日常
私は元々は平凡な家庭の娘だ。9歳の時までは。特に家庭環境がクソでも無かったし、特別に金持ちでも貧乏でも無かった。両親はお金が無いことを口癖になんてしてなかったし、お金にそこまで執着する人間ではなかった。金持ちのようにどこかの国の子供達にたくさん寄付をするわけではない。家にそう言う団体が来た時に気まぐれで寄付をするくらいだった。お金を作ることにもそこまで興味があるわけではない。自立できて子供を養えるくらいのお金があればそれで十分な大人だった。アメリカでもどこでもいるような親だ。今振り返ると心の奥底は自分の子供以外はどうでも良い深層心理がある人間に違いない。本当にありふれた大人の一人。今何なって分かる。当時の私には分からなかった。
「レベッカ!今日は野球見に行くぞ。」
「パパはスポーツ観戦ばかりね。昨日もパブでお酒飲んでスポーツしてたって聞いたわ。」
パブでのスポーツ観戦は父親の楽しみの1つで週一程度で行くことがある。
「酔っぱらいは嫌いか?こうしてやる!」
「それなら私も酔っ払ってやる!」
私と父親は仲睦まじかった。平凡な家庭の平凡な幸せと言うものだった。あの時の私は父親のことが好きだった。
「頑張れ!きめろ!」
「いけ!」
観客の中でも負けないくらいの声の大きさで支持してるチームを応援した。
「負けたね。殴り込みに行く?」
「娘よ。馬鹿なこと言うな。パパがあんな低俗なフーリガン共と同じように見えるか?クソが詰まったような奴らだ。」
「パパまた汚い言葉使った。私には汚い言葉使うなって言うのに。」
「子供うちから使うなって意味だ。」
「何それ?それならパパは汚い言葉を使いまくってそのまま大人になったんだ。」
「レベッカ、汚い言葉使ったら好きなケーキ食べさせてやらない。」
「それならパパが汚い言葉使ったらパブに行けないように玄関に鍵をかける。」
冗談を言いながらお互い笑い合った。そんな会話が毎日だった。どこかに行く時も、家庭での団らんの場所でも、学校のイベントに来てくれる時も。
「どのケーキが良いか?」
「チョコレートケーキが良い。」
「またチョコレートか。」
「あと苺チョコレートドーナツとチョコレー
トドリンクもお願い。今日は良いでしょ?」
「それならあの丸太のようになるぞ。」
「私は痩せてるから良いのよ。」
「ママに似て痩せてるんだな。」
私は今と違ってチョコレートが大好きだった。甘い物に目がなかった。父親とどこかに行っては甘い物を食べさせて貰ってた。
「また甘い物ばかり食べたのね。」
「ママ、何で分かるの?」
「口にチョコレートがついてるからよ。」
母親は父親とは対照的にお酒はワインを好んで飲んだり、健康的な食事を気にかけている。スイーツを食べる姿はほとんど見たことがない。
「甘い物が嫌いなのね。」
「ママのような生活をすれば興味なくなるわ。明日のおやつはゆで卵ね。」
「ゆで卵にチョコレートソースかけたい。」
「駄目よ。あんなもの食べたら虫歯になるわ。そのままでも美味しいのよ。」
「他には?」
「アーモンドミルクよ。」
母親が箱を見せた。
「それ嫌い。」
「それならライスミルクなら良いわ。」
母親とは食の好みが全然違ったけどとても大好きだった。
「ママもステーキくらい食べたら?」
「私はベジタリアンよ。肉は鶏肉だけよ。」
「偏食なのね。」
「好みの違いよ。ベジタリアンでいることもそんなに悪いことばかりではないのよ。野菜と魚や卵が食べれれば十分よ。」
彼女が私達に自分の食事スタイルを押し付けるようなことは一度も無かった。
「レベッカ、ジムに行くわよ。」
「ちょっと待って。」
私の日課の1つは母親とジムに行くことだった。
「水分は小まめにとって。」
「ママすごい疲れてる感じね。私はまだまだ動ける。こんな感じに。」
「私も負けてなんていないわ。」
「少し休んだら。」
一緒にジムに行くのは習慣の1つだった。その時間は苦ではないしとても楽しかった。
「あのトレーナーやたらママに馴れ馴れしかったわね。タイプ?」
「パパがいるのにそんなこと思うわけないでしょ。レベッカは変な映画でも見たの?」
「この前新着で不倫を題材にした映画を見てさ。それがちょうどジムで起きた話だった。」
「誰と見たの?」
「友達とよ。」
「そう言う映画を見る時は子供だけは駄目。必ず親がついてないと駄目。まだ9歳なんだから。分かった?」
