逃亡劇の始まり
「さて、『戦姫』セイル。いや、『便利屋』セイルって呼んだ方が良いか?」
「別にどっちでもいい。はぁ、まさかおっちゃんに一杯食わされるとは」
ソレイユのギルド支部の会議室を借りて話をしてるわけだが、ホントにやられたという気分だ。
ここまで相手に良いようにしてやられたのはいつぶりだろうな。
何処から計画していやがったのか。ていうか、動きが早過ぎるだろ。課長自ら動くなよ。
「はははは!! 監査記録課は隠密とか潜入も必要な時があるからな。この手合いは得意なもんも多い。そもそも観察対象とウチの職員が仲が良い君らの方が特例さ」
確かに、監視対象によってはそういうことも必要になってくるのか。大抵の連中は監視されているなんて知ったら反発するのも分かる。
だからって行動がはえーよ。
「で、一体なんの用だよ」
「なんだ、もう女性の振る舞いはせんのか? 中々サマになっていたんだが」
そりゃ女神の姿の時はそういう立ち振る舞いをしないと怪しまれるだろ。男のセイルと女神の姿のセイルを結び付けられたら困るからな。
実際、俺はこの姿の時に誰かと会話しないように心掛けてはいたしな。とは言え、どうにもならない時は会話とかしなきゃいけないからこういう立ち振る舞いを覚えるしかないんだよ。
その辺はパーティーメンバーの1人とミリアさんに世話になった。
だが、今はそんなことどうでも良い
「さっさと答えろ。カイが起きたら不安がるだろ」
「保護者がサマになっているな。ママと呼ばれても満更じゃなかったみたいだしな」
「い・い・か・ら!! 用件を言え。お前も暇じゃないだろ」
顔が明らかに人をおちょくる時の顔なんだよこの野郎。面白がっているってよりは、こっちを試していたり反応を探っているってのも腹立たしく感じる。
ったく、正確の悪いおっちゃんだよホントに。
「ははは、そう怒るな。今の受け答えで君の人となりってのを再確認させてもらった」
「なんでわざわざそんなことを監視記録課がやってんだよ」
「ギルドメンバーの中に犯罪者がいないかを探るのも監視記録課の仕事の1つだからだよ。実を言うと、ベルゼルト卿から君に対する身柄引き渡しの圧力がかかっていてね」
もう圧力がかかっているのか、と苦い顔をする。流石はアストレア王国の中でも有数の大貴族。何もかもの規模感やスピード感が桁違いだ。
カイをそれだけ探しているってことだな。カイの引き渡しじゃなくて、情報を持っていそうな俺の身柄を寄こせって言ってんのがその理由だ。
「ミリア嬢から君の情報は逐一入っていた。最近、カイ・ベルゼルトと名乗る少年を保護したこともね」
「まぁ、それがミリアさんの仕事だからな……」
「その報告を聞いた時は貴族の落胤を名乗る浮浪児の可能性も十分にあったのだけどね。ベルゼルト家からの圧力がかかったことで話が変わった」
貴族の庶子や愛人を名乗って、貴族に取り入ろうとする輩は案外いる。実際、色情狂の貴族に手籠めにされた人もいるにはいるんだろうが、逆もいるってわけだ。
そんなんだから大抵の場合、そういう話はまともに取り合わないのが普通だけど当のベルゼルト家から圧力がかかって来たのなら話が変わって来る。
「調べてみたら1年前にカイという少年が実際にベルゼルト家の養子となっているじゃないか。それで急ぎミリア嬢に連絡したら」
「既に俺が騒ぎを起こしていた、と」
「そういうこと。事実確認をするために私が登場するには十分な理由だろう?」
こっちを指差して茶目っ気たっぷりに言うおっさんことガルド・ベイレン課長。確かに、貴族が動いて、カイって名前の少年を実際に保護した俺がいて。
それが自分達の観察対象ともなれば、手っ取り早く上が動いた方が早くはあるけどよ。
騙すようなことをして匿うのは、それはそれでどうなんだよって思わなくはないよな。




