ベルゼルド卿の刺客
大急ぎで仮の住まいにしていた宿屋へと走る。急いでいる俺を見て、ここ最近で見慣れた人はどうかしたのかと声をかけてくれるが、それに応じている暇もねぇ。
人混みを掻き分けながら走った先。『エスメラルダ』の街に来てから泊まっていた宿の入口が視界に入る。
そこにいるのは2人組のベルゼルト家の紋章が入った鎧を着こんでいる2人の騎士と、宿屋の店主。
何か紙を見せて話しているのが、遠巻きに見ても分かる。
「――ッ!!」
それが何なのか、想像するのは難しくない。おおよそ、カイの人相図か何かだ。貴族の養子が姿を消したともなりゃ、捜索が始まるのは分かる。
大抵の場合はロクでもない連中が身代金目的で誘拐したか、駆け落ちでもしたかの二択だ。
とりあえず探すことにはなるのは当たり前だが、早すぎる……!!
腰に下げる鞄からワイヤーを取り出して、近くの民家の屋根目掛けて射出する。引っ掛かったワイヤーを勢いよく引きながら、ワイヤー自体を巻き取って回収。
一気に屋根の上に飛び移ると人混みと騎士達の視線から逃れながら、宿へと一気に近付いて行く。
「カイっ」
「わっ?!」
宿に添えつけられたバルコニーから直接部屋に飛び込むと、部屋で大人しく留守番をしていたカイが驚いて跳び上がる。
普段なら少しばかりからかって話をしてやるところだが、生憎そんな時間は無い。
素早く荷物をまとめ、カイを小脇に抱えてバルコニーに出る。
「ど、どうしたんですか?」
「話は後でする。少しだけおとなしくしてろよ」
長旅をする時に必須の全身を覆うような外套。その中でカイを背負い、腰を紐できつく結ぶ。
これで間違ってもカイを落とすなんてヘマはしねぇな。
フードを深くかぶり、最終確認をして、またワイヤーを宿屋より高さのある建物の屋上へと射出、引っ掛けたのを確認すると俺はバルコニーから飛び出た。
同時に背後から扉を蹴破る音が聞こえて来る。振り返ると剣を抜いた状態で部屋に入って来た2人の騎士の姿。
家から逃げ出した子供を見つけ出すのに、扉を蹴破るどころか剣を抜いての対応。どう考えてもやり過ぎなそれを尻目に、俺はワイヤーにぶら下がりながら民家を壁を蹴り、周囲の民家や商店の壁を蹴りながら、宙を跳んで宿屋を脱出した。
「逃げたぞ!!」
「追え!!」
聞こえて来た怒号に俺は舌打ちをしながら、ワイヤーを回収して今度は民家の屋根を伝って駆け出す。
本当は逃げるところを見られないのが一番良かった。そうすりゃこのまま『エスメラルダ』の街を出るだけで追手を撒くことが出来たんだが、なっちまったもんは仕方ねぇ。
「せ、セイルさん。一体何が……!!」
「ベルゼルト家の紋章を付けた騎士が来た。恐らくお前を探してここまで来たんだろ」
「……!!」
背中にしがみついているカイに短く事態を話す。8歳の子供だが、カイは頭が良い。それだけで何が起こっているのか理解して、息を呑んでいる。
十中八九、レガリアス・ベルゼルト卿がカイを探している。じゃなきゃ、王都にいる大貴族の私兵の騎士がこんな田舎の港町に来るわけが無い。
だが、それにしたって早過ぎる。カイの話から逆算するに、まだカイがベルゼルト家の屋敷から逃げ出して10日程度しか経っていないハズだ。
その程度の時間しか経っていないなら、捜索の範囲はまだ王都にあるハズ。どんなにあってもその周辺だ。
それが大陸の西端にある活気はあるとは言え小規模の港町。そこにたった10日で騎士を出して探し回ってるなんて、どう考えてもおかしかった。
「どうもきな臭いぜ……!!」
カイに追跡の魔法やその類のなんかがかかっていないことは確認している。その手のことはミリアさんが得意だからな。
あの人のスキルにかかれば、その手のことは一発で判別が付く。
それでもこんな早くにここにベルゼルト家の手が伸びるってことは、相当カイに執着しているってことだ。
そこまで子供1人に執着する。これに何か異様な気配を俺は感じた。




