ベルゼルド卿の刺客
「カイ、怪我はねぇな?!」
「だ、大丈夫です!! セイルさんは……」
外套の下、紐で括りつけているとは言え、背中にしがみ付いているカイに怪我が無いを確認する。
それに対してカイはむしろこっちを心配する始末。ったく、子供が大人の心配してんじゃねぇっつーの。
「俺を誰だと思ってんだ、っと!!」
再び後ろから炎の球が襲い掛かって来て、俺はそれに適当なガラクタを投げつけて誘爆させる。
周囲から悲鳴が上がるが、ぱっと見た被害は無い。
それにしたって、コイツらイカレてんのか。こんな人通りの多いところで魔法をぶっ放すなんて。
俺が誘爆させなかったらその先には一般人がいるんだぞ?!
深くかぶった外套のフードの下から連中を睨みつける。だが、連中は悪びれている様子は無い。むしろ、当たり前かのような平然とした顔だ。
「これだから貴族様ってのは嫌いなんだ……!!」
平然と最低限のルールまで踏みにじって来やがる。後のことは金と権力でどうにかなるって話だろ。本当に、胸糞悪いぜ。
この間にも魔法やスキル行使の気配がある。幸いなのは騎士ってのは大抵の場合は魔法やスキルよりも剣術や体術を重視する傾向がある。
俺達探索者とは逆だ。俺達は魔法やスキルを最大限に活用して戦うからな。
身体を資本に、魔法とスキルをサポートとして使う騎士と、魔法とスキルを最大限に活用してどんな手段を使ってでも結果を出す探索者とでは、王立学院の学科同士でも時々いざこざがあったっけかな。
と無駄に過去を懐かしんでから、また飛んで来た火の球に拾った石ころを当てて誘爆させて、人気の無い細い路地裏に飛び込んだ。
「まて、どぅわっ!?」
「なんだぁっ?!」
その先にあった数段の小さな階段に小瓶を投げつける。なんてことはねぇ、ただの油だ。
ただし、金属製の鎧に包んだ足元と石の階段。そこに油をぶちまければ、勢い良く突っ込んで来た連中はひっくり返って転ぶ。
転ばせるのは戦闘の1人だけで良い。それだけで狭い路地じゃ動きが取れなくなるからな。
「魔法を使ってたのは、テメェだな!!」
俺はというと、ワイヤーを使って壁を駆け上り、適当なところで思いっきり空中で身を翻す。
狙いは1人、こんな街中で魔法をぶっ放して来たバカだ。
「うぎゃ?!」
身を翻した勢いそのままに、魔法をぶっ放して来た私兵騎士に思いっきり踵落としをお見舞いする。
騎士は当然兜を被っているがそんなのお構いなし。むしろ痛がるのは俺じゃなくて騎士の方で派手な金属音がしてからその場で崩れ落ちていた。
「1人やられた!!」
「戦闘2人もダメだ。油まみれにされて立てねぇ!!」
仲間をやられた私兵騎士達の間には動揺が広がる。そりゃそうだ、私兵とは言え騎士は騎士。それ相応の実力を持っているから騎士を名乗れることこそがこいつ等のプライドであり、価値だ。
それを一瞬で数人戦闘不能にされたとなっちゃ、動揺もする。
その間に俺は広い通りに飛び出し、またすたこらさっさと駆け出す。背後では隊長か誰かだろう。
怒号が飛び交い、また俺達のことを追いかけ始めた。
「な、なんだかすごい音がした気がするんですけど?」
「探索者のはいてるブーツが普通なわけねぇだろ。俺のはいてるブーツは鉄鋼狼の毛皮を使ってるんだぜ!!」
外套の下にいるせいで何が起こっているのか分かっていないカイに装備自慢をしながら走って走って走りまくる。
探索者の体力舐めんなよ? 半ば隠居してたからってその辺の騎士様に体力勝負で負けやしねぇよ。
追いかけて来る騎士達を尻目に俺は『エスメラルダ』から外に出るために走り続ける。そこまで行けば、いくらでもやりようはある。まずは街中を抜けることに集中だ。
思い付いた作戦を実行するために、私兵騎士達を半分誘いながら俺は人混みの中を全力疾走していった。




