逃亡劇の始まり
「セイルさんはどうして探索者になったんですか? お家は確か、鍛冶屋さんなんですよね?」
「ん? あぁ、そうだな。まぁ簡単に言うと楽しそうだったから、だな」
高性能とは言え、路面の凹凸で多少は跳ねる荷台でカイを抱えて万が一にも怪我しないようにしながら、質問に出来るだけ話を噛み砕きながら答えて行く。
俺が探索者になった理由か。理由と言われても正直に言えば理由と言われても困るってのが本音だ。
ガキの頃。それこそ今のカイと同じくらいの歳にはもう探索者になると決めていた。
「楽しそう、ですか?」
「あぁ、お前より小さな時から俺は探索者と関りがあったからな。その人達がずっと楽しそうに見えてな」
鍛冶屋だからな、剣や防具を作ったりするのが仕事なわけで、当然探索者が取引相手。何度も会ったし、色々可愛がってもらった。
一番楽しかったのはその人達がした生の冒険の話を聞くのが本当に楽しかった。
自分達の脚で、自由に大陸中を歩き回って本当に色んなところに行って、魔物と戦ったりする話を聞きまくった。
そんな話をガキの頃に聞きまくったら、そりゃそれに憧れるわな。
俺にとって、誰よりも自由で楽しそうな人達が探索者だった。俺もそうなってみたいって思ったんだ。
「人生は楽しんだもの勝ちだからな。どうせなら楽しいことがしたかったんだ」
「楽しいこと……」
人によってこれは違うし、楽しいことだけをしていられるわけでもない。そして楽しいことで暮らして行けるかどうかはまた話が別だしな。
俺だって、幼馴染で元所属パーティーのリーダーだった奴と一緒に探索者をやると息巻いてた。
実際、一緒に学院に行って、2人揃って結構良い成績で卒業して、そして探索者になってかなり良いところまで行った。
トップパーティー、って言っても過言じゃなかっただろう。相当に良いところまで行った自負はある。
ま、結局、そいつと大喧嘩してパーティーは実質解散状態。今じゃメンバーがどこで何をしているのかも知らない。
楽しいだけじゃ上手く行かない。それでも後悔は無いし、今でも探索者を止めてるわけじゃない。
この生活にも納得しているし満足している。
「……僕にも、出来ますか?」
「探索者を?」
「えっと、うーん、探索者ってわけじゃないんですけど……。楽しいことをやれるかなって」
「それはお前の頑張り次第だな」
自分にも、そんな生き方が出来るのか。カイが言いたいのはそういうことだろう。
それが出来るかどうかはハッキリとカイ次第だとしか言えない。努力しなきゃ、どうしたってそういう生き方は出来ないだろう。
努力しなきゃ、好き勝手生きることは周囲に認めてもらえないし、実力が足りないからな。
自由に、好きなことを、楽しいことをして生きて行くのは思っている以上に難しい。
だから、ほとんどの人はそういう生き方を諦めて脱落して、普通の生き方を。やりたい事じゃなくて自分が出来る範囲のことを仕事にして、お金を稼いで生きて行くことになる。
このやりたい事と出来ることのギャップに苦しんで生きて行く人もそれなりの数いるだろう。
俺だってそういうところはあるしな。今まさに好きに探索者が出来ている訳じゃない。『ディバインシフター』のデメリットを考えて、殆ど前線を退いている状態が俺が一番望んでいる状態とは乖離しているとも言える。
「ま、安心しとけ。お前がやりたい事をやれるように俺が何とかしてやる。お前は気にしないで良い」
「良いんですか?」
「良いんだよ。俺がやりたいんだ」
首を突っ込んだ以上は俺が最後まで面倒を見るって言うのもあるが、俺がカイに誇れる大人でありたいってのもあるかもな。
ガキの頃、俺が憧れた探索者の人達みたいに子供に夢を届けられる大人に自分もなりたいっては思うよ。




