ベルゼルド卿の刺客
「この前頼まれてた装備品の改良、出来たぜ」
ルーキー2人に指導をしている最中に鷹竜と接触するイレギュラー対応をした日から少し日時が経った頃。
俺は変わらずギルドに顔を出して、便利屋稼業に精を出していた。
「おぉ、流石だな便利屋。要望通りだぜ」
頼まれていたのは装備品の改修だ。街の武具屋で量産品を買ったのは良いが、少しばかり使い勝手が悪かったらしく、その部分についての調整が依頼の内容だ。
「料金も予算内に収めておいたぜ。これが領収書な」
「助かる。これが代金だ、確かめてくれ」
「ひぃ、ふぅ……。OK、確かに受け取った。毎度」
「あぁ、何かあったらまた頼む」
そう言って、俺に依頼をして来た大柄の男は今日の依頼を熟すために受付のカウンターへと向かって行った。
あの体格で一般向けのナイフはそりゃ使い勝手は悪いわな。かと言って武具屋に量産品の調整ってなると武具屋は良い顔しねぇからな。
ああ言うのは手間がかかる割に金にならないし、客と揉め易いからな。オーダーメイドならともかく、量産品の調整なんて武具屋からすれば金にならない割に面倒が増えるやりたくない仕事。
量産品しか買えないような細客を相手にしている時間も無駄、と考えるところも少なくはない。
だから、大抵の探索者は多少は使いにくくても、初心者の内は黙って使いにくい武具を使う。
そういう隙間の仕事が『便利屋』の仕事、ってワケだ。あまり派手にやり過ぎると目を付けられるが、1人でやってる以上受けられる数にも限界があるし、俺も割に合わないと思ったら断るしな。
「相変わらず器用だねぇ」
「言っただろ。ミネルヴァ出身だって。ガキの頃からガラクタを弄り回して遊んでたんだ。あのくらいなら朝飯前だよ」
一部始終を見ていたギルドのホールに勤めているオバちゃんが感心した様子で声をかけて来る。
俺にとって、あのくらいの調整ならすぐに終わる。俺の出身地はアストレア王国の東部にあるミネルヴァって街だ。
そこは工業とか職人の街って呼ばれているところで、俺も実家も鍛冶屋をやっている。
そんな環境で育った俺の遊びは当然というか、親の真似事とか街に転がっているガラクタの解体とか別の何かに組み上げ直すような遊びばかりだった。
学校に入学するまでは幼馴染で前パーティーのリーダーだった奴と毎日ロクでもないものを作っては周りの大人に怒鳴られる生活をしてた。
ま、悪ガキだ。おかげで『便利屋』をやれてんだから、何が役立つか分からないもんだ。
「さて、今日のところは撤収するわ」
「あら、早いわね。まだお昼前だけど?」
「カイと一緒に買い出し行く約束してんだ。留守番ばっかじゃ可哀想だからな」
話もそこそこに今日は早めの撤収だ。カイを連れて『エスメラルダ』の街に繰り出して、人と交流させようってのが今日の魂胆だ。
他人に対して萎縮してばかりだからな。他人はそんなに怖いもんじゃないってことをゆっくりと思い出してくれるのが、一番良い。
ギルドのホールの一画を借りて広げていた『便利屋』の仕事道具を手早く片付けて、ギルドを出る。
活気のある『エスメラルダ』の街はアストレア王国が治めるセントラリア大陸の西端に位置するんだが、その活気は中々だと言って良い。
昔行ったことのある南の港『ソレイユ』や東にある暁の港『オリエンス』に比べるとその規模は小さいけどな。
あそこ二つはこの国の貿易の玄関口だからなぁ。
なんて考えている時。
「……っ!!」
視界の端に捉えた、全身を鎧に包んだ騎士。正確にはその騎士の鎧に刻まれた紋章を見て俺は息を呑む。
中心に光を意味する八芒の星。それを守るようにしがみ付く二体の鷹竜と王家に連なる家系であることを示す冠。
間違いない。ベルゼルト家の紋章だ。
それを見て、俺はそこから一気に駆け出す。
カイが、危ねぇ……!!




