逃亡劇の始まり
まぁ、そういう細かくて難しいことは学者の考えることだ。知ったところで何かが起きるわけでもないし、デメリットが消えるわけでもないだろ。
俺は今あるこのスキルを使って生きていくしかねぇんだ。
「不思議なスキルですね」
「それを言ったらお前の『暁の加護』も大概だよ。お互い妙なスキルを持ったもんだ」
『加護』系のスキルは名称に左右されず、内容は簡単に言うとありとあらゆる強化ってところか。
だが残念ながらそのスキルの発動そのものが難しいのが加護系スキルの弱点だな
強力なスキルは大抵発動やコントロールが難しい。加護は神様からの直接庇護を受けるからこそのその難易度は最高水準と言って良い。
扱い切れたら破格なんだろうがな。
「さて、お喋りもほどほどにそろそろ出発するぞ。出来るだけ移動して、次の街に行かないとな」
俺のスキルの話で盛り上がるのも良いが、残念ながらそこまでのんびりとしてもいられない。
一応、策は打ったが追われている身だ。ベルゼルド卿が本気でカイを探しているのが分かった以上、逃げられるだけ逃げた方が良い。
「……すみません」
「別にお前は悪くねぇよ。どっちかというとしくじったのは俺だ」
カイの頭をもう何度目になるか分からないが、頭をがしがしと撫で回しておく。追われているのはカイだが、今回の場合、追われるようなヘマをしたのは俺だと言って良い。
もっと早く気が付いていれば、カイが追われることは無かったハズだ。逃げ始めた時に姿を見られたのもな。
そうすりゃ、いくらでもやりようがあったハズなんだ。これは俺のミスだ。
「さて、カイはそっちの水源で食器を濯いできてくれ。俺はテントを畳んでおく」
「……わかりました」
まだ凹んでいるカイの後ろ姿を見て、肩を竦める。起きちまったことは仕方ない。あとはどうやって切り抜けるかを考えねぇとな。
変装とか、ルートとか、情報の収集。色々なモノが必要だ。そもそもにベルゼルド卿は何故カイにここまで執着を見せているのかがわからないとこの件は解決のしようがない。
一体、ベルゼルド卿が何を考えてカイを養子に取ったのか。何か目的が無きゃ、ここまで執着はしないだろう。
何せ、ベルゼルド卿には既に嫡男がいる。俺とそこまで歳が変わらなかったハズだ。確か、24,5だった。
『王立学院』にいるとそういう話は嫌でも転がって来ていたからな。
とにかく、何もかもが足りない。それを揃えられる場所に行く必要があった。
「ところで、次は何処へ行くんですか?」
「南の方だ。デカい街に向かうぞ。物資も情報も欲しいからな」
エスメラルダから向かえる街は主に三つ。
エスメラルダの北に広がっている精霊の森を突っ切った先にあるエルフ族の街『グリーンリーフ』。
東に向かえば『王都 アストレア』。
そして俺達が今向かっている南方向にはエスメラルダより大きなアストレア王国最大の港町『ソレイユ』がある。
王都はハナから論外。敵のお膝元に自分から突っ込んでも仕方ない。必然的に比較的距離の短い場所にある北の『グリーンリーフ』か、離れているが大きな街である南の『ソレイユ』になる訳だが、俺はより人口の多い『ソレイユ』を選んだ。
「大きな街は危険なんじゃ……」
「こういう時は人混みに紛れるのさ。逆に人が少ないところに連中が来たらすぐに俺らを見つけられるだろ?」
「なるほど。木を隠すには森の中、ですね」
「そう言うことだ。情報も物資もそっちの方が遥かに多いしな。それにエルフは疑り深い連中が多い。こういう時に迂闊に近寄ると良いことは無いだろうな」
結構色々考えてるんだぜ? 距離があるのがネックだが、そこはまた別の作戦を考えてあるってもんだ。
使えるもんは全部使っていくぜ。何せお尋ね者だからな。




