妄想
「ついに乗る気になった。」
彼女の方を見た。彼女はすごい感情的だった。
「いきなりどうしたの?」
「妄想の中だったら自分の母親も殺してみたいと思って。もちろん実際にそんなことやらないし、法律が許してもやらない。だけど妄想の中だったら良いなと思って。」
「突然どうしたの?もっと他に理由があるんじゃないの?」
「気になるの。私に殺されたら自分がやってたこと間違いだったんじゃないかって。どんな反応するのか気になるの。自分の保身から今までの罪を反省するのか、心から今までの罪を反省するのか。」
「まだあの母親のことを信じてるの?そんなことを期待するだけ無駄。期待したら裏切られた時絶望よ。それなら最初から期待しない方が良い。」
「期待なんてしてない。どちらにしても絶望してる顔見たら少しは気持ちが晴れると思うの。」
「そう、協力してあげる。」
私は紙を用意した。
「母親の写真はある?」
「ない。私もあんな母親興味がないから。もっと関心してくれたらこんなことにならなかったかもね。私の捜索願い出してるのも心配してるんじゃなくて利用価値のある子供がいなくなってパニックになってるだけ。私には分かる。考えれば考えるほどあの母親に呆れる。」
「ここに母親の名前を書いて。」
彼女は紙に「キャロル」と書いた。
「はじめようか、妄想殺人を。」
私はハイリーの妄想の中に入った。
「レベッカ、本当に妄想の中に入ってるんだ。」
「私がいないとこの妄想殺人は成立しないから。」
「これって考えたらすぐあの母親が出てくる?」
「うん。あんたの妄想だから出来ないことはない。私も人の妄想でも出来ないことはないけど。」
すると彼女の母親が出て来た。
「ハイリー!!ずっと探してた。ママのことを置いて行かないで…」
「置いてかないよ。」
彼女の母親は倒れた。彼女は母親を刺し殺した。
「こんなあっけなく殺して終わらせるつもり?」
「やるなら仕事がはやい方が良いでしょ。」
「こんな苦痛を一瞬で終わらすなんてつまらない。こんなんであんたの気持ちは満たされるの?やるなら徹底的にやらないと。」
「どうやって?」
「その構成はあんたが考えるのよ。手伝うことは私が手伝う。まず場所を決めな。」
「場所は森ね。」
私達は森の中の木の上にいた。
「時間は夜の時間よ。」
一瞬のうちに辺りは暗くなってしまった。すると森に迷ったキャロルが現れた。
「何だか森に迷った。ハイリーはどこにいるの?この後迎え行かないといけないのに。」
彼女はハイリーのことを探し回った。
「ハイリー!どこにいるの!いるならすぐに出て来て。今夜大事な撮影があるの。大事な案件なのよ。分かってるの?馬鹿なことしないですぐに出て来て。」
「行くよ。」
彼女は数匹の毛虫を落とした。毛虫はキャロルの身体にまとまりついた。
「いや、何これ!クソ!!」
彼女は毛虫を服の中から追い出せないまま走り続けた。
「もう何なのよ。ん?あれは…」
彼女はハイリーだと思って近づいた。
「そこにいたのね。ほら、すぐに撮影に戻るよ。」
彼女の手を引っ張ろうとすると狼が出て来て。彼女の足に噛みついた。
「ハイリー!これから撮影があるのに何てことしてるの!大事な撮影なのに足がないなんてあり得ない。」
「ここよ。」
「え?」
すぐに偽物は灰になった。狼は彼女のことを追いかける。
「来ないで。」
よだれを垂らしながら追いかけ続ける。彼女は悲鳴をあげて逃げることしか出来なかった。
「ハイリー、馬鹿なことはやめて出て来なさい。」
「私のこと見つけられたらやめてあげる。」
彼女に向かって泥を投げた。
「何するの!せっかくの服が。」
「そんな服で森にいたら汚れて当然でしょ。良い年なのにそんなことも分からないわけ?」
「大人をからかうのも良い加減にしないさい。誰のおかげでこんな最高な生活を送れてると思ってるの。」
泥の雨が彼女のことを襲う。そして数匹の狼と野良犬が彼女の方に向かって行く。
「いや、何でまたついてくるの!しっしっ、あっち行け!」
必死に木をよじ登る。上から彼女にドブの水をかけた。
「ハイリー、何すんの!そこにはいるのは分かってる。約束通りやめてちょうだい。」
「残念だけどルール変更。私がいる所に行けば考えてあげる。もちろんここであきらめることも出来るけど。」
「おばさん、そんなんで良いのかな?」
「あなた誰?あの子の何なの?」
「私はレベッカよ。私の大事な仲間。」
「あんたがあの子を変な遊びに巻き込んだわけね。」
「何か勘違いしてるようだから言うけど、私は自分の意思でこの子と一緒にいる。思い通りの操り人形じゃなくてさぞかし残念でしょ?」
「おばさん、下を見たら狼と野良犬がお腹を空かせて待ってるよ。死にたくなければ私達の元に来れば?」
彼女は必死になってよじ登る。
「やっと見つけたわ。もう十分でしょ。早く家に戻って撮影するよ。」
「これでも撮影できるかな?」
「きゃーーー!」
ハイリーは自分自身の鼻を銃で撃った。鼻は吹き飛び血まみれになったが、彼女は何事もなく生きていた。
「そんな…何てことをするのよ…」
「何で泣いてるの?」
「どう責任取るつもりなの?これ以上ママのことを悲しませないで。美しい娘がいて幸せだと思ったのに。」
「私の幸せなんてどうでも良いんだね。」
「あなたの為に何度も何度もすることはしたのよ。文句はもっと結果を出してから言いなさい。ママの幸せはあなたの幸せでしょ。」
「レベッカ行くよ。」
「分かった。」
すぐに彼女の母親をロープで縛った。そして縛った彼女をロープで吊るしておろして狼と野良犬のいる所に近づけた。
「皆さん、見てますか?これから素晴らしいショーがはじまります。」
「配信してないで助けて!ハイリー、何してるの!」
狼達は彼女を食べようと飛び上がろうとした。
「どう?楽しいアトラクションでしょ?子供の時に戻れたんじゃない?」
「やめて!私が悪かったから。」
「何で?私、ママの為に楽しいことさせてるのに。言ってたでしょ。ママの幸せは私の幸せだって。」
円を書くように吊るされた彼女はぐるぐると周る。狼達もメリーゴーランドのように走る。
「見てください。ママと狼達の夢の共演です。あとこのロープ、イーグルストーンって言うお店で買ったので気になる日は概要欄見てね。」
「仕上げはどうする。ロープを切る?それとも…」
「皆さん、これからこの可愛い私がプリントされたマッチでロープを燃やして行きたいと思います。まずは親子そっくりにしないとね。」
彼女は自分の母親の鼻を銃で撃ち抜いた。
「は、鼻が!!」
「鼻がなくて悔しい?でももうすぐ解放してあげる。」
彼女は更にガソリンを撒いて発火した。ロープはすぐに切れてしまった。
「残念だったね。狼さん!もっと美味しく調理してあげようとしたかったのに。」
「助けて!助けて!」
彼女は狼達に捕まって苦しんでいた。
「良かったじゃん。承認欲求を満たせて。」
悲鳴が止まらなかった。
「狼達に人気だし。結構たくさんの人がライブ配信見てくれたし。良かったね。幸せに死ねそうで。これで私も幸せ。」
彼女は灯油をばら撒いた。そして火のついたマッチを落として行く。彼女の母親は狼達からの噛みつきと強烈な炎で苦しんだ。
「もうライブ配信終わらせな。」
「分かった。」
ライブ配信は死を楽しむものがたくさん集まった。そうなるように彼女は妄想した。そして私達の妄想は終わった。
「悪くない台本ね。」
「あの母親をあのままにするわけにはいかないから。それにあんなに出来るのは妄想の中だから。でも妄想にしてはすごいリアルだった。まだ携帯やマッチを持ってる感覚が残ってるし、あの母親が無様に叫ぶ様子も残ってるし…」
「泣いてるの?」
「汗よ。」
「汗じゃなくて涙ね。私には分かる。」
「もし母親が優しかったらこんな結果にならなかったんじゃないかって…それくらい現実に近い妄想で。妄想なのにちゃんと私の記憶に残ってるから変な感覚で。」
「まだあの母親に気持ちが残ってるわけ?どうせ裏切られるだけなのに。」
「そうじゃない。変な感覚で。」
「また妄想したくなったら言って。その時はあんたの心の中に入るから。」
次の日も妄想した。
「変身して良い?」
私達は妄想の続きの中にいた。
「うん。」
「あんたが思い描いてたアリッサになってみた。どう?」
私は彼女を撫で回した。
「やめて。アリッサは簡単に触って良い存在じゃない。」
「そうやって壁を作るつもり?」
「私がアリッサの限りはそうする。」
「次のターゲットは誰?」
「誰もいない。」
「母親の言いなりだった父親は?」
「ムカついてたけど殺すほどじゃない。母親が殺されれば十分だから。」
「それならこの妄想はおしまいよ。」
私は彼女の心から離れた。
「せっかくアリッサになったのに。」
「妄想は殺人以外は使うつもりはない。そう言う妄想はやるつもりない。やるなら私一人だけね。どんなに妄想でアリッサになってもあんたはハイリーのまま。ゾーイにはなれるだろうけど。」
「どう言う子なのか詳しく知らないけどあれくらい頭良かったら良かったと思う。」
「頭が良いからこそあんな結末になったのよ。」
私は紙を投げた。
数日して叔母が私の部屋に駆けつけて入って来た。
「どうしたの?」
「ハイリーのお母さんが亡くなったの。」
「そんな…どうして?」
「荷物の中に大量のヒアリが入っててアナフィラキシーショックで亡くなったの。もし発見がはやかったらあんなことにならなかったのに。」
「考えただけでも胸が痛い。」
「ハイリーを見つけられないまま亡くなるなんて気の毒よ。」
叔母は私の部屋から出た。
「ニュース聞いた?」
「うん。叔母さんから聞く前にあんたのタブレットのニュースで知った。」
「最新の情報に敏感なのね。」
「記事には私のことがたくさん書かれてるみたいね。」
「まだまだ有名人なのね。存在してても行方不明になっても。きっとあんたが亡くなる時も誘拐される時も同じね。」
「既にあんたに誘拐されてるもんでしょ。」
「私は匿ってるだけよ。これは誘拐なんかじゃない。」
彼女はタブレットの電源を消した。
「ねえ、レベッカ、やっと私気が晴れた。どんなに離れて暮らしててもあの母親のことが頭から離れなかったから。もうこれでいなくなって欲しい人が人生で最初で最後ね。」
彼女は部屋を出ようとした。
「今まで世話になった。じゃあね。」
彼女の後ろ姿をずっと見る。




