強制連行中
話は現代、ジョンに戻ります
それほど流行っていない観光地ではあっても30人ぐらいはいたように思う。もうちょっと多いかもしれないが数えていなかったから正確な数字は分からない。分かったところで状況は好転しないだろう。
僕らは手錠をかけられて展望台ラウンジから下ろされ、下で待っていた護送車に乗せられた。僕が乗せられた車両以外にも二台ぐらいあったように思う。
護送車には僕を含めて8人が乗せられ、左右の壁面に沿って4人ずつ座らされた。そして二人の監視がついた。二人とも防護ベストに短機関銃、頭部はヘルメットと武装していて素手で喧嘩を吹っ掛けても勝てそうにない。訓練され武装した人間に勝てるのは同等以上の装備と訓練を積んだ人間か、痛みも恐怖もないロボット兵。
ロボット兵は『殺傷能力のある自律型機械に関する条約』で禁じられている。ずっと昔に戦場にロボット兵を大量投入した国があったせいだ。痛みも恐怖もなく、ただただ人を殺戮していく機械。兵士と民間人の区別はつけるようにされていても、その線引きは武装と戦意の有無と曖昧。戦時下においては民間人が身を守ろうとすることだってある。身を守るために身構えただけで戦闘行為準備だと判断したらしい。結果、民間人と軍人の区別なく殺戮された。
ロボット兵が止まる条件は三つ。
設定された領域内に脅威がいなくなるか、燃料が切れるか、破壊されたときだけだ。
ロボット兵一体を軍から強奪した男が100人を超える死傷者を出す事件もあった。
結果、ロボット兵には大きな制約が設けられることになり、その後に皇帝の登場もあって戦争用殲滅兵器としてのロボット兵は廃れた。今じゃ完全稼働する機体はないんじゃないかな。人を傷付けるロボットは人間が操縦する。そういうのが最低限の決まりだった気がする。
そんなありもしない戦力の話をしても仕方ないが、今、ここから僕らが脱出するにはそれぐらいが必要だと思う。
僕らを直接監視しているのは二人でも武装した人間は他にもいるんだ。仮に二人を出し抜いて車外に逃れてもすぐに捕まるか蜂の巣にされそうだ。
「ったく、どうなってんだ」
ジロウが僕の隣でぼやいた。
ごめん、と言おうとしてやめた。僕はジロウを誘ってなんていない。ジロウが勝手に僕を尾行したんだ。僕が謝るような筋の話じゃない。
リズは僕の正面に座らされていた。
やっぱり手錠をされている。僕の方を見ようともしない。
なんというか、彼女のことで悩んでいたのか馬鹿らしくなった。リズがあの場にいた理由なんて最初から分かり切っていたのに、僕はそのことに暫く気づけなかった。間抜けな話だ。
それより問題は今とても危険な状態にあるってことだった。
テロの容疑というからにはそれなりの取り調べを受けることになるだろう。なんの問題もない人はそれでいい。後ろめたいことのない人は不快な気分になりながらも質問に答えて行けばいつかは釈放されるだろう。……たぶん。最悪のケースもあり得るとしても、それは考えても仕方ない。
けど、僕はそうは行かない。
僕は魔法使いの登録をしていない。これは大問題だ。ただ魔法使いとそうでない人を第三者が判別することはできない……はずだ。だから僕もこれまで誰にも秘密にしてこれた。けどテロ容疑者として尋問されると黙っていられるかどうか。
まず、僕があの場にいたことを筋道立てて説明すると魔法使いであることを話さねばならなくなる。無登録の魔法使いなんて即処罰の対象だ。死刑だって視野に入る。そうでなくとも将来は肩書のある奴隷だ。
うまく誤魔化せるか?
嘘発見器なんてものを出されたら、僕の心拍数が異常値を示すのがはっきりと分かってしまうだろう。強面の大人たちを前にシラを切り通せるほど肝は据わってない。
そのものずばり、「おまえは魔法使いか」なんて質問はないことを願うが、その他の質問だって誤魔化さなければいけないものには嘘を言うしかない。そうすればどうしてその質問で嘘をついたかを調べられ、最終的には魔法使いであることがバレる。
黙秘を決め込んだらどうか?
この手の組織が黙秘権を認めてくれるとは思えないし、テロリストを見付けようとしている相手に黙秘をするのは余りにも不味い。黙秘ってことは自分が犯罪者だと認めているようなものだ。
いっそ、パニックを装うか。
まだ未成年なんだからこの状況でパニックを起こしても不自然じゃないだろう。そうなればまともに質疑応答なんてできるはずもなく釈放されるんじゃないだろか?
いや、駄目だ。
落ち着くまで監禁されるか鎮静剤を打たれるか。尋問を先延ばしにはできても受けずに帰れるとは思えない。
それにテロ容疑の場合、人道が無視されるのは珍しくない。もしこの武装集団が皇帝からの指示で動いていたなら、超法規的措置も暗黙の了解で認められている。余りに手が掛かる人間はその場で駆除されないとも限らない。
じゃ、自力脱出は?
これが一番非現実的だ。
武装した男たちを圧倒する戦力がない。不意打ちなら、魔法を使って一人二人ならなんとかなるかもしれない。けど、正面切って戦うとなれば僕程度の魔法じゃかなり厳しい。詠唱した瞬間に警戒されるし、詠唱を小声で済ませても銃の連射速度には勝てないだろう。
数と火力が違い過ぎる。
僕は拘束されているし、戦闘訓練を受けていない。自主的トレーニングはしていても実戦で魔法を使ったことがない。
…………
どう考えても詰んでないか?
「どうせみんな殺すんだろう」
一人の男が声をあげた。さっき展望ラウンジで双眼鏡を一つ占拠していた男だ。皆の視線がそちらへ集中する。
「おい、私語は慎め」
監視役の一人が威圧しても男は黙らなかった。
「いいや、黙らないね。テロリスト容疑と言ってもあんたら警察じゃないだろう。なのに警察を名乗ったってことは政府機関でもない。じゃ、どこかって言うと一つしかない」
ざわめきが走る。
警察でも政府機関でもない。それでいてこれだけの部隊を市街地で展開できるとなれば確かに一つしかない。
皇帝直属機関、『宮殿』と称されることもある組織。
「ただのテロ容疑じゃない。反皇帝のテロリスト容疑だ。まともな取り調べなんてされるもんか。拷問して情報を聞き出した後で殺す。常套手段じゃないか」
「吐き出す情報がなかったら?」
ジロウが質問する。
ただ間の悪い場所に居合わせて巻き込まれただけなら、面倒でも取り調べを受けた後には解放される。みんなそう思っていたはずだ。だから、おとなしくしている。一時の不愉快を受け入れれば自由になれると思っているから。
「情報がなかったら始末されるだけだ。どう転んでも解放なんてあり得ない」
「おい」
見張りの一人が銃床で男を殴りつけた。小さな悲鳴を誰かが上げた。
「少し黙ってろ」
「黙るか。どうせ死ぬんだろ。なら、命令を聞く意味もない」
男はなおも食い下がる。
男の言っていることが本当なら僕の生存確率はほぼゼロだ。滅多に行動を起こさない皇帝が兵を出したなら多くの血が流れる。
誤認逮捕や冤罪なんてものは所詮国内法。人権にしたところで人間同士の約束事。
皇帝がいる場所とは次元が違う。皇帝は例え気紛れで人を殺しても罪に問われない。
国の法律より上に存在する組織って、ヤバ過ぎでは?
次回は24時間後(予定)




