サラ
「じゃあね、レベッカ。これで自由だね。」
彼女はいつもにない笑顔だった。私はそんなハイリーを見ても笑顔になれなかった。彼女は新しい人生を歩むかのように進んで行くにつれて彼女は眠気が強くなって来た。彼女は少し休みにリビングで休もうとした。そんな彼女の所に私は近づいた。
「レベッカ、何だか身体がだるくなった。」
「そのうち良くなるよ。」
「煙の臭いがする。」
「お湯を沸かしてるの。せっかくだから何か用意したいと思って。」
彼女はしばらくの間眠りについた。
「起こしちゃったようね。どう?よく寝れた?」
私は彼女に銃を向けた。
「何してるの!?やめて!」
「私から逃げられると思ってるの?そんなことは出来ない。」
彼女は玄関に向かおうとした。しかし私が彼女の動きを予測して先に玄関に向かった。
「母親がいなくなったらそれで終わりじゃない。私との物語のはじまりのはずなのにどうして壊すようなことをするの?ガッカリ。」
「私には私の人生があるの。もちろんこれで終わりじゃないよ。だけど一度ここから出たいの。」
彼女は震えながら言った。
「都合が良すぎる。あんなにあんたのことを守ったのに。あんたもあの母親と同じなんじゃないの?」
「落ち着いて。とにかく銃を下ろして。」
「私は十分冷静だけど。正しいと思った判断をしてるだけ。落ち着いてないのはあんたの方。私の側にいてくれるだけで良いのに一人でパニックになってどうしたの?私は用済みってこと?」
「確かにあんたに救われたことはあった。あれから見るかることはなかったし。だけどあの母親がいなくなったのなら窮屈な生活なんてしなくて良い。私は出たいの。分かって!」
彼女は私と言う存在を拒否してるようだった。
「本当に君って都合が良すぎる人間だね。助けを求める時は必死で助けを求めるのに、私が必要としてる時は何もしてくれない。私は酷く傷ついた。」
「悪いけどレベッカの言うことには従えない。」
「それならこの引き金を引いてしまおうかな。」
私は銃を彼女に向けた。銃は強いと思われてる人間も弱いと思われてる人間も平等に恐怖の対象として見てくれる道具だ。銃はまさに権威だ。銃の前ではどんな屈強な男も権力を握ってる金持ちも有名な動画配信者も逆らうのは難しい。その状況から抜け出す為にはその銃を奪って優位に立つしかない。そうすることくらい私は予想がついてる。だから銃を絶対に手から離すつもりはなかった。
「来ないで!」
彼女は走って階段に駆けつけた。2階はトイレと広い倉庫と私の部屋しかない。
「お願いだからやめて。もちろんあんたのことを忘れることはない。だから私を殺すなんかやめて。妄想の中ならいくらでも私のこと殺しても良いから。殺さないで…」
「殺すつもりはないよ。自己防衛だから。自分の心がおかしくなる前にどんな手段を使っててでもあなたを側に置く自己防衛だから。」
「変なこと言わないで。忘れることないから。」
「私そんなに怖いの?」
「怖いよ!どうかしてるよ。今すぐにでも逃げたい。」
「信用されてないんだ。ガッカリした。でも私はそんなことで殺しはしないよ。あんたが私のこと聞いてくれるまで気長に待ってる。」
「そんなことしてあんたのおばさんが黙ってるはずない。」
「それなら安心して今来ることはないから。もしかしてここにいるのが嫌なんでしょ?一緒に楽しい妄想をしない。」
彼女は少しずつ後退りしながら階段を登っていく。
「妄想の中にも入らせないつもり?」
「やめて。一度普通の生活に戻ったら絶対会いに行くから。」
「さっきあれだけ怖いって言ってたからその言葉信用にならないな。」
私は銃をおろすつもりはなかった。
「約束するからそんなことしないで。そんなことしたらあんた捕まるんだよ!」
「だから何?私はどんな手段を使っててでもあんたが欲しい。あんたが受け入れてくれればあんたの好きな所に連れてって行くつもり。そうだ。私考えてたことがあるんだよね。カーテンを開けると家が見えるでしょ。」
「それがどうしたの?」
彼女は青ざめた顔で私を見た。
「見てるうちにその家を燃やしたくなったの。」
「そうなんだ。」
