表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BIRUS  作者: 九缶婆
PR
2/3

エピソードⅡ 【鬼出電入】

私は幌倶(ホログ) 来向(ラム)


『Forseti』自警団の"フォース"、No.4だ。


私は大事な書類の束を抱え、司令室へ向かったが......


「今日に限って不在か?!」


司令官室のドアフックに提げられた"不在"を表すプレートを見た私は、思わず憤りの言葉をそのドアにぶつけてしまった。


私の声に気づいたのか、廊下の角から同僚がやってきた。


サイボーグ化したことで多腕になった彼は、焦るあまりに義腕を幾度か壁にぶつけてしまっていた。


「来向!! 急に怒鳴ってどうしたんだ?」


「見音か。司令官が不在なことで知ってる事はあるか?」


「え、不在なのか?」


「......やっぱいい」


抱えていた書類をドアの前に置いた。


ちょっと邪魔だが、この仕打ちに対する仕返しとしておこう。


「そういえば、龍壱も今日来てないそうだぞ。親子揃って不在ってのも珍しいもんだ」


「ふん、司令官と比べれば常識的だと思ったが、所詮蛙の子は蛙か。司令官が"フォース"の席に彼を入れていたのも、親バカ故の贔屓だろうな」


私の口から溢れんばかりに飛び出る愚痴に、同僚はやや引き気味だった。


「そこまで言わなくたっていいじゃねえかよ......」


「......まあ、少し言い過ぎだったな」


私は自分がドアの前に置いた書類の束に目を向けた。


私たちが目をつけている特殊技術組織『Gorgon』についての調査記録がびっしりとまとめられている。


「この記録がまとめられるのに、どれ程多くの手間と犠牲があったか......なのに、それを見るべき人間が此処にいないのに腹が立つんだ」


「まあそう言われりゃそうだが、司令官の弁明を待とうじゃ_____」


同僚の顔が突然、目を見開いて私を見た。


いや、彼は私ではなく、その背後を見ていたのだ。


「お姉さん、ここが"Forseti自警団"かい?」


私は目の前の同僚にアイコンタクトを送った。


同僚が"理解"のアイコンタクトを返したタイミングで、私は瞬時に背を低くし、同僚は私の頭頂部を掠めて後ろにいる曲者に目掛けて一本の義腕を投げ飛ばした。


メテオの如く鋭いパンチだったが、曲者は容易に躱し、逆にその義腕を同僚に目掛けて投げ返した。


「なにッ!? ただもんじゃねえな」


私は低姿勢から曲者の頸に目掛けて全力の蹴りを当てにいくが、それも容易に躱された。


"気づいてから"や"察知してから"なんてものではない。


それはまるで、演劇で予め打ち合わせする殺陣のような挙動だった。


即座に腰に差した打刀を抜いて戦闘態勢を整える。


それによって曲者へ顔を向けたことで、私は初めて彼の姿を見た。


白く重そうな義足より上が真っ黒の厚着で、それ故に彼の茶髪と青い瞳が目立ち、腹立つぐらい端正な顔つきだった。


片目には、彼自身のアイデンティティとでも言いたげに一本筋の古傷が刻まれていた。


「手厚い歓迎をどうも。しかしちょっと過激じゃないかな?」


「ハナから歓迎なんてしてないわよ。それより、どうして"此処"が分かったの?」


しょうもない戯言を言うので鼻につく、そのイケメン顔で許されると思うなよ。


しかし同僚の言う通り、確かに只者なんかではない。


その戦闘力もそうだが、何より"此処"のセキリュティを形跡も予兆も察知できないまでに隠密で突破してきたこと、なんならそれ以前に"此処"だと気づけていたことが、その曲者の只者ではない強い証拠......


「"蒼薔薇 龍壱"という男から教えてもらったのさ」


龍壱からだと?


此処の組織の事について、如何なる者だろうと口外はタブーとされているはず......


「どういう経緯で聞いたんだ?」


「経緯ね......龍壱の"代わり"と行ったら伝わるかな?」


腹立つ言い方だ。


こんなヤツと一緒に居ろなんて言われたら切腹する方がマシだ。


しかし、龍壱の"代わり"とは......?


代わりになってもらわなければならない事情があるのか?


「どうして龍壱の代わりに_____」


私が言いかける瞬間、その曲者と私の間に強烈な突風が起こった。


あまりにも強力なその風は、視界に広がる空間が歪んで見える程だった。


その風の中から黒いシルエットが現れた。


しかしそのシルエットが具象化する前には、既にその正体はこの突風の異質さで明確だった。


「リュウ司令官......!!」


「悪い、遅くなった」




俺は見音(ミネ) 千斗(セント)


この組織で上位の4人クラス"フォース"のNo.3だ。


今日もイレギュラーで大変だが、その中でも特にイレギュラーな状況にいる。


侵入が実質不可能の"此処"に謎の男が侵入し、実に切羽詰まった状況であった......


