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サラ  作者: ピタピタ子


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10/27

隣の少女

隣の少女はアリッサではなかった。

「おい、喋るな!」

サイモンがいる間は隣の少女とは話せなかった。私が喋ったせいか彼女は鞭打ちをされた。だけど私は彼女がアリッサじゃないがっかりした気持ちでいっぱいだった。彼女が幸せならまだ私は耐えられた。特別感を感じない彼女にあまり興味はなかった。彼が出た後も沈黙は続く。話すのなら心のない言葉を話すつもりだ。私の世界では彼と彼女がいれば良いのだから。

「ねえ、隣の部屋の子だよね?お願い、私を助けて!もうどうしたら良いのか分からないの!」

彼女を見ても前の私やアリッサを見てるようだった。状況を受け入れたくなくて必死な姿が重なった。

「私、メラニアって言うの。こんな時に自己紹介どころじゃないわね。自己紹介ならパーティーが良いわね。」

「パーティーならもう参加するつもりなんてないわ。ここを出ることなんて出来ないから。ずっといればここを出ることは出来ないわ。」

「分かってる。出られる方法は分からないからそうなるのは覚悟してる。」

「新入りでもよく分かってるのね。」

「その言い方やめて。こんなことしてる場合じゃないでしょ。私はこんな所にいたくない。1年半もずっと家族や友達とかと会えてないんだよ。」

「今何て?」

「一年も家族とかと会えてないのよ。」

彼女は私より歴が長かった。その割にはきれいごとや泣き言ばかり重ねる感じだった。

「出た所で何が得られると言うの?」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!自分の置かれてる状況分かってるの?」

「あんたの訴えようとしてることは分かった。だけど出た所で被害者と言う重荷を背負って生きていくだけだと思うけど。可哀想と思って近づく連中ばかりよ。」

私は外の世界は信じられなくなった。外には危険な犬がたくさんいると思ったから。

「それが被害者の私に言う言葉?」

「それならどう言えば良かった?」

しばらく沈黙が続いた。

「いつからここにいるの?」

「4カ月くらいじゃないかしら?」

「私は一年以上よ。あの変態がそう言ったの。」

彼女は抵抗を続けている感じだった。外の世界の汚さも知らずに。

「変態?誰のこと?」

「サイモンって男よ。」

「そうなのね。」

彼女との生活も3ヶ月が過ぎた。それから特別な会話を交わすことはなかった。彼女から話しかけられたら適当に答えてあしらって突き放すだけだった。

「元気?」

「いつも通りよ。」

「今日も嫌味を言いそうな雰囲気だから元気ってことね。顔を見なくても何となく分かるわ。」

灰色の壁や床は前よりかなり濃い色になっていた。来た時は薄い灰色だった。床に落ちてるガムを見つめる。ガムは時間が経って床にこびりついていた。私は被害者らしく掃除を頼まなかった。彼がいる限りはこの空間が私の居場所だと思った。

「実は話したいことがあるの。」

「興味ないけど。」

「興味がなくても話すわ。ラジオを聞いていると思って聞いて。」

彼女は鼻をすすっていた。紙がなくてすするしかない。

「泣いてるの?」

「泣いてなんかないわ。ただ聞いて欲しいだけなの。」

「そう。」

興味がなかった。聞いてもアリッサに近づける手がかりにはならないと思ったから。

「私妊娠したの。」

「え?」

私は思いもよらない話で驚いた。

「妊娠したの。」

「想像妊娠じゃなくて?」

「本当よ。生理が来てないしお腹が膨らんでるから。」

「どうしてそれを私に?」

「聞いて欲しいかったの。こんなこと一人で抱えるのもう耐えられないの。」

「それでどうするつもりなの?」

「ここを出て中絶の手術を今すぐにでも受けたい。」

「私は協力出来ないわ。殺す方法は考えたの?」

「殺すなんて…そんなつもりじゃない。妊娠したくてそうなったわけじゃないから。何度かお腹を殴ろうと思ったけど手脚を縛られて何も出来ないの。まだ14歳なんだよ。子供なんてはやすぎるし、親に説明するのも嫌だ。」

「結局どうしたいの?殺すの?殺さないの?どっちなの?悩んでる間にも時間は過ぎてくだけだと思うけど。」

私は彼女のお腹の子供を殺したかった。もっと愛される存在が生まれるのも許せないし、サイモンとメラニアの間に子供が出来るのには納得いかなかった。また裏切られたような気分だった。こんなにも愛してるのに裏切られた気分だった。

「殺すとか言わないで。それだと私が犯罪者みたいでしょ。私は被害者なんだよ。被害者なの!分かる?」

彼女は大声で怒鳴った。

「そんな大きな声出して良いのかしら?すぐ駆けつけると思うけど。」

「そうさせてるのはあんたでしょ!」

「悪いことは言わない。声のトーンを下げた方が身のためよ。」

「どうしてそんな突き放すことしか言わないの?」

「あんたにそれほど関心がないから。私にはもっと大切な人がいるから。あんたが被害者だとか妊娠したとか子供をどうするかとかどうでも良いの。その興味ないあんたの話を聞いただけよ。そうね。時々誤作動で音が大きくなるラジオを聞いてるような気分ね。」

