逃亡劇の始まり
侵食率12%
「ふあぁぁ……。あ~、良く寝たぜ」
テントから出て伸びをする。朝の冷たい空気を吸い込みながら日差しを浴びて身体を叩き起こす。
野営をした時くらいにしか味わえないこの何とも言えない爽快感は良いもんだよなぁ。
「おはようございます……」
「おう。まだもうちょっと寝てても良いが、どうする?」
「大丈夫です……」
カイも釣られて起きて来るが、まだまだ眠そうだ。朝食の準備もあるし、寝てても良いんだが本人が起きているというので特に引き留めることもしない。
眠そうにテントから這い出て来たカイは最初こそ眠そうなままだったが外の光景を見てその眠気は飛んだらしい。
「わぁ……!!」
「早起きの特権だ」
昇ったばかりの朝日が作る光景ってのはいつ見たって幻想的だ。俺は結構好きなんだが、カイも同じらしい。
初めて見ただろうその反応は可愛いもんだ。まだ8歳だもんな。見たことない光景ばっかりだろうよ。
「暖かい飲み物淹れてやるから少し待ってろ。飯食ったら、テント片付けて出発するぞ」
昨日、ベルゼルド卿の私兵騎士達に追われた俺達は『エスメラルダ』の街を飛び出したあと、無事に追手を振り切ることに成功していた。
昨日は暗くなるまで移動して『エスメラルダ』から離れた後、テントを設営して一晩を過ごしたってワケだ。
「凄いですね。セイルさんの鞄からは何でも出てきます」
「特殊な魔道具でな。見た目以上に物が入るんだ」
俺の鞄や腰に下げているポーチには魔導圧縮術式っていう高等技術が使われているんだが、まぁカイにそれを説明してもな。
一応、上位の探索者じゃないととてもじゃないと買えないような高級品でもあるんだが、そんなこと尚更言っても仕方がない。
この鞄やポーチの中に俺が趣味で作った道具やらガラクタやら、テントなんかの探索者としての必需品も突っ込んである。
今回はそれが功を奏したってわけだ。
「残念ながら食い物は入れられないから、食い物は現地調達だけどな」
ただし、魔導圧縮術式が施された鞄には食料品を入れることは非推奨だ。理由は簡単。食える状態じゃなくなるから。
名前の通り、物体を圧縮する技術なんだが水分を含んだものがな。圧縮されると全部出ちまうんだ。
そのせいで出てきた水分で鞄全体が濡れるとか言うめちゃくちゃ面倒な仕様がある。
食い物の大半は水分を含んでいるからな。一応、乾燥させてあれば大丈夫らしいが、たまに油分とかも出ちまうことがあって何かとロクなことが無いから、俺は基本的に食料はこの鞄には入れないことにしてる。
「それで美味しいご飯が作れるんだから凄いですよ。僕には何が食べられるかなんて全然わかりません」
「教えてやるよ。中にはそのまま食えるヤツもあるから、道中のおやつになるしな」
だから、今回のような事態になると食事はその辺に生えている食べられる木の実とか野草とか、そういうモノになる。
出来れば、肉が欲しいな。タンパク源はあった方が何かと良い。途中で何か捕まえられると良いんだが。
「なんだか、少し楽しいです」
「ははは。良いな、楽しんでおけ」
一応、逃亡生活の始まりなんだがな。それを楽しいと言うカイは思っていたよりハートが強いのかも知れない。
それが何にせよ、今が楽しいと思えるのなら楽しんでおいた方が良い。
俺がそうしてやれているんだとしたら、なおさら嬉しいことだよ。カイが受けて来た仕打ちを考えれば、人間不信になっていたっておかしくないのにな。
「コイツが月露草。生で食えるし、茹でても良い。使い勝手の良いヤツだ。こっちが銀栗。見つけやすいのに焼くと甘くて旨い。殻がちっと固いが、こういう殻割器を使えば簡単に――」
とりあえず。昨日の道中で採集しておいた野草や木の実たちを調理しながら簡単に紹介する。
知っておくだけでも役立つことはある。知識ってのは知ってることが大事だ。これからの生活を考えれば、なおのことだろうな。