あの黒い風が吹くまでは。


その強烈な突風は来向と違ってそれなりに距離があった俺ですら圧倒されていた。


この突風を何食わぬ顔で起こせる人を俺は知っている。


俺たちが所属する組織の創設者であり、司令官である"蒼薔薇 龍"だ。


「リュウ司令官_____」


「ナニしとったんじゃワレェ!!!」


来向の渾身右ストレートがリュウ司令官の顔面に入った。


「「え、えぇ〜......」」


俺と茶髪野郎の感情が思わずシンクロした。


彼女の右ストレートがリュウ司令官の頬に突き刺さっているが、彼の顔はその場で固定されたかの如く動かなかった。


怒りで彼女の顔は首筋まで真っ赤だったが、色は青く、表情は苦痛の顔へと漸次的に変わっていった。


「イッッッッタアアア!!! どんだけ硬いんだ!?」


彼女の右手には痣で青く染まっていた。


良くて打撲、最悪複雑骨折だろう。


「え? あー......イタイ、イタイナー」


リュウ司令官は殴られた片頬を抑揚もなく撫でる。


その頬には、痣どころか打たれて染まるはずの赤も見当たらないのだが......


「お世辞にも上手いと言えない演技......しかし、なんでしばらくいなかったワケだ? それに貴方の息子もいないじゃないか」


「それなんだが......」


リュウ司令官の顔が一瞬曇るが、その後まっすぐな瞳でこちらを見て口を開いた。


「俺の息子、龍壱が何者かによる奇襲で重症を負った」


リュウ司令官からの言葉に俺は目を見開いた。


来向は龍壱が不在な理由を知り、そしてその理由でリュウ司令官が不在だったのだと気づいたのだろう、彼女は後ろ姿でもわかりやすい程バツが悪そうに立ち尽くしていた。


向こうに突っ立っている曲者は「そうそう」とでも言いたげな顔で小さく頷いていた。


「ただ、"誰か"の通報で龍壱は緊急搬送されたおかげでまだ命はある。意識はないがな」


「んふー。それがオレってわけよ」


リュウ司令官が言う"誰か"がそう言った。


来向とリュウ司令官は物凄い勢いで彼に顔を向けた。


俺も例外ではなかった。


「"代わり"って、そういう......」


「そう、オレが龍壱に代わってこの組織で活動するってワケよ」


自信ありげな彼と対極的に呆然とした顔を貼り付けた俺たち。


特にリュウ司令官は、その彫り深い顔により一層影がかかって見える。


しばらくの沈黙の中、リュウ司令官はようやく口を開いた。


「......なるほど。分かった」


「分からないでくださいリュウ司令官」


渋々納得したリュウ司令官と、嫌な予感がして否定する来向。


規律を重んじる彼女の性格からして、あのような男とは相性が悪いのだろう。


しかし顔を青に染めて首を振る彼女の必死な制止も虚しく_____。


「それなら助かる。俺の息子を助けてくれたこと、そして代わりとして来てくれたことを。是非ともよろしくお願いしたい」


リュウ司令官の言葉に、彼女は遂に卒倒した。


「あ、泡吹いてる......」


少しオーバーリアクションな気がするが、余程彼が配属されるのが嫌だったのだろう......

とにかく、リュウ司令官と龍壱の事情も、あの男が此処に来た理由も理解できた、が......


「いや、そいつどうやって"此処"に来れたんだ?」


「......そういやどうやったんだお前」


忘れかけてたが、そもそも"此処"は関係者以外は立ち入れるどころか"認識すらできない"。


なにせ此処は強力なバイルス作用を意図的に放出させているのだ。


簡単に言えば、此処は"危険である故に建て壊しされず残された廃墟"という設定で認識されているのだ。


仮に侵入されても、此処には誰もいないか幽霊が出てくるように錯覚するだけで、此処にいる組織の関係者の姿に気づくことはない。


しかしあの男は違った。


あの男は此処が俺たち組織のアジトなのを知っていたし、俺たちを認識出来ている。


それとは別に、あの男が侵入したと分かる痕跡や予兆がなかったのも気になる。


「まあ、そのうち分かるさ」


特に理由を言ってくれる様子はない。


しかし、はぐらかしていると言うより、彼が言った言葉がそのままの本心に見える。


「そういえば、名前を訊いていなかったな」


彼はリュウ司令官の言葉に待ってましたと言わんばかりの表情で口を開いた。


しかしその声は、リュウ司令官ただ一人に向けて発しているような気がした。


「オレの名は"蒼鬼魔 雷"。どうぞ、お見知り置きを」

蒼鬼魔、参入_____!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