祖父の言葉
すみません、1ヶ月ぐらい空いてしまいました
少しだけ場面跳びます
ジェリーが『はじまりの言葉』について祖父に聞いたのは、まだジェリーが子供の頃のことだった。
「『はじまりの言葉』は忘れてはいけない言葉。そして決して人が口にしてはいけない言葉だ。おまえが大きくなったらお父さんから教えられるだろう。
けれど、いいかい、ジェリー、それは決して人が口にしていいものではないんだよ。それは人を人でなくしてしまう」
祖父の言うことが良く分からなかった。
なにかお伽噺の類かとも思ったが祖父は真面目な顔をしていた。
なら、本当にそういうものがあるのだろう、と幼いジェリーは素直にそう受け取った。
だから幼いながらに真剣に考えた。
人を人でなくしてしまうとはどういうことなのか。
それ以前に、決して口にしていけない言葉をどうして教えるのか。どうやって教えるのか。
疑問は多くあったが祖父は質問は受け付けないという顔をしていた。
それで、ジェリーは仕方なくなにも問わなかった。
ジェリーが父からそれについて最初に話を聞いたのは祖父の死後だった。
祖父が死んだのは中東で良く分からない理由で戦争が始まった頃。
ある大国の大統領が中東の国に突如空爆を行い、国の政治指導者を殺した。それが切っ掛けとなり、泥沼が始まった。
葬儀の後で、昔祖父から聞いた話を父にすると、父は難しい顔をして、
「そうか、知ってるのか」と言った。
「あれはどういうことなの?」
分別のつく年齢になってから考えれば、やはりあれはお伽噺の類としか思えない。
けれど、それにしては祖父が真剣だったことが気になる。
良く冗談を言う人ではあったけれど、あれはいつもの冗談とは違った。妄想に取り付かれていた様子もない。
祖父の言葉のすべてが真実だとは思えないが、なにかしらの元となるものがあるに違いない。そう思っていた。
「あれは、まあ、本当のことだ。ただ、誰も口にしたことのない言葉だ。本当だが、全部が本当かは分からない」
父は煙草を咥え、けれど火は点けなかった。
もう何年も前にやめている。咥えるだけで落ち着くから咥えているだけだ。
「あれは、俺の祖父の代から引き継いだものらしい。親父は俺に伝えるかかなり迷ったと言っていた。その気持ちは俺も分かる。内容を聞いちまうと、どうしてもな。昔の人間のホラというには色々と証拠が揃い過ぎてる。
次の代に繋げるのが役目だと言われたが、おまえに渡していいものかどうか、ずっと悩んでいた。もし本当なら失われるには余りにも惜しい。けれど人の手に余るものだ。
俺は、結局使えなかった。そんな勇気がなかったんだ。世界がここまで壊れても、そこに立つ気にはなれないんだ」
「どういう意味?」
「親父から聞いたろう。『はじまりの言葉』は人を人でなくしてしまう。
今まで、親父も俺も口にしたことはない。
一度口にしてしまえば取り返しがつかないんだ。
……本当は、誰かがやらなければならないのかもしれない。この世から、戦争を無くすのは人間じゃ無理なんだ。人間をやめたものでなけりゃ、そんなことはできない」
父のまどろっこしい話し方にジェリーはいい加減苛立った。
普段の父とは違う姿だった。
普段の父はもっと短慮で、ぐじぐじ悩まない人だった。
なのに、『はじまりの言葉』のこととなると「らしさ」が失われしまう。
「悩むぐらいなら、捨てちゃえば?」
ジェリーの言葉に父は、はっとした顔をして、それから首を横に振った。
「いいや、駄目だ。それはいけない。言ったろう、失われるには惜しいって。
折角のチャンスなんだ。ただ、それを行える器の人間がいないと、半端な人間が扱えば世の中がもっと酷い事になるというだけで。
俺には無理だった。俺は、間違える自信がある。だから、駄目だった。手を出さなかった。それは俺にしてみれば自分を褒めたいぐらいの自制心だ。
………………。
ジェリー、おまえは俺と違って頭がいい。親父の親父、祖父さんに似たのかもしれないな。大学だって入れた。だから、おまえなら俺と違って使い所を間違えないのかもしれない。けど、それでもおまえに確認しなくちゃならない。
おまえは、それを知りたいか? 知ってしまえば、知らなかったときには戻れない。おまえの肩に、本来背負わずともいい責任がのし掛かる。
俺はいい父親とは言えないかもしれないが、それでも息子に余計なものを背負わせたいとは思わない。
それでも、おまえは知りたい思うか?」
父が余りにも真剣だったからだろうか。
ジェリーはその場で即答できなかった。
少し考えさせて欲しい。そう言ったジェリーに父は、ゆっくり考えるといい、とだけ言った。
次回は章後編
そんなには空かない予定です




