要求と服従
「何の騒ぎなの?何時だと思ってるか分かってる?」
叔母は私を心配するような目で見た。
「メタルを歌いたくなったから歌ってみた。夜中にメタルを聞いたら死刑?」
「そうじゃなくてこんな時間に子供が起きるべきじゃないの。近所にも聞こえる音量よ。」
彼女はドアを閉めた。
「今歌うべきって私の心の中で確信したから。」
「今じゃなくても良いでしょ。」
「それなら私は終身刑?」
「違う。」
「懲役1年?」
「1週間はスマホやタブレットは没収ね。」
私から携帯を取り上げた。
「弁護士なしで決めるのね。」
「この家のルールを決めるのに弁護士なんていらないの。こんな叫びたくなって何があったの?やっぱり拘置所の面会に行かない方が良かったじゃないの?」
「それなら拘置所で大音量で歌うべきだったね。」
「ふざけないで。」
「真剣よ。」
「今日のあなた変よ。お願いだから早まったこととかしないで。」
「それなら私を縛りつけて見たら?」
彼女は私の肩を両手で力強く掴んだ。
「そんなこと絶対しない。分かった?とにかくダブレットも出して。」
「それが昨日から見つからなくて。」
クローゼットから何かを落としたような物音が聞こえた。
「何が起きたの?」
「勝手に開けようとしないで。」
「放っておけないの。」
私をはらいのけて開けた。
「痛い。」
「大丈夫?」
さらに彼女に大量の小麦粉がかかった。
「見える?」
「よく見えない。」
彼女をシャワー室まで連れた。
「やっとスッキリした。」
「悪かった。クローゼット色々もの詰め込みすぎて。」
「ちゃんと整理整頓した方が良いわ。そうでもしないと物置より蜘蛛の巣の天国になるわ。」
「もう大丈夫?」
「うん。平気よ。今日はもう疲れたと思うからゆっくり休むのよ。」
「分かった。お休み。」
「お休み。」
私は部屋に戻った。
「プッ…」
「あんな簡単に騙せるなんて単純な大人ね。」
「考えたのは全部私よ。ヘマしてたらあんたの親の所に引き戻された所ね。」
「ヘマなんてしない。あの絶望に戻りたくないから。それよりタブレット取り上げられて残念。せっかく退屈しのぎになったのに。」
「それなら部屋にある本何でも読んでいいよ。」
「読書なんて私の趣味じゃないんだけど。」
「これでも飲む?」
「睡眠薬?」
「うん。」
「処方されてから一度も飲んでないの。」
「ちょうだい。ここ最近寝れなくて疲れてるから。」
「決まりね。」
私は彼女に睡眠薬を飲ませた。
「どう寝れる?」
「まだ。」
「効果が出るまで20分か30分かかる。それまで私とカードゲームね。」
「何それ?」
カードゲームをしてるうちに彼女は寝落ちした。彼女をクローゼットに入れた。
「新しい友達紹介するね。名前はゾーイよ。」
「よろしく。レベッカ、ハイリーも呼ばないの?」
「新聞見てないの?先週から行方不明らしいよ。」
「ハイリーって?」
「有名インフルエンサーの小学生よ。」
「レベッカが言うまで私も知らなかったの。知らなくておかしいことないわ。それにしても心配だわ。」
「きっと見つかるよ。きっと近くにいるはずだし、生きてるだろうから。信じようよ。私も無事に戻って来られたから。」
「そう願うわ。」
「画面でしか見たことなかったけど私もそう願う。そうするしかない。」
「家に上がって。」
「素敵な所ね。」
「ゾーイのお父さんとお母さんには私の家に行くこと伝えてあるの?」
「伝えなくても大丈夫なんです。メイドと2人暮らしなので。」
「そんな家どこにあるの。こんな可愛い13歳の子を放っておくなんて…」
「うちの両親私のことなんてどうでも良いので。干渉しても無駄です。私の家の問題なので。だけどレベッカと知り合ってから少し楽しみが増えました。だからそんなに気にしないでください。」
「だけど車では送ってあげる。」
「良いんです。徒歩10分の所に家ありますし自転車で行けばすぐなので。それに遅くならなければ大丈夫だと思いますので。」
「帰る時は車の通りが多いから気をつけるのよ。」
「分かってます。だけど気にかけてくれてありがとうございます。」
私達は家に上がった。
「プリンを作ったから食べてちょうだい。」
「おばさん、最高!ありがとうございます。」
彼女は部屋を出て行った。
「このウィッグ重い。」
ヘイリーはウィッグを取った。そしてサングラスも外した。
「流石にバレたんじゃない?」
「バレたらその時よ。」
「でも何ともない感じだったから良かった。」
「あんたもとっさに嘘をつけるようになったのね。これがインフルエンサーの裏の顔?」
「私は平凡な少女だから。あれは偽りの私。親が死んだら告白小説でも書くつもり。」
「暴露本で一生暮らせそうね。」
「暴露本で家を建てるのが夢ね。」
「それなら親を合法的に殺してみる?」
「そもそも接触すらしたくないからその誘いには乗らない。」
私は絵を描き出した。
「突然絵なんて描いてどうしたの?」
「描きたい人がいるの。」
「私のこと?」
「違う。あんたじゃない。」
「それなら誰?」
「描き終わったら見せる。」
私は絵を描き終わった。
「この子って…アリッサ?」
「そう。」
「ニュースで顔を見たから覚えてる。中々おぞましい事件ね。」
「あの子は博識で親が金持ちでお嬢様学校に通ってた女の子よ。最初会った時はあんまり好きじゃないけど特別感を感じた。」
「どこら辺に特別感を?」
「理由なんてどうでも良い。私の本能に従ったの。」
私は1枚の紙を取り出した。
「これは?」
「監禁生活で考えてた私の彼女の姿よ。壁越しでずっとどんな感じなのかどんな人生を歩んで来たのか私に対してどんな気持ちを抱いてるかも考えてた。」
「どっちもあまり上手くなくて違いがよく分からない。だけど最初に見たのは何となく分かった。」
「見る目がないのね。」
「意外な不得意な分野を知ったよ。いつも油断も隙もないと思ったけど。」
「描いて。」
彼女に色鉛筆と紙を渡した。
「何を?」
「アリッサに決まってるでしょ。断るならここから車なしで帰って貰う。」
「分かったよ。描けば良いんでしょ?」
彼女は渋々と絵を描いた。
「私が描いたのもどっちも描いて。」
彼女は描き続けていく。描いてる時に彼女の背中を触った。何度も何度も触った。彼女はそんなことも気にせずに描き続ける。紙に命を吹きかけているようだった。紙から彼女が出て来そうな感じだった。2時間が経った。
「どう?」
「悪くないわ。」
「どっちが良い?」
「私の想像で思い浮かべた彼女の姿の方がずっと良いわ。」
もう一つの絵を窓を開けて投げた。その絵はどこかの家の敷地に入って落ちた。
「私の想像のアリッサの絵を貸して。」
「うん。」
私はその絵にキスをした。生と死がつながるキスだ。彼女が今にも出て来そうな感じだった。
「これで満足?」
「これから週に2回はこの絵を描いてもらう。」
「そんなに描かせてどうするわけ?彼女が戻って来るわけでもないけど。」
「彼女との思い出を更新したいの。写真収めるのが無理なら絵で更新すれば良い。」
「空想するのが好きなんだ。」
「妄想して世界を構想するのが好き。将来なるとしたら映画監督と言う所かしら。」
「あんたの口からはじめて夢なんて聞いた。良い夢じゃん。あんたならなれそうね。映画出来たら真っ先に見たいところね。」
「映画監督は色々操れるのよ。」
「それなら今何か映画撮ってみる?」
「今すぐ使えそうなもので必要なものは募集されてるから無理よ。」
「そう。せっかくアリッサの役をやろうと思ったのに。」
「今なんて?」
私は振り向いて彼女を見つめる。
「アリッサの役やってみようかなって。」
「そう。それなら今度やって見る?」
「どうやって?」
「その時になったら教える。」
「楽しみにしてる。」
私は彼女の髪を触る。
「何かついてるの?」
「何も。こう言うの嫌い?」
「あんたのこと嫌いなら今ごろ逃げてる。私は親以外の前では逃げることは得意だから。」
「それなら逃げれないように手錠でもかけようかな?」
「変な冗談はやめて。」
そう言いながらも彼女は笑った。
「レベッカは名前を偽るならどんな名前を使う?私はとっさにゾーイって名前が思いついた。」
「思いついた。」
「どんな名前?」
「教えてあげない。生きてる間に分かると良いね。」
「それまで死ねないわ。」
「あんたの親よりかは生きてるはずだから。」
「何で分かるの?あんた、予言者?」
「そう言う決まりだから。あんたが決断したらその未来が確定する。」
「私が殺人すること?」
「そうよ。」
「流石にあんな奴のために未来を台無しにしたくない。」
「生きたいんだ。」
「あんたと出会うまでは死んでも良いやって感情があったけど今はそんな感情はない。性格は良くないけどね。」
「性格良く見られたいとも思わない。必要だと思った人さえいればそれで良い。あとはどう死のうがどうでも良いから。」
「叔母さんのことはそう思ってないでしょ?」
「別にどうでも良い存在。血のつながった他人でしかない。」
「あんたの弱い所が何となく分かった気がする。」
「何考えてるかお見通しよ。」
「分かってるだろうけど教えてあげない。1つならあんたが思ってる私の弱さはただの弱さじゃない。強さになることがあるから。」
「強がってるだけじゃなくて?」
「あんたの知ったかぶりよ。」
私は彼女のことを縛った。
「何するの?」
「絵を描くのよ。じっとしてて。」
私は窓を開けた。外は暗かった。さらに電気を消した。
「足枷もするから。」
「何を描くつもり?」
「良いから静かにしてて。今のあんたに発言する自由はないから。」
彼女は笑ってなかった。その方がもしろ良かった。暗闇の中で彼女の顔だけが目立つ。灰色の服も電気の消えた部屋も彼女のことを目立たせる。
「私のことだけを考えてこっちを見て。」
私は彼女の心を見た。心の中では私と一緒だった。同時にはやく終わって欲しい気持ちも一緒に混ざっていた。
「この状況を受け入れきれてないのね。そのことを問い詰めるつもりはないけど、そのうち分かって来る。私なしじゃ生きてけないってね。」
私は絵を描き終わり彼女を解放した。
そんな生活から数日が経ったある日彼女は突然寝てる私に話しかけた。
「何?」
「ねえ妄想殺人がしたいから協力してくれない?」
私のことを起こしながら言った。その日は月の美しい夜だった。