彼女はさらに涙を流す。だけど私の心が動揺することはなかった。私の心はもうアリッサとサイモンにしかないから。彼らを自分のものにしたい心。私は彼らの温度や心に浸りたい。彼らの生活の一部になりたい。そう願っていた。隣の少女は私にとって古い映画の上映中に映るノイズのようだった。私の映画に必要な登場人物は私と彼ら2人だけ。脚本家は全部私だ。同時に彼も彼女も脚本家だ。呼吸をしてる限り人生と言う脚本を書き続ける。

「私は悪くないのよ。悪いのはあの男よ。あんな男にあんなことされなければ今頃…」

「平穏な生活を送れたとでも言いたいの?私はここの空間に満足してる。むしろこれで良かったのよ。もう後戻りするつもりなんてないのよ。」

「狂ってる。」

「何で?」

「監禁されてるのによくそんなこと言えるよね。信じられない。私は絶望でしかない。出られたとしてもどうすれば良いか分からない。こんな重荷になること家族にどう説明したら良いか分からない。」

彼女はパニック状態だった。私を話してもパニック状態から解放されることはなかった。

「あなた名前なんて言うの?」

「レベッカよ。」

「レベッカ、家族はどんな感じなの?」

「皆死んだわ。」

「変なこと聞いたわ。」

「あんたみたいに私は泣いたりしない。」

その時の私は言葉でそう言っても心のざわめきは消えなかった。表面では動揺してなくても内側では乱れていた。

「失うものはあったけど、新たに失いたくないものも出来たのよ。サイモンとアッリサという女の子よ。」

「目を覚まして!あの男はただの変態よ。君を幸せになんてしない。気は確かなの?」

「いたって普通よ。おかしいのは自分の方じゃないの?」

「そんなはずない。皆から見ても君の方がおかしいと答えるはずよ。」

「世の中の総意だと思う?外の世界が常に正しいわけじゃないの。」

「正しいとかの問題じゃない。誘拐犯に思いを寄せることは信じられないことよ。」

「あんたには家族がいるから多少は外の世界に見念があるようね。」

「見念とかじゃない。当たり前の感情よ。それに家族がいなかったとしてもこんな所に見念はないわ。」

彼女は理解出来ない。同時に彼女に私を理解出来るはずがない。理解なんて求めていない。

日が過ぎても彼女の不安が消えることはなかった。私が突き放しても彼女は何度も私に助けを求める。

「気持ちが悪い。助けて。」

彼女は吐いていた。

「私にどうしろと?助けならサイモンに求めれば。」

サイモンが彼女の部屋に入ってシャワーに連れてった。私はアリッサのことを想像した。彼女がシャワーを浴びる音を想像した。床に雫が落ちる音も想像した。シャワーを浴びてないのに床が濡れているような感じだった。私が好きな水滴だ。いつもの冷気を感じる床と違う。その日を境に彼は私のことを気にかけてくれなくなった。どうして彼女の方を気にかけるのか分からなかった。その態度はあからさまだった。あの女の子供をどうにかして対処したいくらいだった。

「なあ、レベッカ。最近あまり話せてないから良いこと教えてあげる。」

「あんたの言うことなら何でも聞くわ。良いことでも悪いことでももうあんたは私にとって人生の一部なんだから。」

「隣のメラニアがシャワーの時悪口言ってたぞ。」

「ちょっと適当なこと!」

「どんな悪口?」

ボイスレコーダーを出した。

「いつも突き放した態度ばかり取ってサイモンに色気丸出しでイカれビッチ。あんなのが隣の部屋にいるなんて気持ちが悪い。はやく部屋を引っ越したい。」

私は録音されたファイルを聞いた。

「へえ、そう言うふうに思ってたんだ。」

「違うのあの男に言わされたのよ!確かにイカれてるとは思ってたけど、ビッチなんて汚い言葉は使わないし思ってもないから。私を信じて。」

「もう良いよ。あんたのこと最初から信じてなんていないし、これから信じるつもりなんてない。」

「ちょっと待ってよ!」

「そう言えばアリッサも同じようなこと言ってた。もうお前を信頼できる人なんて誰もいないんだ。可哀想だな。」

「アリッサがそんなこと言うはずないわ。」

彼はアリッサの動画を見せることが少なくなった。

「あの子の動画を見せて!サイモン!アリッサ!サイモン!アリッサ!サイモン!アリッサ!」

私は2人の名前を喉の粘膜が引きちぎれるくらい叫んだ。私の声が部屋を突き抜ける。私は拘束されたまま暴れ回る。

「黙れ!クソガキが!」

「見たい!見せろ!見たい!見せろ!」

彼はどうやら汗をかいていた。

「見せろ!見せろ!はやく見せやがれ!」

私の叫びは止まらなかった。私は壊れた目覚まし時計だった。彼は叫び続ける私をビンタした。

「見せろ!」

「やめろ!やめろ!」

「あるんだろ!全て見せろ!ご褒美に見せろ!」

彼は鞭打ちをした。

「良い加減にして!」

隣の少女まで叫んだ。

「お願いだから叫んだりしないで。」

彼女はさらにパニック状態になっていた。

「アリッサに会わせろ!アリッサ!アリッサ!会いたい!会いたい!」

彼女が欲しかった。彼と彼女以外皆いなくなれば良かった。この叫んでる時間は今まで感じた痛みを忘れていた。痛みより願望が勝った。強い願望は強い痛め止だ。彼女が痛みから救ってくれた。しばらくすると視界は暗くなった。

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