「私達の本拠地を作る為に燃やしたら最高だと思わない?どんな所に住みたい?ツリーハウスのような家とかに住みたい?あんたキラキラした物が好きなんだよね?星がたくさんついてる家とか?」
「そんなこと出来るわけない。」
「たとえ話よ。私が本気でそんなことすると思う?それなら部屋にあんたの母親のかたちしたサンドバッグとか置いてみたら楽しいんじゃない?それと家に飾る絵は全てアリッサの絵を飾って、時々あんたとあの子が一緒になってる絵とかも悪くないわ。どんな空間で暮らしたい?」
「普通の生活がしたい。ただそれだけ。その話の続きは今度会った時にするから。一回私のこと帰らせて。友達として言ってるの。あんたにはやまって欲しくないから。」
私はどんどん近づく。近づいていく度に彼女は階段を上がっていく。
「それならあんたが逃げない保証はどこにある?ここから逃げたらずっと逃げ続ける人生になるだけ。そうだと思わない?逃げて私に頼って何か具体的な解決策は出来た?そうじゃないでしょ。どうせ出た所であんたのことを食い物にする野良犬達に食われて利用されて終わりね。それならここにいた方が良いに決まってる。あんたは自分自身をよく分かってない。はやまらない方が良いのはあんたの方。友達として言ってるのは嘘ね。この現状や対話から逃げようとしてるだけ。」
彼女は何も言い返せなかった。
「黙ってるってことは自分でもそうだってわかってるのね。」
「ただあんたが怖いだけ…」
彼女は泣き出した。
「泣いてるの?」
泣いてる姿も見応えがあった。ライブ配信とかでは見れない彼女の姿を見ている。このまま縛りつけられるなら泣いてる姿を絵に描いて記録として残したい。絵に描いて私達の思い出にしたい。演技でも良い。嘘だろうと本当の涙だろうと芸術的な美しさがあればそれで良いと思った。
「来ないで。」
「私達はあんたを利用するだけの人間とは違う。思ってるよりあんたの味方なのに。どうしてこんなにも分からないの?こっちに来て。」
「いや。」
「ねえこっちに来て。こっちに来てくれたら銃を投げ捨ててあげる。」
彼女は私の命令とは反対に私を見ながら階段を上がって行く。
「悪いけどあんた所に行けない。だけどあんたが私の所には来れる。そっちの方がいいでしょ?」
彼女は階段の一番上の段まで着いた。
「こっちに来て。」
私の言ったセリフをそっくりそのまま言った。
「分かった。そっちに行くよ。」
私は階段の最後の段まで上がろうとした。
「来てくれてありがとう。」
彼女は私のことを蹴り飛ばした。私は勢いで転んだ。
「こうするしか…えっ!?」
私はとっさに手すりを掴んだ。銃は離さなかった。
「少し考えたんだね。さっきの演技悪くなかった。それならB級映画の女優は余裕だよね。だけど残念だったね。あんたのやることは想定済みだから。」
「そんな。」
彼女は走って倉庫まで向かって中に入った。
「ハイリー、出て来て!出るまでここにいるよ。」
何も答えることはなかった。
「私の会話を終わらせないで。」
私はドアを叩き続ける。携帯でずっと彼女の母親の声を聞かせ続けた。彼女は中で耳を塞いでいた。
「分かった。今出るから。」
彼女はすぐにドアから出て来て。私の頭を瓶で殴った。
「痛い。待って!ハイリー!」
彼女にしては今までにない度胸だった。そして彼女は走って階段を降りようとした。その時だった。
「きゃーー!」
彼女は石に躓いて転んでしまった。そして階段から落ちてしまった。さらに転倒した勢いで破片がたくさん身体に突き刺さってしまった。
「私の言うこと聞いてくれたらこんなことにならなかったのに。」
私はゆっくりと進み。石をポケットの中にしまった。携帯を取り出した。
「どんな緊急事態ですか?」
「事故です。大事な友達が階段から転倒して起きないんです。」
すぐに救急隊が駆けつけた。
「こっちです…」
私とハイリーは救急搬送された。
目が覚めると病室にいた。
「レベッカ!!」
「叔母さん…どうしてここに?」
「あんたが救急搬送されたから心配だったの。でもちゃんと目を覚まして良かった…」
「生きてたんだ。」
