逃亡劇の始まり
「……その、セイルさん」
「なんだ?」
野草と木の実で作ったスープを朝食にしていると、カイが少し緊張したような声音で俺に話しかけて来た。
ついさっきまでは楽しそうな雰囲気だったってのに、急に何か意を決した様子で話しかけて来たから少し驚く。
「セイルさんのスキルって、どんなのなんですか?」
「おん?」
思ってもいなかった俺のスキルについて質問され、更に目を丸くすることになる。まさかそんなことが気になるとはな。
いや、カイなりに昨日何か感じることがあったんだろうな。違和感か好奇心か。何かはわからんが聞いておきたいと思ったのは間違いないだろう。
「なんか気になったのか?」
「その、追いかけられている時の最後の方にセイルさんの雰囲気が変わったような気がして」
意外な勘の鋭さだ。頭も回る。恐らくは俺のスキルがカイと同じように特殊なスキルだと言うことにも気が付いているんだろう。
だからこその質問だ。ようは情報を共有しておきたいってワケだ。
ま、そんな難しく考えてはいないと思うがな。知らないことを知っておくことで不安を払拭したいっていう無意識の判断だろうよ。
「こんなことを聞くのは失礼、ですか?」
「んー、まぁ中には答えたがらない奴もいるわな」
固有スキルはそのまま自分の強みでもある。特に騎士や探索者のような仕事をしている連中はそれを出来るだけ隠しておくことが有利に働くこともある。
結局は人によるんだがな。俺見たいな特殊なスキルを持っている奴は話したがらない傾向が強いし、日常生活では固有スキルが役立つことなんてほぼ無いから話題にも上がらん。
聞くことは稀かもな。
「だけど、カイには教えておく。俺のスキルは『ディバインシフター』っていう超特殊なスキルだ。レア度で考えれば、お前のスキルよりも上かもな」
「『暁の加護』よりも、ですか?」
自分の持っているスキルよりも珍しいかも知れないと言われてカイも驚く。『加護』って名前のつくスキルは本当に激レアだからな。
直接神に愛されている、というのを証明するようなスキルが『加護』と名前のつくスキルだ。
そのレア度と効果は他のスキルとは一線を画すとされている。同時に扱いには難しいとも聞いている。実際はどうだかわからんけどな。
昔、王立学院で習ったのだと、『加護』系のスキルは典型的な大器晩成型だったらしい。
並の凡人にはそもそも扱いきれないようなスキルだと、あん時の先生は言ってたっけかな。ずいぶん昔のことだから、流石に記憶は朧気だけど大体そんな話だったハズだ。
「俺のスキル。『ディバインシフター』の能力は女神に変身することだ」
「……女神に?」
「あぁ、女神にだ」
だから、まだ子供のカイには『暁の加護』を使いこなすのは難しいんだよなってことを思い浮かべながら、俺自身のスキル『ディバインシフター』について説明するんだが。
カイの方は首を捻っていた。まぁ、そりゃそうだ。女神に変身するなんて言われても、ピンと来るわけが無い。
変身するから、どうするの?ってのもあるし、そもそも女神って? ってのもあるしな。
仕方ねぇ、こればっかりは見せるしかないか。
「『ディバインシフト・アテナ』」
「……?!?!」
目の前で『ディバインシフター』を発動させて、姿を女神のそれに変える。因みにただ姿を変えるだけなら侵食の進行度は物凄く少ないか、ほぼ無いというのは過去の実験で検証済みだ。
あくまで女神の力そのものを使おうとするのがデメリットを受けやすくなる条件、らしい。
力こそが神の主体であって、姿形は割とどうでも良いんだろうな、と勝手に思っている。
「これが俺のスキルだ。どうだ? 驚いたか?」
カイが驚き過ぎてスープの入った器を落としそうになったのをキャッチしてやってからそう言うとカイはただ口をパクパクさせているだけ。
ちょっと面白いなと思いながら、とりあえず復活するのを待つことにした。




