もう一人の家族
私にも家族がいた。スポーツ観戦が好きでかつての私と性格が似ていた父親、私とは好みが反対だけど悩み事なども聞いてくれて喧嘩ばかりしても楽しい時間を過ごした。誰もが望む家族だった。世の中にそんな家族も少ないわけではない。金持ちではなく貧乏でもないけど幸せな家族。映画に出てくるような派手な家族でもないし、世界中の人に注目されてないわけではない家族。それが私の家族だった。そんな幸せな家族も他の所にも存在した。
「パパ、友達と映画鑑賞会しても良い?」
「フェリシア、お金を取るのか?」
「そんなことするわけないでしょ。そんなお金の稼ぎ方はしないわ。」
「それなら高いものでも貰うのか?」
「私にそんなブランド物持ってる友達なんていないわ。」
「それなら金持ちの友達でも作るんだな。」
「そう言うの面白くないから。大人と違ってそんな汚くないから。」
「よく言うな。本気で言ってるわけじゃないけど。」
「パパのことはお見通しだから。」
冗談を言い合うのは私の家族と同じようだった。
「ねえ、あの誘拐された子まだ見つかってないみたいね。それにお父さんもお母さんも亡くしてて。」
「そうね。まだ成人してない子供を誘拐するなんて信じられないことよ。人のやることではないわ。」
「ママ、私はそんな酷い目にあったりしないわ。」
「変なこと言わないで。未成年じゃなくても誘拐事件はたくさん起きてるの。どこか遠くに行く時は子供だけは許可しないわ。」
「12歳なのよ。」
「12歳の間では大人に見えても、親からすれば12歳は面倒見ないといけない年齢なのよ。」
「そんな奴がいたらパパがやっつけてやる。可愛い娘に手出しする奴はかかってこい。」
「パパは私のヒーローだもんね!」
「それなら私はヒーローと結婚したヒロインね。」
だけどあの娘は自分の父親が隠している秘密を知らない。
その父親の名前は…
「シャワーの時間だ。逃げたりするなよ。」
私はいつものようにシャワーを浴びる。彼に見られることに慣れてしまった。抵抗していたけど私は今や抵抗はしない。シャワーは1週間に3回くらいだ。自分の臭いが酷くなっても自分では分からなくなった。この監禁生活で何もかも適応したようだ。彼に触れられることも。
「絵のコンテストで優勝した!」
「よくやったな!」
娘のフェリシアを抱きしめるのはサイモンだった。
「パパ、今日は好きなものたくさん食べさせて。」
子供が好きなお菓子やスイーツをたくさん食べさせる。
「私も嬉しいわ。」
娘の幸せは父親の幸せでもあり母親の幸せだ。サイモンは家族の前だけでは誘拐犯として、サディストとしての一面を見せなかった。家族の前で見せる仮面も私の前で見せる仮面も同じだった。彼がするフェリシアと私への抱擁は意味が違った。
「フェリシア、本当にパパのこと好きだよね。」
「どこの家も同じでしょ。」
「あんたは特によ。」
もちろん友達にも恵まれていた。私と違い社会の汚れをあまり知らない平凡な女の子だ。関心も向けようともしない女の子だ。私もそうだった。社会の汚れを彼が教えてくれた。反対に彼女には汚れというものを一切教えない。本当の愛を一番に受けている。もちろん私は知らなかった。
「ねえ、また私の家で映画見るの?たまにはあんたの家を荒らしてくつろぎたい。」
いつものように友達と話していた。その友達も同じように幸せな家庭で暮らしていた。一緒にいる友達は自分と同じような背景を持ったものが多い。それが子供の世界だ。
「荒らすようなスペースなんてないわ。親からあまり呼ばないでって言われるの。たまになら良いっていうけど。」
「あんたの親うるさいんだ。お母さんがうるさいの?」
「パパがそう言うの。」
「もしかして大切に保管してるものうちらに取られたくないとか?お宝たくさんありそうじゃん。トレジャーハントしよう。」
「やめて。うちにそんなお宝なんてないから。恥ずかしくなるわ。宝ならもっと金持ちな友達作ったら?」
「それならあんたのこと将来金持ちにしてやるわ。その時は私の名前も出して。」
「平凡な家庭が金持ちになるよくストーリーね。」
「それなら小説ような崖っぷちのストーリーを歩むの。」
「崖っぷちでも幸せなら良いわ。バッドエンドに見えるストーリーも当事者が不幸ってわけじゃなさそうだし。」
「あんたのパパ寛大そうな感じだけど。二重人格とか?」
「やめてよ。隠し事してるのすぐ分かるからそんなこと絶対有り得ない。この前とか私のプリン食べたの隠してバレたし、ママにだって夜中にお酒飲んでるのすぐバレて怒られてたから。詰めが甘いパパに隠し事なんて無理よ。筒抜け親父ね。」
「面白すぎ、間抜け親父じゃん。」
「あんた達にそう言われるとムカつく。」
「だってそうでしょ。」
「とにかく隠し事なんて出来るはずがないわ。その可能性は極めて低いから。」
「それなら隠してる宝でも探しに行く?」
「それならうちは宝の地図から省かれてるね。」
