逃亡劇の始まり
ゴトゴトとおっちゃんが操る馬車に揺られながら、俺とカイは荷台に並んで座り、幌の隙間から外を見つつ、この後のことをざっくりと説明する。
「ソレイユの街についたらまずギルドに顔を出す。お前は一応、外套の中に隠れておけ」
「宿屋じゃないんですか? それにギルドに行ったらセイルさんも通報されちゃうんじゃ」
「流石に昨日の今日で情報は行き渡らねぇさ。それにギルドには心強い味方もいるハズだからな。その人に色々と協力を仰ぐ」
ソレイユの街に着いてまずやることはギルドに立ち寄ることだ。念には念を入れて、カイは外套の中に隠すが、俺の場合は『ディバインシフター』のおかげで幾つも顔があるようなもんだ。
そう簡単に相手に特定されることは無い。カイが心配することも恐らくは大丈夫だろう。ギルドにも当然だが治安維持に協力するのが前提の決まりがある。
探索者が犯罪を犯せば、騎士団に引き渡すのが決まりだ。
ただし、それは治安維持を主な仕事にする『ブルーリオン騎士団』相手の話。貴族の私兵騎士に対してはまずは事実確認をするのが通例だ。
貴族様ってのは何かといちゃもんを付けて来る奴も多いからな。それに私兵騎士はあくまで私兵。
言いがかりやらなんやら、過去にも幾つもの事例がある。そのせいでギルドと貴族ってのは水と油みたいな関係で仲が悪いんだ。
だから、私兵騎士にとやかく言われてもギルド側は『ブルーリオン騎士団』が動くまで素知らぬふりをしていることもまぁまぁある。
しかも俺は結構貴族様に色々突っかかられたりすることが多くてな。……主に『ディバインシフター』で変身している姿を見て、勝手に惚れ込んだ貴族様が難癖付けて俺を捕まえて、屋敷に来させようってのが、な。
ギルド側もまたその手合いだと思うだろうし、そうでなくてもわざと時間を掛けるハズ。
だからその心配ってのはあんまり無いと思っている。
そしてもう一つは協力者から情報を集めようってのがある。この情報を集めてくれる協力者はミリアさんのことだ。
恐らく、今回のこともどこかから一部始終を見守っている事だろう。カイについても彼女は気にかけてくれていたし、協力してくれるだろうさ。
「でも、ソレイユにも騎士の人達がいるんじゃ……」
「いるだろうな。だから変装もするぞ。俺はともかく、お前の変装を考えとかないとな。髪色と瞳の色を変えられれば、それが一番手っ取り早いが……」
その手のこととなると裏の仕事を請け負ってる連中に接触しなきゃいけないんだよな。あまり脚のつくことはしたくない。
特に裏の連中なんて信用が出来ねぇからな。信用で仕事をしている奴も一定数いるにはいるが、金を積まれればペラペラ喋る奴も同じくらいいる。
それに下手にカイのことは知られるべきじゃない。その点を考えても他に良い案があればいいんだが。
「まぁ、数は少ないだろ。あっちにはミスリードを仕掛けておいたからな」
「ミスリード?」
「間違った方向を追うように仕向けておいたのさ。今頃、連中は北に向かってるだろうぜ」
エスメラルダから少し離れた森の中で私兵騎士を返り討ちにした後、煙玉に使っていた白い粉をわざと北の方向に進んでいるように見せかけて来た。
自律人形ってのを使ってな。『魔導人形』と違って、機械式で動く小さな人形だ。役目を終えたら小さく自爆してバラバラになる仕組み付き。
元々は知能の低い魔物を誘い出したり、注意を引いたりするのに使うものだが、こういうことにも使える。
木の上を伝って行くようにセッティングしたから、連中からしたら木々を跳んで足あとが残らないように北に逃げた、そういう風に見えるだろうよ。
「セイルさんは凄いですね。色々なアイテムがあって」
「ほとんどはガラクタさ。仲間達からは変な趣味だと言われてたよ」
趣味で色々なものを作ったり改造したりして来たが、そのうちの大半が文字通りどういう風に使うのが良いのかわからないポンコツのガラクタ。
まともに実戦で使えるような出来の物は……、2割くらいだろうな。
それでもこうして役立つ機会が巡って来るんだから、どうなるか分からないもんだぜ。




