意外な登場人物
すみません、前回の予告、守れてないです
「科学分野は冷遇されてる時代だから親戚が集まると愚痴大会だ」
皇帝は科学の発展を止めた。止めただけじゃなく退化させた。これまであった技術は使っても新しい技術は生まれない。
今の時代にエジソンが生きていたら、退屈で死ぬんじゃないだろうか。
「ケイティもエンジニアってタイプじゃないでしょ」
「あいつは生まれながらにして機械と相性が悪いって言うか、前世で仇同士だったって言うか。タブレットですらまともに使えないだろ」
ケイティは体質が特殊なのか。理屈は分からないが良く機械を壊す。テレビも音楽プレイヤーもケイティが扱うと調子が悪くなる。だからケイティを知っている人は機械の操作を彼女には任せない。ケイティも自分からやろうとしない。今の世の中、機械を完全に避けるなんて絶対無理だけど。だからしょっちゅう物を壊している。
あれはケイティのせいというより、生まれながらの体質だからどうしようもない。どうしようもないのに、事情を知らない人はケイティに責任を求めるから同情する。
最近じゃ電子機器に触れるときは薄いラバー製の手袋をはめるようになった。放電グッズも揃えている。原因がただの静電気の問題なのか分かってないから、あんまり意味ないと思うけど。
視界の隅にエレベータが展望ラウンジに到着するのが見えた。と、見知った顔が出て来たから思わずガン見してしまった。
見事な金髪の美少女。エリザベス・リーウィンだ。
ただ黙ってそこにいるだけで目立つリズはこんな場所でも人目を惹く。思わず凝視した僕の視線に気づいたのかリズもこちらを見た。期せずして視線がぶつかる。
僕を認識するとリズは驚いた顔をして視線を逸らした。クラスメイトに会うとは思っていなかったというだけじゃなく、知り合いに会いたくなかったという感じだ。
「あれ、どっかで見た子だな」
僕の視線に気づいたジロウはリズを見やってそう呟いた。
「うちの学校の子だよ」
「なんだ、おまえの浮気相手か」
「ろくに話したこともないよ」
別に嫌っているのでも嫌われているのでもなく、話す用がないから挨拶程度しかしたことがない。決して気後れしてるわけじゃない。苦手なタイプだけど。
「ケイティが小うるさいパピヨンとすりゃ、ありゃボルゾイだな」
なんとなく納得。でも絶対ケイティの前では言えない。僕の命が危ない。
リズは僕を避けるようにして人混みに紛れた。いや、紛れようとしていた。展望ラウンジにはそれなりに人が入っているとは言ってもリズの外見は目立つ。当人の努力に反してどうしても目立ってしまう。
けれど僕は空気を読んで敢えて声をかけないことにした。
彼女は僕に気づき、距離を取って態度で意思表示をしているんだ。なら、それに合わせる方がいい。彼女に声をかけなきゃならない特別な理由なんてなにもないんだから、わざわざ相手の嫌がることをする必要もない。
午後2時までは少し時間があったので一度ラウンジから下り、近場のファストフードに入った。
アルバイトの女の子じゃなく、味気ない機械仕掛けの店員に注文を通す。
僕一人なら昼食を抜くか、展望ラウンジで割高のジャンクフードでも良かったのだがジロウが一緒だとそうも行かない。幸い展望ラウンジの入場券は購入日なら何度出入りしてもいい。制度上、何度出入りするのも自由とお得感を持たせてあるが、実際にはそう何度もエレベータで上下する人間なんてまずいないだろう。余程ラウンジからの眺望が好きとかじゃなければ。
リズはどうしたか知らない。
僕がエレベータで下りるときにはまだ展望ラウンジにいた。
「で、おまえはなにしにあそこへ行ったんだ?」
聞かれると思っていた。
面倒な質問だ。
そもそも、僕にはその質問に答えないといけない理由がない。
僕がジロウを誘ったならともかく、ジロウは勝手に人を尾行して来たのだ。たぶん、今日はなんの予定もなくて暇だったんだろう。先月付き合い始めた彼女には捨てられたに違いない。ジロウが捨てられるのは良くあることだ。付き合いだしても数ヶ月で『良いお友達』になってしまう。今年だけで既に3人は友人が増えてるんじゃないだろうか。
「別に。たまには視野を広く持ちたかっただけ」
先日受け取ったメッセージのことは話せない。それを話すには僕が魔法使いであるところから話さないと行けなくなる。それはケイティにもジロウにも内緒のことだ。僕の身の安全に係わるのだから、もし明かすとしたらそれなりの覚悟が要る。少なくともこんな風に流れでなんとなく話すようなことじゃない。
「それを信じろってのは無理がないか?」
僕もそう思う。
普段から僕がそういう行動を取る人間ならともかく、そうじゃないことはジロウには知られている。そんな今思いついたような(実際今考えた)理由が信用されるわけがない。
「暇だからって、人のやることを一々チェックしないで欲しいな」
「別に取り調べってわけじゃないんだ。単なる好奇心だ。それとも、なにか人に言えないような事情が有るのか? それも兄弟同然の俺に隠さなきゃならないような事情が?」
まったく、狡い聞き方だ。
僕はジロウのことは尊重している。それこそ、『不肖の』兄とも思っている。それでも話せないものは話せない。
「そう言えばリズはなにしに来たんだろ」
意図的に話をそらそうと思ったわけじゃなく、言い訳を考えていて思いついた。
他の街からの観光者ならともかく、この街に住む人間にとって旧テレビ塔の展望ラウンジなんて決して楽しい場所じゃない。
誰かとデートの途中で立ち寄るならともかく、独りで行くような場所じゃないし、待ち合わせするにもずれている。
「ああ、さっきの子か。そう言えば前にも見た覚えがあるな。地元の子なんだろ?」
「そうだよ」
「旧テレビ塔なんて遺跡巡りみたいなもんなのに、物好きだな。なあ、今度紹介しろよ」
趣味はともかく、見た目は気に入ったということだろうか。
「クラスメイトってだけで友達ってわけじゃない。もし友達だったらジロウを紹介するわけない」
ジロウは見てくれは悪くないからリズと並んでも見劣りすることはない。ただ優等生のリズに比べてジロウははみ出し者だ。とても人様におすすめできない。
「どういう意味だ、おい」
「欠陥商品を知り合いに売りつけたら気が咎めるって話だよ」
「誰が欠陥だ」
「欠陥は言い過ぎかな。ちょっと瑕疵がある。リズは愛想がないんだ」
「……ああ、あの子の話か」
いや、リズは少しばかり愛想無しでもそれを補って余りあるんだけどね。欠陥は間違いなくジロウの方だ。ジロウを紹介したら僕がリズから恨まれかねない。悪党ではなくとも人にはすすめられない相手ってのはいるものだ。
次回、次回こそは事が動きます!




