蒼獅子の騎士団長
アストレア王国が治める中央大陸セントラリア。その東部にある雄大に聳え立つ山脈の麓。
自然の城塞と化している場所にアストレア王国全土の秩序と人々の生活を守るために設立された騎士団の本拠地がそこにあった。
通称『ブルーリオン騎士団』。この城塞がある場所にちなんでそう呼ばれる騎士団は王国全体の治安維持を主な任務としながら、王国直轄の騎士団ではないという特殊な立ち位置の騎士団である。
軍属である王国騎士団でも、教会に所属する教会騎士でもなく、そして貴族が自身の護衛に使う私兵騎士でもない。
あくまで彼らは王国の民を守るためだけの騎士団。そういう信念の下に結成されたのが『ブルーリオン騎士団』という特殊な騎士団だった。
「失礼します」
その一室。質実剛健なブルーリオン城塞の中で唯一少しだけ装飾の施された一室で、1人の男が部下からの報告を受けていた。
「西部、エスメラルダで起きた騒動について資料がまとまりました」
「ご苦労。目を通しておく。君は通常の業務に戻ってくれ」
「はっ!!」
ビシッと敬礼をして、しっかりと訓練を受けたことが伺える澱みの無い動作で若い騎士がその部屋から退室する。
資料を受け取ったのは壮年の男性。しかし、壮年と言ってもその肉体はむしろ若々しさすら感じると言えるだろう。
巨躯と表現するに相応しい体格は鍛え上げられた筋肉で隆々と盛り上がっており、見るからに有数の戦士であることが伺える。
それもそのはず。彼の名はガルディス・レオグラン。この『ブルーリオン騎士団』の騎士団長を務める、名実ともにアストレア王国の中でも最強と呼ばれる存在の内の1人なのだから。
「……」
目じりに出来た皴が年齢こそ感じさせるものの、その眼光は鋭く、それだけで見つめた相手を貫こうかというほど。
そんな男の視線は先ほど提出された資料へと落とされていた。
内容は王国西部の港町『エスメラルダ』で起きた騒動についてだった。探索者と貴族が抱える私兵騎士のいざこざ、と当初思われたそれはどうにもややこしい話になっており、どうやらセイルという探索者が王都に居を構える大貴族、ベルゼルド卿の養子を誘拐した容疑者というものだった。
誘拐されたのはカイ・ベルゼルト。まだ8歳の少年であるが強力なS級固有スキル『暁の加護』を持っていると記載されている。
かつて存在したとされる勇者と同じ加護のスキルは過去にも幾つか存在が確認されており、大きな災厄な災害を跳ね除けたと言われているまさに伝説級のスキルだ。
まだ子供であるため、スキルを使いこなせているとは考えづらく、まだ殆ど行使できないだろうと予測される。
そのため誘拐できたとしたら、多額の身代金を要求するには非常に都合の良い、ともいえる存在だ。
「……」
容疑者セイル・ノクティスはかつて王都ギルドに籍を置いていた探索者。その実力は相当なモノで実力者ひしめき合う本部ギルドにおいてもトップクラスの実力者であったとされている。
二つ名は便利屋。他のパーティーメンバーに比べると地味な存在だとされているが、実際は様々な道具や魔法を駆使し高難度の依頼を達成するための礎となっていたと記載されていた。
しかし所属パーティー内でトラブルがあり、パーティーは敢え無く解散。セイル・ノクティスは金に困り、カイ・ベルゼルトを誘拐した可能性。
そう資料には記載されていた。
それらに目を通して、『ブルーリオン騎士団』の団長、ガルディスは大きなため息を吐いてから投げ捨てるように資料をポイっと机に置き、腰かけていた椅子からゆっくりと立ち上がった。
「……」
寡黙な騎士団長は無言を貫くばかりで、何を言うまでも無く窓から外を見る。
外は雄大な自然で囲まれており、陽光が勇者伝説の残る神の山『勇士の山脈』の峰を照らしている。
それを見上げながら、騎士団ガルディスはやはり何も口にすることは無く、ただ何かを憂うようにただただ西の方角を見つめているのであった。




