ベルゼルド卿の刺客
活気ある『エスメラルダ』の街を駆け抜け、ようやく街の出入り口が見えて来る。
人混みを掻き分け、必要であればワイヤーなんかの道具を使ってアクロバティックに移動しながら、追いかけて来る私兵騎士達とは一定の距離を取る。
ちゃんとついて来ているな。数は5人。こんくらいになればどうとでもなる人数だ。
ワイヤーを使った移動をした時にちらりと後ろを確認しつつ、わざとらしくここにいるぞというアピールをしておく。
二手に分かれられたりするのが一番厄介だからな。まとめて相手出来るなその方が楽だ。5人ってのはそういう意味でも都合の良い人数だぜ。
「待てぇっ!!」
「邪魔だ!! 道を開けろ!!」
それにしても傲慢な連中だ。カイを連れ戻す、ついでに言えば俺はカイをそそのかした容疑者の1人ってところだろうが、それを捕まえるために通行人に怒声を飛ばし、場合によっては突き飛ばしながらこっちに向かって来る。
大貴族様の私兵騎士だからって何をしても良いってか?
同じ騎士でも、治安維持を担当している『ブルーリオン騎士団』とは天と地ほどの差がありやがるな。
あっちは規律と騎士道精神を重んじているから、いくら容疑者追跡中でも民間人に怪我させるようなことはしない。
まるで鎧を着たチンピラだ。アレも後で全部俺のせいってことにされるんだろうな。
その予想に苦笑いしながら、俺はひたすらに『エスメラルダ』の街の入口である門を目指す。
魔物の襲撃などから身を守るためにある程度大きな街になると街を囲むように外壁があり、人々はそれに用意されたいくつかの門から街の内と外を行き来する。
税金や通行料とかの徴収もあるしな。入口を絞るってのは何かと都合が良いのさ。
「門を閉めろ!!」
「犯罪者だ!!」
「おいおい、それを決めるのはお前らじゃねぇだろ」
ベルゼルト卿の私兵騎士達は明確な理由も無く、俺を犯罪者扱いして、門番に門を閉めるように偉そうに命令をしている。
突然のことに門番も驚いてこっちを見ているだけだ。そもそも、門はそんな簡単に閉まらない。今通っている人達だっているんだ、閉めたらその人たちが怪我する危険もあるしな。
何より、人を勝手に犯罪者扱いしやがって。お前らからすればカイをそそのかしたかも知れない容疑者だが、アイツらはまだカイの姿を見ていないハズだ。
誘拐犯扱いするにゃまだ早いだろうよ。ホント、ご貴族様ってのは勝手な連中ばかりだぜ。
それに下手に閉まるのも困るしな。
「悪いな」
仕事の邪魔をしちまうのは承知で下手に冷静になられて門を閉められる前に門目掛けて煙玉を投げつける。
ボンっと炸裂音がしてから辺りには真っ白な煙が広がって、その周りにいた人は視界が奪われた。
これで門番が門の開閉をするための仕組みに近付くのは難しくなった。その間に、俺は門の上部にワイヤーを引っ掛け、煙の中ではなく敢えて上を行く。
煙の中に突っ込むリスクってのもあるが、何よりわざとらしく外に出た、というのを連中に見せ付けるためだ。
これで、連中は確実に街の外まで追いかけて来る。
「逃がすなぁっ!!」
誘われているとは露知らず、ベルゼルト卿の私兵騎士達は煙に囲まれた門を強引に突破し、その先にある森の中まで俺のことを追いかけて来た。
街道からも外れた森の中までだ。ここまでくれば下手に誰かが見てるってこともねぇだろ。
「ようやく観念したか」
「貴様、『救世主』を何処へ隠した!!」
森の中の小さく開けた場所までやって来て、立ち止まる。追いついた私兵騎士達は素早く俺を取り囲むように陣形を組み、それぞれが剣を抜いて構えた。
口ぶりから、カイを背負っていることは気が付かれていないな。小さく、静かにしろよとカイに伝えると頷くように頭を立てに小さく振っている感触が伝わって来た。
連中は俺がカイを既にどこかに逃がしているように見えているハズ。そういう勘違いをしてくれているだけでも、やりようってものは出て来るからな。
小さな誤解の積み重ねで、大きなミスリードを誘う。魔物の戦いでもこの手のやり方は使えるんだぜ。
「出力30%」
「何をぼそぼそと言っている。痛い目にあいたくなければ――」
「『ディバインシフト・アルテミス』」
そして、次の瞬間。私兵騎士達は光の矢で貫かれ、地面へと倒れ込むのだった。




