逃亡劇の始まり
俺らを拾ってくれた商人のおっちゃんが手綱を引く馬車は有言実行で無事にセントラリア大陸。その全土を治めるアストレア王国の南の玄関口である巨大な港町である『ソレイユ』の街へと到着した。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
「ありがとうございました」
街の入口の門を過ぎて、馬車を預ける宿舎に馬と荷台を預けたところで俺達も降り、商人のおっちゃんに頭を下げていた。
多少、利用させてもらったとは言え善意で乗せてもらえたことは変わりない。しっかり感謝を伝えておかないと礼儀に欠く。
「お安い御用さ。宿はあるのかい? 良ければ口添えしますが」
「知り合いがおりますので。こちら、少ないかも知れませんがお礼を……」
「いやいや、お子さんもいるんだ。色々と要りようでしょう。代わりと言ってはなんですが、夕飯を一緒にどうです? 男一人では中々寂しいものでしてな!!」
ガハハと笑うおっちゃん。下心丸見えの誘いなんだが、どうしたもんか。長距離の移動で足代わりに使った手前、下手に断るのもな……。
急いでないっちゃ急いでいない。今日の内にギルドに顔を出せれば十分だ。どうしようかと思ってちらりとカイを見ると、ぐぅ~と腹が鳴っているのが聞こえた。
「ご、ごめんなさい……」
「わははは!! 坊ちゃんは腹ペコのようですな」
「あははは。この子ったらすみません。ではご一緒させていただきます」
盛大に鳴ったカイのお腹を聞かされちゃ、ここで断る訳にもいかなくなった。恥ずかしそうにお腹を押さえるカイの頭を撫でながら、今回はこのおっちゃんと飯を食うことにしよう。
酌でもすれば、満足するだろう。流石に子連れにそれ以上のことをするようなゲスな人間には見えないしな。
そもそも、この身体は酔わないからな。女神の身体に人間の酒は効かないのさ。
「こちらへどうぞ。中々に良い店ですぞ」
こうして俺らはおっちゃんに連れられて、おすすめの店へと俺達は向かうことになった。
「いやぁ、本当にお美しい。こんなに美しい女性と食事を共に出来るどころか、お酌までしてもらえるとは」
「ここまでお連れしてもらいましたから。おじさまにはお礼をしませんと」
「良いことはするもんですなぁ、ガハハ」
酔い過ぎだよ、おっちゃん。
連れて来られたのは明らかに良い店だった。全室個室、出て来る料理もその辺の店とはレベルが数段上だ。
最高級とは言わないが、日常使いする店では高級に分類されるクラスのお店だ。
こういう店に顔パスで行けるくらいにはこのおっちゃんはやり手の商人みたいだな。
メニュー表すら出て来ずに、おっちゃんがひと言ふた言話をしただけでもう料理が出て来るレベルの常連だってのも分かった。
「坊ちゃんも良い子だ。知的で優しい目をしている」
「あ、ありがとうございます」
「たんと食べるんだぞ。男は食わなきゃデカくなれん!! 早く立派になってお母さんを守ってやるんだぞ」
「は、はい……!!」
酔ってても良いこと言うなこのおっちゃん。俺もその意見には同意だぜ。男として生まれたからにゃ、守りたいモノはしっかり守れる男になりたいと思う。
……今は女神の姿でおっちゃんに酌してるけど。
そんなおっちゃんの言葉に感化されたのか、珍しくカイも遠慮せずにご飯をもりもりと食べている。
美味いってのもあるだろうが、カイに何か刺さるもんがあったんだろうな。
「気にかけていただいてありがとうございます。女手一つで育てているからか、どうしても遠慮がちな子でして」
「優しい証拠です。良い子になりますよ。だからこそ、乱暴な者に負けないように身体は大きくしてあげた方がいいですな。これは私の実体験です」
マジで良いおっちゃんだな。この人、美人には弱いがめちゃめちゃ人が出来てる。単純に尊敬出来るところも出て来て、いやぁ普通に感心するレベルだ。