友達とふざけ合った。もちろんその筒抜けてる様子は全て彼の演技だ。隠し事が出来ない親父のふりをしてる。かなり計算高い男だ。少女達を監禁してることは彼の娘も妻も知らない。巧妙な演技が出来る彼は灰色の映画俳優だ。むしろ本当の姿を私達に見せている。私達の前では俳優になる必要はない。私達の前では映画監督だ。物語を自由に構想する監督だ。監督は権威を握っている。神に近い存在。機嫌次第で物語の方向を悲劇的や絶望的にするし、面白おかしくすることだって出来る。では何故外の世界では彼は映画俳優なのか?それは外の世界そのものが権威だから。あるべき姿を決める映画監督だから。外の世界はやり直しの効かない一本取りの映画だ。やり直しは許されない。良い役を演じられなければあからさまに悪役としての人生を過ごさなければない。それが外の世界だ。
ある日、フェリシアは友達を家に連れた。
「グループの課題やっと終わった。」
「やらないと何かと面倒だし。」
「ジュース作ったぞ。」
「何これ?」
「バージンモヒートだ。」
「よく分からないけどパパにしては洒落たもの作るじゃん。」
「その気になればこれくらい作れるんだぞ。」
「褒めて欲しいの?」
「そうだな。可愛い娘から褒めて貰いたいもんだな。」
サイモンは部屋から出た。
「相変わらずお父さん面白いね。」
「ダルいと思うけど。」
3人はモヒートを飲んだ。
「何これ?見かけだけ良くて全然甘くなくて美味しくなくて飲みにくい。」
「分かる。レモネードみたいなの想像してた。あまり美味しくない。」
「分かる。味薄いし、甘くない。」
「私は好きだけど。」
「本気で言ってる?」
「そうね。お酒でも飲んでる気分って感じ。」
「お酒飲んだことないでしょ。」
「当たり前でしょ。パーティー行けば飲めるだろうけど。」
「パーティーとかうちの親にバレずに行くとか不可能だわ。無断でパーティー行くの許さないから。」
「そもそもパーティー行くのに車必要じゃん。馬とかに乗るなら話ははやいとは思うけど。うちら免許取れる年齢じゃないから少しの辛抱ね。」
「馬とか中世の貴族とかじゃないんだから。」
「昔の舞踏会とかそんな感じでしょ。お酒飲んで乱痴気騒ぎ起こして。姿が変わっただけで人間はそんなもんでしょ。」
「そう言うの参加したことないから何とも言えないけど。今度あんたのパパにお願いしてパーティーを開いてみてよ。うちの親パーティー反対でさ。フェリシア、いつも私の家で集まってるから良いでしょ?」
「馬鹿言わないで。今日集まってるのは間違いなく私の家よ。うちのママも許すはずないし、パパもあんなふうに見えてパーティー反対なの。」
「酒飲み親父なのに?」
「だからあんた達にそう言われてるとムカつくの。」
「うわ、噛まないで!」
「冗談だから。」
「私を犬か何かだと思ってるの?あんた達が冗談言ってることくらい分かるけど。」
「あんたが感情表現が天気のようなのもよく知ってるけど。」
「情緒不安定って言いたいわけ?感情表現が上手って言って。」
「分かったよ。」
すると大きな叫び声が聞こえた。
「ねえ、何か聞こえなかった?」
「私も聞こえた。」
「うん。何かあったのかな?」
窓を開けても人通りは何もなかった。天気はあまり良くなくて空は黒の混じった灰色だった。風が強く車が通ってる感じもなかった。
「お隣さんってそんな叫ぶ人?メタルとか歌ってデスボイスとか放つタイプ?」
「うちの近所にそんな人いないけど。」
「確かに聞こえたんだけど。」
「もしかして幽霊とかゾンビが出たりして!」
「アンナはホラー映画の見すぎよ。ゾンビなんて出たら今頃外はゾンビだらけでしょ。」
「でも幽霊とかだったらありそうじゃない?」
「やめてよ!ホラー映画とかマジで大嫌いなんだから。なくなれば良いと思ってるくらいだから。」
「ローラ、怖がりなんだ。子供じゃん。」
「怖いとかじゃなくて私の趣味に合わないだけだから。」
「嘘つかなくても良いんだよ。」
「とにかく私の前でホラー映画の話しないで。」
「そんなに言うなら分かったよ。」
「とにかくパパに聞いてみようよ。」
「それが良いね。」
フェリシアとその友達は父親に起きたことを報告した。
「叫び声が聞こえたって?」
「うちに何か起きたら怖いでしょ。」
「それならパパが階段から転けて叫んだんだ。」
彼は自分のあざを見せた。
「痛そうだからそんなあざ見せないで。だけどパパが叫んだ声じゃなかった。何か女の子が叫んだような声だった気がする。」
「叫んだのはパパだけだぞ。パパの叫び声が誰かに負けたって?そんなはずない。」
「おかしい。確かに女の子の声だった気がするけど。」
彼女は叫び声のことを考え続けた。
「とにかく気にするな。何かあったらパパがお前達のこと守ってやるからな。娘に手を出す奴はこんな感じで木っ端微塵だ。」
「またヒーローごっこ?もっとカッコいい服着てアクションして。」
冗談で何もなかったことになった。
「助けを求めたのか?余計なことしたらどうなるか分かってるだろ?」
監禁場所では私が殴られた。
「罰をもっと与えるんでしょ?分かった。もうそんな余計なことしないよ。」
「分かれば良いんだ。」
彼は私のことを撫でた。二人の物語が同じ家で進んでいた。




