主役
どんなことにも主役と脇役が存在する。映画なら至らない所がありつつも悪を倒す主役、ひたすら不幸な目に遭う主役、被写体としての主役などがいる。そして危害を加えたりする役も主要な登場人物だ。アメリカのコミックや人気な小説にも主役が存在する。脇役は主役を引き立たせる存在。主役と脇役はフィクションだけではない。わざわざ口に出さないだけでこの現実世界にも存在する。注目を浴びる人間はまさに主役だ。映画などの作品の中でも、作品の外にも必ず存在する。
「アリッサと同じ待遇を受けたいなら忠誠心をちゃんと示せ。」
「分かった。もう反抗とかはしないよ。」
監禁物件でも主役は存在した。サイモンは物語を構想する人間、主役はアリッサだ。権威を持ってるのは彼だ。主役は監督からの寵愛を受ける。脇役より目立つ権利がたくさん与えられる。もちろん気に入られないことがあればその寵愛は受けられなくなる。彼女は気に入られなくなることはない。彼女はかなり頭の回転がはやく、理想的な主役だから。私は監督からの愛も主役からの愛も受けたい引き立て役。脇役ほどではなくても主役には届かない役だ。気に入られれば主人公になれる可能性も上がる。
「久々にご褒美をやろうか。」
「いつぶりなんだろう。1週間はご褒美貰ってないわね。」
「クレープか?」
「それはやめておくよ。ガムが食べたい。」
「ガム?味覚が変わったのか?そんなもので腹が満たされないだろ。」
彼はご褒美を与える時だけは笑顔だった。友達だった時の彼をみているようだった。友達のように気にかけている感じだった。その時私は彼に愛されてるんだと思った。
「遠慮はしなくて良い。」
「遠慮してるわけじゃないの。本当にガムが食べたいだけなの。ご褒美に制限はあるのかしら?」
「良い子にしてたら何でも与えてやる。」
最初は監禁と酷い仕打ちばかりだったがだんだんその待遇ばかりではなくなった。その中でご褒美や瞬間的な寵愛を受けられるようになった。私は少しばかり彼から信用されるようになったと思った。彼の理想に近づいたと。
「ガム捨てる場所はあるの?」
「そこら辺に吐いとけ。」
「部屋が汚くなるんだけど。」
「わがままを言うな。見ろ。彼女は何一つわがままなんて言ってない。」
だけどいつも特別扱い受けるのは彼女だった。2人に裏切られてる気分だった。私はきっと2人から愛されたかった。
「そう。」
私はガムを適度な場所にはいた。そして一部は椅子の近くに吐いた。何もされてないこの汚らしい空間にも慣れて来た。部屋にはハエが数匹いた。灰色の砂漠にも生き延びれる生き物がいる。ハエも私もどういうわけか生き残っていた。ハエが生き残ってる理由は子孫を残す為、私は特別な人達の為に生き残っている。あれからアリッサは映像上の存在になり隣の部屋に戻ってくる事はなかった。彼女がいる部屋は宮殿に住んでいる貴族が住むような部屋だった。壁は花柄模様で絨毯は茶色の無地な絨毯だった。彼女のいる所はいつも明るかった。彼女が光を引き寄せてるようだった。逆に私のいる空間は淀んだ灰色だった。その灰色も前より濃くなっている感じがした。飛び回っていたハエも力つきて落ちて死ぬくらい果てしない空間だった。
「サイモン、サイモン!!こっちに来て!サイモン、サイモン、こっちに来て!」
私はわけもなく彼の名前を言って叫んだ。
「サイモン!サイモン!」
駆けつける足音が聞こえる。私の為に駆けつけたんだと思った。
「サイモン!」
彼はドアを開けて、私のことを殴った。
「良い加減にしろ。」
「どうして?私が何をしたって言うの?」
「わけ分からないことを叫んだだろ?助けを呼ぼうとしたのか?そうだろ?」
「信じて!私はそんなことなんてしてない!」
「嘘をつくな。」
「本当よ。信じて。」
私は彼に殴られた。名前を呼んだだけなのに殴られた。
「そうだ。良いことを教えてやろう。」
「何?ご褒美?」
「図に乗るな。」
「もったいぶらないで。」
私は彼にビンタされた。それも何回も。もう殴られることも慣れた。私は外の世界に希望を持たなかった。この閉鎖空間で希望を持つようにした。好きな人達と愛し合う希望を。
「お前の両親は死んだ。いや、ある殺人犯が殺したんだ。今日テレビで見たよ。」
「だから何?」
「平気そうに答えてるけど動揺してんだろ?」
「動揺なんてしてない!もうあいつらのことなんて忘れた。無駄なことは考えないことにしたの。」
「それなら何で涙を流してる?」
私は無意識のうちに涙を流していた。
「少し眠かったから。」
「嘘だ。本当は強がってるだけだろ?」
「違う。本当に気にしてない。あんな奴らとの記憶なんてもうなくなろうとしてるのよ。」
「嘘をつくな。本当のことを言え。本当は辛くて辛くてつまらないんだろ?」
私は思い出した。もう忘れていたはずなのに両親との時間を思い出した。父親との時間、母親との時間。母親は食事管理が厳しくても一緒に映画を見たり、舞台を見に行ったりして楽しかったあの時を思い出した。そして父親は私と似ていた。スポーツ観戦して叫ぶ時間がその時になって頭に思い浮かんだ。応援してるチームが同じで美味しい飲み物を飲みながら応援していた。一人の選手が上手く行かないとちょっとしたやじを飛ばしていた。それも含めて幸せだった。だけどそれはもう記憶でしかない。
