を下げれば思いっきり開いた胸元がそこにはあった。女神の姿はプロポーションも女神級だ。平均より明らかにデカい二つの脂肪の塊がどう足掻いてもそこにあった。
「ご、ご注文を承りました!!」
悪いな兄ちゃん。役得だったと思って胸にしまっといてくれよ。胸を見ただけにな。ガハハハハ。
なんて事故もありつつ、この前の騒がしさからは打って変わった平和な日常になってホッと息を吐く。
しばらくの間はこの『ソレイユ』の街で体勢を整えることになると思う。俺の身分も隠せるし、カイの変装についても監査記録課に任せれば色々用意してくれるだろうしな。
「とりあえず、シャワー浴びるか。カイ、こっち来い」
朝食が来るまでには時間があるだろうし、この間にシャワーを浴びちまおう。突然の逃亡劇に長距離の移動もあって、身体は汗やら埃やらでべとべとだ。
探索者ともなれば数日間シャワーを浴びないなんてザラだが、そうじゃない時くらいはシャワーを浴びたいのが俺個人の感覚だ。
中にはオフの日でもシャワーを浴びない奴もいるけど。そこは個人の裁量ってことで。最低限の清潔感を確保出来てりゃいいんじゃねぇかな。
ベッドでまた船を漕いでるカイを仕方ないと抱えて洗面所へ。着ている服を脱がして、俺も服を脱ぐとシャワー室へと入る。
ひんやりとしたタイルの感触が脚の裏から伝わって来て、エスメラルダに比べると気温の高いソレイユの街では心地いい感覚だ。
「それ、起きろ」
「わっ?!」
ここまで来てもまだ夢現なカイにシャワーを掛けて叩き起こす。二度寝しても良いが、シャワーは浴びてもらわないとな。
シャワーヘッドから流れ出るぬるま湯をかけられて飛び起きたカイを見てカラカラと笑って、俺は再度カイにおはようと声をかける。
「あ、え?! セイルさん?!」
「いつまでも寝ぼけてるからさっさとシャワー浴びてシャキッとしろ。朝飯来ちまうぞ」
「わわわわ?!?!」
俺の方を見てわたわたとするカイに、んん? と首を傾げるがすぐにその理由にも合点が行く。
ははーん? 意外とマセてんな。ま、からかうほど俺は意地の悪い奴じゃねぇからな。何も気が付かないフリをして、俺はカイを椅子に座らせ、もう一度シャワーを掛ける。
「こ、これくらい自分で出来ますって!!」
「そう言う奴に限って洗い残しがあんだよ」
洗髪料を手に取って、カイの髪をもみ込んでいく。栗色の髪の毛が泡だらけになっていくのを見ながら、俺達は朝食が届くまでの間にシャワーを浴びたのだった。




