違い
「ずっと待ってた。戻って来てくれたんだ。寂しかった。」
「何言ってるの?意味が分からないんだけど。変なこと言わないで。」
私は彼女に感性の声を聞かせた。
「だって私達、壁友達でしょ。一度逃げ出したけど私と一緒にいたいから戻って来てくれたんでしょ?」
「脱出なんて成功してないし、好きでこんな所にいるわけじゃない。別の部屋にずっといたのよ。」
「それならあの男に何されたわけ?」
「それはあんたもよく分かってるじゃないの?」
「子供だからよく分からない。」
「大人ぶってるのに都合の時だけ子供のように振る舞わないで。」
彼女は前より私に対して冷たかった。
「私何かした?」
「別に。私はいつもこんな感じ。」
「違う。私の知ってるアリッサじゃない。もっと希望に満ちて皆を導いてくれる女神のようなアリッサだと思うけど。偽物なんじゃない?」
「私は正真正銘アリッサなの。」
「クソ女が。この売女が。」
「そんな汚い言葉使わないで。言葉は人となりを表すのよ。」
「ちょっといつものあなたらしさに戻ったわね。」
インテリで言葉をよく選ぶ彼女だと分かったので少しばかり安心した。
「私の何を知ってるわけ?あなたの想像と私が歩んで来た人生は違う。」
「わかったよ。相変わらずプライドが高くて素直になれないんだ。」
彼女をからかった。
「普通に腹立つからそういうのやめて。」
「何か気に障ることで言った?」
「私のこと何でも知ってるかのような振る舞いをしないでって言ってるの。」
「そんなこと言ってないけど。」
「とにかくやめて。」
彼女は強く私に言った。
「不味い、来るわ。静かにして。」
「分かってるよ。そっちから話しかけたんでしょ。」
サイモンが彼女の部屋に入った。
「隣の部屋の奴と何か話してたのか?」
「隣に人がいるわけ?初めて知りました。本当に何も話していません。壁に向かって話してたので。ずっと一人だったので。」
「黙れ。大人しくこっちに来い。」
また連行された。それからも連行されてはしばらく隣の部屋に戻って来ないことが何回も起きた。2週間も続いた。彼女は最初に来た時よりも変わってしまった。何も知らない女神のような彼女はいなかった。だけど私はそんな彼女を私は求め続けた。拒否されても求め続けた。きっと彼女も同じ苦しみを私と共有してる。彼女なら私の気持ちを分かる。そんなふうにも考えた。彼女も私と同じ立場だ。この隔離された空間にいない人間には分からない苦しみを経験してる。そんなことを思いつつ彼女のことを信じ続けた。
「元気にしてるか?」
ある日いつものようにニヤニヤしてあの男が私に話しかけた。
「いつもと変わらず元気よ。」
「それは良かった。だけどよく今まで欺いてきたな。」
「何の話?」
「隣の少女と話してること隠してただろ?愛し合ってるのに隠し事をするなんて酷いな。」
彼は顔にパイを押しつけた。私はとっさに咳をするがもう抵抗する気力もなかった。ただこの状況を受け入れるしかなかった。
「そんなことはそこまで怒ってないから良い。それより隣の少女が不在の時に何されてたか知ってるか?教えてやる。」
「どうせ私にしたように汚いことしたんでしょ。シャワー浴びてる所ジロジロ見たり、別室で罰を与えたり、ご飯を与えなかったり、飲み物与えなかったり。どうでも良いから聞くつもりなんてない。」
彼は映像を私に見せた。そこには貴族が住むような部屋にドレスを着ていた彼女がいた。まるで自分の居場所と彼女の居場所は違うと見せつけられてるような感じだった。綺麗な椅子に綺麗なカップに入ってるのは美味しそうな紅茶だった。とても美味しそうなチョコレートケーキを食べていた。さらに私が好きなクレープも一緒に食べて行く。部屋には音楽が流れているようだった。さらに好きな飲み物のレモネードも飲んで行く。何で彼女が特別扱いされてるのか私には理解出来なかった。
「どうして私にはこんな待遇なの?」
「反抗的で育ちが悪いのがにじみ出てるから。少女で見た目の可愛さがなければ魅力はない。それだけの話だ。」
続けて映像を見せた。彼女は綺麗な浴槽に浸かっていた。とても満足気な顔だった。被害者じゃなくて良かったと顔に書いてあるようだった。そんな感じだった。何もかもが私とは違う。
「良いか?これはただの誘拐ではない。それに君達を平等に愛してる。」
「少女なら誰でも良いんでしょ?イジーの方が大人びてるから私の方を選んだんでしょ?」
「黙れ!」
彼に引っ叩かれた。私は声をあげなかった。
「愛してるなら相手に愛してもらうことが大事だ。」
「愛って何?」
「愛は俺が言ったことを順従に従うことだ。反抗や敵意は愛ではない。」
「狂ってる。」
さらに鞭で叩かれた。痛いのにもはや痛いのもどうでも良くなってきた。
「それに比べてアリッサは俺のことを愛してる。何でも言うことを聞くし、君のように反抗とかはしない。だからこんな好待遇に接してる。」
「聞きたくない。」
彼女に裏切られた気分だった。
「君が愛をしっかりと証明するなら今のような環境じゃない。」
きっと緑の部屋は私のいる砂漠よりランクが高い部屋だ。
「それなら何で最初から緑の部屋なわけ?彼女のこと何も知らないのに。」
「知ってる。アリッサ・F・ハワード、17歳。父親は大手銀行の頭取で、母親は有名弁護士で政治家やハリウッドスターやスポーツ選手など様々な分野の弁護士をしてる。とても裕福な家系に生まれた少女だ。親に反抗したことはないし親の言う生き方に満足して生きてた。まさに順従な少女だ。」
「それなら順従な少女だけ集めれば良かったじゃん。こんな反抗的で聞き分け悪い少女誘拐するなんて非効率そのもの。抜け目ないと思ってたけど完璧じゃないんだ。」
「発言して良いとは言ってない。」
彼が何をしたいのかよく分からなかったが明らかに普通ではないのは分かった。
「だけど君には彼女と同じ強みがある。背伸びしない純粋な所だ。君の友達は大人ぶって背伸びをする。君は純粋で何も知らない。」
彼女も純粋だった。勉強だけで生きて来て肉体関係や恋愛などを知らない。それが彼の心を掴んだんだろう。
「君も彼女のようになれる可能性がある。」
許せなかった。都合よく支配するサイモンも私も彼を欺いて良い待遇を受けるアリッサも許せなかった。あのクソ野郎に嘘をつかれるのは良かった。だけど私が信じてた彼女がこんな仕打ちをするのは許せなかった。私が愛してるのは同じ立場としての彼女だった。良い待遇に満足してる彼女は愛せなかった。常に彼女は私と同じ立場でいなきゃいけない。それがお互い愛し合うことだと思った。好待遇を受けることは裏切り行為だ。私が被害者なら同じ被害者の立場だ。私を置いて好待遇を受けるのは許せない。私と一緒に好待遇を受けないと意味がない。彼女は私にとって女神の仮面をつけた悪魔の子だ。
「私が彼女のような人物像に合わせろと。そう言うことね。」
「まだ納得いってなさそうだな。」
「これ以上答えるつもりはない。」
反抗しては沈黙を繰り返しての連続だった。
「アリッサ、どう言うつもり?」
「いきなりどうしたの?」
「私のことをよくも裏切ったね。あんたがそんな薄情な人間だとは思わなかった。」
「そもそも顔も合わせたことないのに信頼関係なんて気づけないでしょ。」
「顔が分からないなんてそこまで重要なこと?私達は会話を交わしてる。」
「勝手に裏切られた気分になってるだけよ。何があったか知らないけど、自分の思うように物語を進めないで。」
こんなに思っているのに拒否されるのが分からなかった。
「こんなことも言ってたぞ。」
また違う日にはあの男から彼女が私をどう思っているのか聞かされた。
「しつこいストーカーのようだってな。」
私は真に受け止めなかった。異常なのはあの男と拒否する彼女だ。私は人間としての感情をぶつけているだけ。
「アリッサ、行くぞ。」
いつものように彼女は男に連行される。舞踏会のような優雅な場所に連れてかれたのだろう。私はそう思った。だけど今回は違った。いつもなら4時間くらいして戻って来るはずだった。しかしその日は違った。何時間経っても戻って来なかった。それどころか一日経っても戻って来ない。おそらく1カ月は戻って来ない状況が続いた。その間に私を蝕んだのは劣悪な環境でも空腹でもなく孤独だった。
「アリッサをどうしたの?」
サイモンは無言だった。無言と言う暴力だった。ただご飯と水を与えるだけ。無言と言うのは暴力でもあった。私はいないも同然のような存在だった。無言で殴られることはほとんどだった。そして無言で彼女ばかり特別待遇を受けてる動画ばかりを見せられた。私はサイモンの声を求めるようになった。彼の声を聞きたかった。誰も私に声を届けてくれないなら彼の声しかなかった。彼女ともう会えないかもしれないから。
「今まで大変だっただろう。」
時に声をかけられるのが嬉しかったし、時々声をかける時は私にご褒美を与える時だった。この上なく幸せだった。同時に彼女のような扱いを受けられない存在だと自分は悟った。そんな時に平凡の中にあったかすかな不満を思い出した。いつも人間関係で注目されるのはイジーだ。彼女の家はいつも注目される。だけど私は彼女といる時だけ注目されて私単体で注目される回数は少なかった。憎悪の感情が噴き出るほどではなかったが彼女のことを心奥底で羨ましいと思っていた。彼も同じ人間だと思った。だけど違った。私に少しでも注目してくれる人間だと思った。誘拐された時は裏切られた気分だった。理不尽で不衛生を押しつける加害者だと思った。だけどその気持ちはだんだん依存へと変わって行った。私達は友達から被害者と加害者、そして真の友達へと変わった。いや友達以上の存在だ。サイモンと私は運命だ。私には彼がいなければ生きることは出来ない。彼の損失は人生を空虚なものにする。誰が何を言おうととめることは出来ない。同時にアリッサのことも愛してる。2人とも私のものだ。2人とも運命なんだ。その時はじめて私は誘拐されて良かったと感じた。これは必然だ。私に対しての被害者の眼差しはいらなかった。欲しい人さえ手に入ればそれで良い。
「相棒が戻って来たぞ。」
彼女も彼も私のもとに戻った。