「嘘よ…どうして…誰かそんなこと…」
「疑っても良いけど。よく考えるんだ。」
もう平気だと思っていたのにその現実に直面すると心が締めつけられるようだった。目の前で両親が殺させる幻覚が見えた。
「良いか?もうお前の帰れる所はどこにもない。ここがお前の居場所だから。もう一度言う。お前の帰れる場所はどこにもない。分かったか?」
「嘘よ。そんなはずない。」
「信じないならここで孤独で辛い餓死をさせても良い。一人で生きれる小学生がいると思うか?俺さえ信じられなかったら寂しさに襲われる惨めな最後を過ごすしかないな。」
子供にとっての孤独は危険との隣り合わせ。冒険してれば魔女が現れて思うような力を与えてくれるわけではない。現実は絵本のような世界ではない。汚く不平等が広がる世界だ。そんな世界で子供一人で生き残るのは難しい。
「俺から逃げた所でどこにも行ける宛はない。世間は同情するだけ。本当に助けたい人がいると思ったら大間違い。こんなに優しい人間はいないぞ。」
イジーやジェニーやその家族に再会できたとしても安心して充実した人生を送れる保障なんてどこにもない。それなら彼のもとで生きた方がマシだった。両親を失えば帰る所はない。そう言う彼の言葉を私は信じきった。愛していたからそうするしかなかった。両親と同じくらいの存在だったから。
「どうやってもここからは出られない。自由に慣れたところで俺よりもっと理不尽な目に合わせる人間がいる。困った人を助けるように世の中は出来てない。」
この閉鎖空間は世界の片隅でしかない。
「俺の言うことに従って生きるしかない。」
私には彼しかいなかった。アリッサですら遠い存在になってしまったから。普通の子とは違う特別な彼女ともう会えないかもしれないから。問い詰めても彼から殴られることが分かっていたから。
「もしあの子がいなくなったら私はあの子部屋に行けるの?」
「それは君次第だ。」
彼は私の体を撫でた。その感触は不快感から愛だと思うようになった。これが愛なんだと思った。
「入浴の時間だ。」
シャワーの時間も相変わらず彼に見られながらだった。この日は違った。入浴することを許してくれる感じだった。ピンクの薔薇が浮かぶ風呂だった。その様子を彼はカメラにおさめる。私は女優のような気分だった。私を照らす光はいつもあの空間だったから。彼にこんな待遇を受けるのが嬉しかった。この時憧れの彼女に近づいた。
「いい匂いね。入浴なんて久しぶりね。」
私にとって入浴は贅沢品になった。少しばかり彼女の階級に近づいた。薔薇の匂いが私のことを包む。とても心地良かった。ずっとこのままでも良かった。撮られていることも忘れるくらいだった。
「素敵なプレゼントをありがとう。」
私は少しばかり笑った。その笑いは世間体から見れば異常な笑いだった。誰かは私のことを狂ってると言うだろう。だけどそんなことはどうでも良かった。もう私に必要な人は彼と彼女しかいなかったから。私も彼女も縛られているのに自由だった。その時の私の自由は彼から与えられるものだと思うようになった。解放されるのが自由ではなかった。動物園の檻の中にいる動物達、庭の決められた所に植えられた植物が特別待遇を受けられるのが自由だと思った。
「隣には新しい「住人」は来る予定なの?」
答えてメリットがないことは彼は無言だった。彼がいるなら数時間もゴミしかない灰色の空間を耐えられた。孤独でいる時間はこれからどんな未来を歩むか考えた。外の世界には希望はない。1つ思いつく未来があった。
「ねえ、ここを改装してみない?」
「どんなふうに?」
「ユニコーンと天使の像をここに置いて。それとカラフルな冷蔵庫も置いて。壁は宮殿みたいな壁にして。隣の部屋は薔薇園なんてどうかしら?とても優雅でしょ。」
「紅茶を飲みながらお茶会ね。」
「それならお前達2人にドレスを着せてやる。」
私達三人はドレスを着ながら踊っていた。どこか分からない空間は理想郷だった。外の穢れを知らない理想郷だった。
「ここにジャグジーを作った。それと忠実な召使いもいるのよ。」
召使いは私達の言うことは何でも聞く。多少無理がある要求でも難なくと受け入れてくれる。
私は頭の中でそんな理想郷を描いていた。きっと2人も同じ考えに違いない。私と彼と彼女が幸せならそれで良い。もう私は大切だと思った両親を亡くしてしまったのだから。彼の言うことは嘘ではない。そう信じるしかなかった。
「誰か来る。」
ある日誰か近づく音が聞こえた。きっと彼が私の部屋に入ってくると思った。だけど彼は隣の部屋を空けた。きっとアリッサが戻った。そうに違いないと思った。
「戻って来てくれたのね。ずっとあんたのこと待ってた。このままいなくなるのかと思った。」
私が語りかけても彼女は無言だった。
「アリッサ?」
「誰なの?壁の向こうにいるのは誰なの?」
隣の部屋にいたのはアリッサ以外の女の子だった。




