逃亡劇の始まり
「アンタからして俺はどう映ってんだ?」
ギルマスのババアからの言伝は分かった。元よりそのつもりだから特に問題なし。俺のやることは変わらない。
今の俺にとって問題なのは目の前の男が敵か味方か、ってことの方だな。
この人の目に俺はどう映っているのかは聞いておいた方が良い。
勝手に味方だと思っていたら後ろから撃って来る可能性は全然ある。この人はそういう人だ。情報と事実に基づいて、適切に処理をする。
情が無い訳じゃないだろうが、見た目以上に淡々と事を進める。そういう気配のする人だ。
「どう、とは?」
「んー、犯罪者かそうでないか、ってところにしておくか」
「そうだなぁ」
定義づけるなら、そういう感じになるだろうな。敵か味方か、って聞くと恐らくはどっちでもないって返って来るからな。
まぁこう質問しても、返って来る答えは何となく予想が付くが。
「わからんね!! それを決めるのは司法だし、客観的に決めるにもまだまだ情報が足りない」
そう言うと思ったぜ。概ね、俺の予想は合ってた。まだまだ情報は出揃っていない。ベルゼルド卿への調査も、カイの調査も。そしてカイがまだ話せていないことだって山ほどあるだろう。
それを無理に聞き出せば、俺らはベルゼルド卿と同じだ。だから、カイからは少しずつ、自分から話してくれるように待つしかない。
ガルド・ベイレンという男はそれをどっしりと構えて待つつもりなんだろう。
「ただ、そうだね。これは個人的なワシの意見だが、君が悪い奴だとは思わない」
「そうかよ」
今、それが聞けたのなら及第点か。少なくとも怪しまれてるってよりは要観察対象ってところなんだろ。
カイとセットで、な。
「君にはカイ君と一緒に好きに動いてもらう。私達は直接君達の逃亡を支援はしないし、出来ない」
「わかってるよ」
大貴族のベルゼルト家と波風は立てられない。下手なことを感知されれば、向こうから突かれる理由を作っちまう。
ギルドは巨大な組織だ。それが大貴族と衝突するともなれば、それはアストレア王国でも大きな問題になっていく。
そのうねりは国を、民間人の生活を脅かす可能性がある。巨大な組織と大貴族の持つ社会的なパワーってのはそれだけ強いんだ。
「ただ、ベルゼルト家の追及をやり過ごすことは出来る。我々が時間を作る。情報も集める。だから君はカイ少年を守ることに集中するんだ。……そのために、泥をかぶる覚悟はあるだろう?」
「泥を被る覚悟? 冗談キツいぜ」
一時的に犯罪者としての可能性はある。というか、ベルゼルド卿からすれば俺は自分の何かしらの計画を邪魔した厄介者で、何が何でも汚名を被せて吊るし上げたいハズだ。
ありとあらゆる手段を使って来るだろうよ。何が何でもカイを取り戻そうとするはず。
俺はそれを泥とは欠片も思わない。
「子供を守るのに泥を被れるのが大人の本望ってヤツじゃねーのか?」
「ははは、確かにそれが理想的な大人だね」
ここでカイを裏切る択なんてあり得ないね。俺が自分から首を突っ込んだ。ここで投げ出すなんてありゃしない。
全部終わるまで面倒を見るさ。恰好付けているだけにも見えるだろうが、それでも俺は俺が恥じない生き方をして行く。
それが誰よりも自由な探索者の生き方だ。
「君は見ていて清々しいね。ミリア嬢が肩入れするのも分かる」
「課長、余計なことは言わなくて良いです」
堅い表情から、ふっと緩い最初の雰囲気に戻ったガルド・ベイレン課長。それにずっと静かに俺らの問答を聴いていたミリアさんが初めて口を挟む。
大体話したい事は終わった、ってことだろう。
「情報共有はミリア嬢を挟んでくれ。可能な個人的な支援も彼女経由で行おう」
「助かる。早速なんだが、髪色とか瞳の色を誤魔化せる魔道具とか無いか? このままだとカイが街中も歩けねぇ」
「変装道具ならすぐに手配出来るよ。1人分で良いのかい?」
「俺にはコレがあるからな」
有難い申し出に早速要望を出す。ここで変装道具を手に入れられるのはデカいな。安心して街を歩けるだけで全然逃亡の難易度が変わって来る。
1人だけなら結構早いだろ。俺の方は『ディバインシフター』でどうにかなるからな。
それを伝えるとそれもそうだね、って笑っていた。
ミリアさんは不満そうな顔をしてたけどな。
「宿は私の方で確保しておいた。名前も別名義で予約している。ギルド証も別の名義を用意したから今後はこっちのギルド証を使うように」
「カイさんは既にそちらに運んであります。今は監視記録課所属の者が傍についています」
至れり尽くせり、だな。自分達は原則手伝わないなんてのはどこに行ったんだか。ま、ヤバくなったらそう言うスタンスだからな、ってことだな。
いつでも切り捨てるぞ、ってな。ま、それは仕方ない。面倒ごとに首突っ込んだのは俺の方だ。
「最後に、『ブルーリオン騎士団』が動きが妙だということも感知している。貴族に靡くような組織では無いが、法と秩序には忠実。カイ君の処遇について、君と衝突する可能性もある。接触には気を付けるように」
「そりゃ確かに厄介だ。忠告、痛み入るぜ」
カイが運ばれた宿の鍵とギルド証を受け取りながら、今回最後の忠告を受け取る。
『ブルーリオン騎士団』。アストレア王国の秩序を守るための組織は、アストレア王国内の法にも厳しい。
今回の件を嗅ぎつけてるって言うなら俺をとっ捕まえて、カイをベルゼルト家に戻す可能性だってある。
何より、連中は秩序と正義を優先する。だからこそ、そこにカイの意思は一切介在しない結果になる。
それはカイにとっていい結果にならないと俺は思うんだ。
「んじゃ、俺はそろそろ休むわ」
ま、後はなるようになるさ。今悩むより、選択を突き付けられた時にちゃんと動けるかの方が大事だ。
そのための準備を怠らない様にだけはしないとな。