「それと何で行方不明だったハイリーが家にいたの?」
「隠しててごめん。匿って欲しいって言われたの。だけど叔母さんをこのことに巻き込みたくなかった。それに言ってしまったらあの子があの親の元に戻されそうで怖かったの。叔母さんが内緒で匿ったら大事になるでしょ。せっかく出来た大事な友達だから。」
「隠さないで欲しかった。私に言ってくれたら色々できたはずよ。」
「だって誘拐されてからトラウマで大人を信頼出来なかったから。」
「とにかく今は休んでなさい。」
叔母はしばらくして病室をあとにした。ハイリーはあの事故で命を落とした。
数日すると私は警察の取り調べや精神科医のカウンセリングなども行われた。
「ハイリーと喧嘩はしてたの?」
「いえ喧嘩などしてませんでしたし仲良かったです。毎日が楽しかったんです。」
「何故彼女がワインのボトルを持っていたか説明出来る?何でワインボトルであなたの頭を強打したの?」
「あの子、母親が亡くなったショックでパニックになってたんです。私も私なりに慰めたんですが駄目でした。もちろん前からすごい感情的な子なのは分かってました。配信が嫌になってうちに駆けつけた時から感じました。私もお母さん亡くしたから分かるんです。あんなに憎たらしいと思ってた母親がいがなくなると自分の行動がいけなかったんじゃないかって罪悪感に襲われたんだと思います。それであの子はワインの瓶を持って自殺しようとしてました。だけどそれを止めたら意図しない形で私の頭に瓶がぶつかりました。気が動転してあの子は階段の方に走って足が滑って転んでしまいました。」
黙々とメモを取りながら警察は私の話を聞いた。
「一通り事情は聞いたけど捜索願いが出てるのに黙って家に匿うのは誘拐罪に当たる行為になりかねないの。たとえ友達同士の善意ある行動だったとしても。」
「刑事罰に当たる可能性があるのは分かってました。でもそこまでしてでもあの子のことを守りたかったんです。彼女は本人の意思とは反対に配信ばかりさせてたんです。そんな生活から解放されたいと思って私に助けを求めたんです。私が誘拐された時は誰も助けてくれなかった。だから見逃せなかったんです。」
その後私は数々の現場検証で当時の現場の様子を確認させられた。
「突き落としたと言う可能性はないかと思います。」
「故意に引っかけた可能性は?」
「そのような証拠もありませんでした。それに彼女の様子を見る限り嘘をついてるように思えませんしワイングラスの破片にも彼女の血痕が少量ですが付着しておりました。」
警察は私がしたことに誰一人も気がつかなかった。私は裁判のもと1年の保護観察になった。
「被告を懲役15年の刑と処する。」
しばらくするとサイモンの裁判も行われて彼は懲役15年の実刑判決がくだされた。彼は必死になって抵抗したがその場で取り押さえられた。その後誰も彼のもとに面会するものはいなかった。私も彼のもとに面会はしなかった。
「改名手続きをお願いします。」
私はレベッカの名前を捨てた。費用は叔母から出してもらった。今までの人生から抜け出す為に、新しい私になる為のスタートラインだった。私は色んな文字を集めて自分の名前を作った。まずサイモンのSを使った。次にアリッサのAを使った。その次にレベッカのRを使った。そしてその次にアンソニーのAを使った。最後にハイリーのHを使った。彼らは私にとって影響力があった自分だった。彼らが私の言う人間を作った。私はサラに名前を変更した。そして私はサラになった。私は生まれ変わった。レベッカとしての人生は終わりを遂げた。もう平凡な家庭の少女ではない。私の両親もレベッカも全員死んだ。もうこの世にはいない。サラは5人の人間のエネルギーを吸い取る。相手が生きてようが死んでようが吸い取り続ける。
「じゃあね、サイモン、アリッサ、レベッカ、アンソニー、ハイリー。皆がいなかったら私は生まれて来なかった。私を産んでくれてありがとう。」
私は5人の写真が張ってあるマネキンに向かって言った。サラとしての人生がここからはじまった。誰にもサラを消せない。ただ一人を除いては…