「何で?」
「子供はまだ分別がついてない年頃なの。何かあってからじゃ遅いの。ある程度の年齢になるまで駄目よ。」
「その時、イジーの姉ちゃんもいたから。」
「なおさら駄目。」
母親は厳しいところは厳しかった。しかし過保護でも過干渉でもなかった。極度に無関心でも無かった。
「ある程度の年齢いったら私は直接うるさくは言わないわ。だけど今はほっておくわけにはいかないの。」
「分かった。」
「新しく何か習い事でもする?」
「乗馬やりたい。」
「乗馬?すぐやめたでしょ。他の習い事の方が良いわ。」
9歳の時点で続いた習い事はプログラミングだ。一定シーズンになるとテニスの習い事も再開する。数学とプログラミングは他の習い事よりも続けられた。
「乗馬やめたのは2年前の話でしょ。昔のことよ。」
「つい最近のことなの。乗馬より他の習い事の方が良いと思うわ。」
「馬が怖いんでしょ?」
「ママが馬が怖いからじゃないわ。本当にやりたい習い事を考えたほうが良いわ。」
「気が向いて続けられると思うけど。」
「他に気になってる習い事は?」
「絵を描く習い事ってところかな。」
「絵に興味持つなんて珍しいね。美術館とかに連れてってもすごい退屈だったから。」
「興味は今でもない。でもこれから絵は私と関わっていく世界だと思う。」
「相変わらず直感で動くのね。」
「私が計画性で動く人間だと思う?思ったことをとにかくやろうと思うのが私よ。」
父親と母親とは違うタイプだった。2人とも直感で動く時もあればたまに計画をたてて行動をすることもある。
「ママは習い事とか何してたの?」
「バレエをずっと続けてたわ。」
彼女は踊りながら言った。まるでそこで音楽が流れているかのように。
「その習い事続いたの?」
「もちろんよ。あの時の青春そのものだった。」
「バレエなんて楽しいと思えないわ。」
私は性格に関して母親には似てる所がそこまで多くなかった。
「ジェニーまた遅刻なの?授業はじまって30分よ。」
「眠かったから。」
「あなたのお父さんとお母さんにこのことは連絡するわ。」
「したければ連絡すれば良いじゃん。」
ジェニーは席につく。
「また遅刻?」
「あのせんこうの授業なんてサボってなんぼでしょ。」
「また意地張って。親にチクられたらあとが面倒くさいでしょ。」
「嫌いな奴は嫌いだから。」
ジェニーは私の友達だった。大人に対して反抗的な態度を見せることはあるが私や同年代とはそこまでぶつかることはなかった。
「今日新しく映画アップされたって。」
イジーもかつての私の友達だ。2人とも小学生になってからの友達だ。
「イジーとあの映画見たの親に言ったら怒られた。」
「あんたの親、過保護なの?」
「過保護ってほどじゃないけどそういう所はうるさい感じの親だよ。」
「うちはそう言うのないから良いけど。ジェニーとレベッカ以外の所に泊まるのは止める。」
「大人っていちいち面倒臭いな。」
私には守ってもらう大人がいた。今は大人の守りなどいらない。
「ねえ、今度の週末一緒にどこか行く?」
イジーの母親が来た。
「植物園に連れてってあげる。」
私達はイジーの母親が作ったレモネードを飲んだ。レモネードは甘くて最高だった。レモネードにチョコレートソースを入れた。
「ショート動画撮ろう!」
顔出しでイジーとジェニーとショート動画を撮っていた。はじめはコメント欄を開放していた。私達のダンスをよく褒めてくれるコメントがたくさんで嬉しかった。
「クソが!またこの変態がアカウント変えてコメントして来た。」
「無視よ。そう言う奴は少しでもすきを見せたらしつこいから。」
「即ブロックよ。」
他にも差別的なコメントもあった為コメント欄はフォロワーしか出来ないようにした。
「何この動き。笑える。」
「気を取り直してやり直し。」
「せーの!」
一緒にダンスを踊るのが凄い楽しかった。ダンスも踊れて画面の向こう側で私達を評価してくれる人がいてくれるのが幸せだった。
「再生数上がった!」
「うちら最強なトリオじゃん。」
「当たり前でしょ。うちらはこれからも最強のトリオだ。」
「もっと再生数上げるよ!」
3人の友情が一生続くとこの時は思っていた。この時間が10代になっても続くと思っていた。まさに友達といれる幸せな時間だった。
「ママ、この服買って。今度の撮影に必要なの。」
「そうね。良いわ。買ってあげる。その前に私と動画撮る約束を守って。」
イジーの母親は動画配信者でインフルエンサーだ。自己承認欲求が少し強いが悪い親ではなかった。彼女が辛い時はしっかり看病する親としての役目を果たす母親だった。
「ドレス選ぶわよ。」
「こっちの花のモチーフがついたドレスとかゴージャスじゃん!」
「確かに!こっちの黒いのも可愛い。」
「カッコいいので揃えるのはどう?うちらに似合うと思うけど。」
ジェニーはませていた。普段から大人びたファッションをしている。誰よりも大人になって自立心が強い人物だった。すぐにも免許を取って車を運転して彼氏を作ってビジネスをはじめて自立したい気分だった。私と同じでプログラミングの習い事をしてた。将来はアプリ開発をして自分に見合った男性と結婚してお金を稼ぐことが夢だった。
「それなら私と撮る時はこっちのドレスね。」
彼女の母親は私達の分まで買ってくれた。かなりお金を稼いでいて、父親も事業が成功していて代々お金を作るのが得意な家系だった。
「今日もレベッカ送ってくれてありがとう。」
「当たり前よ。娘の大事な友達よ。それより今度一緒に植物園行くけどどうかしら?」
「良いわね。もちろん行くわ。」
「私が家まで迎えに行くわ。」
母親同士も交流が深く仲良かった。一緒にボランティアイベントに参加することもあるし、パーティーに参加したり、私の誕生日パーティーにもいることがあった。
ある日事件が起きる。その日はちょうど3人とイジーの姉、ローラと母親が一緒だった。宿題で図書館で調べ物をしていた。
「年表作成したいんですけど、この時代の資料ってどこにありますか?」
「3階の2列目の歴史の棚にある。」
凄い莫大な数の本があった。迷ってしまうくらい。それは本の迷宮だ。
「あのババア嘘ついたよね。探すのに時間かかったわ。」
「やっと見つかったから良いじゃん。」
「どうしたの?」
この時の私は何か違和感を感じた。
「何か見られてる感じがして。ダンス動画あげてから変なロリコン野郎とか嫉妬するキッズ共に目をつけられてるから少し警戒してる。」
「うちらは危険よ。特にイジーなんて一番のターゲットね。」
「何それ?変な冗談はやめて。」
「それほど人気者ってことよ。だけどうちらがいるから安心して、レベッカ。」
「うん。ありがとう。」
「何かあったら私と姉ちゃんでそいつの玉を蹴って使えなくらい潰してやるから。」
「あんたそんな言葉どこで覚えたのよ。」
「あんたの姉ちゃんが言ってた。意味はよう分からんけど。」
「熱い。何すんのよ!」
イジーにコーヒーがかかった。
「大変!」
私は火傷する彼女を見てすぐに彼女の母親を呼んだ。
「おばさん、おばさん、イジーが…」
「すぐに行くわ。」
詳しく話さなくても彼女はすぐに状況を把握した。
「どっちにいるの?」
「こっち!」
「ママ!」
火傷してる彼女の所に走って向かって行った。
「大丈夫?」
すぐ応急処置をしようとした。
「きゃ!」
「騒ぐな。」
いつの間にか私は誰かに手を引っ張られた。誰か分からない人に何されるのか分からない不安でいっぱいだった。
「こっちに来い。」
男は一目がないルートを狙って、いつの間にか車に乗せられて、助けを求めても何も出来ない状況だった。
「何してるんだ!」
「親子ですけど。」
「嫌がってるじゃないか。」
一人の男性がこっちに向かって助けようとした。
「嘘をつくな。」
彼は誘拐犯を殴った。その時の私はただその様子を呆然として見ることしか出来なかった。
「何するんだ!離せ!」
「被害者ぶるな、クソ野郎。」
「離せよ!」
数分後警察が駆けつけた。
「君大丈夫だったか?」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
私を助けたのは40代くらいの男性だった。どこにでもいそうな男性だった。
「ここら辺は誘拐の事件が起きてる。よく警戒しないと危ない。」
「分かってる。私だってこんな変態に捕まりたくて捕まってるわけじゃない。」
「レベッカ!」
イジーと彼女の母親と姉、ジェニーが駆けつけた。
「火傷は大丈夫だった?」
「私は平気よ。それより聞いたわ。大丈夫だったの?怪我とかない?」
「大丈夫よ。この人が助けてくれたの。あれ?もういない。」
助けてくれた男性は私にとっての運命の男性だった。




