部屋
「どこにいるの?」
声をかけても誰もいなかった。
「アリッサ!どこにいるの?」
私は黄色の部屋を歩き回った。部屋にはパインの置物やマンゴーの置物が置いてあった。他にも黄色やオレンジの絵の具だけを使った少女の絵が数枚壁にかかっていた。太陽がさしていないのに部屋は輝いていた。部屋を見回しても彼女の姿は見当たらない。私はマンゴーの置物を絵に向かって投げた。
「あっという間にいなくなったのね。」
彼女がまた遠い存在になってしまった。手に入れようとすればするほど彼女が遠くなって行った。
「そんなに私のことを避けていくんだ。やっと分かり合えると思ったのに。」
サイモンがやって来る気配がしたので元の位置に戻った。
「何も変わりないか?」
「今日も良い子にしてたのよ。そうよね?皆あなたに順従なんだから。」
私は笑いかけた。
「また監視役を頼んだ。」
彼が出かけてる間は彼の部屋を歩き回った。
「ねえ、ママ何で監視カメラ見せてくれない?」
「見せたいけど故障してるの。」
「それならつけてる意味ないじゃん。最悪。」
「私だってこんなふうになるなんて思ってなかったのよ。友達2人に何か心当たりないの?」
「あの2人をサイコパス扱い?信じられない。私のクローゼットに腐った食べ物ばら撒いたり椅子に水をばら撒いたり、物を盗んだりした犯人だって言いたいの?2人がそんなことするはずがない。」
「最近怒りっぽくて喧嘩ばかりじゃん。」
「だからそれとは関係ないでしょ。どうして私に耳を傾けないの?」
「何かトラブル起きてないか心配だったの。」
「そう言う心配とか良いから。」
彼女は引出しを開けた。
「ないない!写真がない!どうして…」
「今度はどうしたの?」
「アンソニーと写ってる写真がないの!」
「フェリシア…」
彼女は泣いていた。
「あなたが悪いわけじゃないのよ。大丈夫。彼が亡くなったって決まったわけじゃないんだから。」
2人は抱き合った。もう私が取り戻せない関係だ。親がいないのだから。
「そうよね。生きてるよね。はやく見つかって欲しい。」
「きっと見つかるわ。」
「もうそう思うしかないのね。ねえ、今日一緒の部屋で寝ても良い?」
「寝れてないの?睡眠薬は飲んでるの?」
「ちゃんと飲んでるけど寝れてなくて。」
「寝る場所用意しとくから。」
「ありがとう。」
「これから会議があるの。また話はあとね。」
彼女は数多く起きた出来事に混乱して、一人でいることに不安感を強く感じた。特に夜の暗闇の中では誰かがやって来るのではないかと言う不安感が彼女を支配した。
「そうだ。大事な記録を残そう。」
私は閉まってるクローゼットに向かって突進した。鼻に命中した。鼻血が出た。その血を手に取って彼のコートに「愛してる。」と書いた。これは私からの手紙。愛の言葉の詰まったメッセージだ。彼の服が私の色で染まっていくのが快感だった。しばらく部屋を歩き回った。部屋はいつもより淀んでいた。私がいる定位置とどこか近い雰囲気がした。彼の部屋は私達の王国と外の世界をつなぐ部屋。王室でもあり2つをつなぐ通路だ。その通路に入れるのは彼しかいない。私は彼に気がつかれないようにその通路をうろうろしてる。気がつかれても別に良かった。この空間に足を踏み入れることが出来なくなるだけで一生ここで体験した記憶が消えるわけじゃない。そこで触った数々の服や拘束具や拳銃、そこで嗅いだ彼の匂い、そこで見た彼の写真の数々、それらは消えない。強制的に消そうしても消せるはずがない。それほど私の忘れたくない欲望が強いから。だけど忘れたいものもある。彼とその娘が一緒に写ってる写真だ。実に不愉快だ。私の頭から消えてくれれば良いと思った。
「パパ!」
思ったより帰るのがはやかったので私は部屋に戻った。
「大人しくしてたかしら?」
アンソニーは何も答えない。
「無言を貫くつもり?無言を貫いたらどうなるか分かるかしら?あんたに出来ることなんて私や彼に従うしかないの。だってあんたは私や彼のものなんだから。」
「そんなの誰が決めたんだよ。限界を決めるやつが僕は一番嫌い。心から軽蔑する。」
「素直になれないのね。まあ良いよ。あんたの大好きなもの食べさせてあげる。」
私は彼にゼリーを投げた。それは体全体についた。そして彼の手錠を解いた。
「何やってるんだ。一緒に逃げるぞ。」
「私は良いの。さっきは言い過ぎたと思ったから。イライラしたでしょ?助ける価値ないと思って当然よ。」
「何でそんなにネガティブなんだよ。分かった。僕には君を助けられない。」
彼は私を置いていくことに罪悪感を抱いた。涙を流して泣いていた。
「さよなら。」
「じゃあね。あんたのことは一生忘れないよ。汚い外の世界で幸せに過ごすんだよ。」
私は去って行く彼から目を離さなかった。
「出口はとこだ?」
彼は一つ一つ出口を確認した。
「ここでもない。どこなんだ?とにかく今は逃げるしかない。」
必死なって出口を探す。
「ここだ。」
ついに出口を見つけた。
「え!?嘘だ!」
サイモンとたまたま鉢合わせてしまった。
「何勝手に逃げようとしてるだ?それに体についてるゼリーは何だ?」
彼は笑っていた。
「許せない行為だけど手錠を自ら解錠したことは褒めてやる。ご褒美は何もないけどな。」
首元を掴まれて部屋まで連れてかれた。
「離せ!何するんだ!性犯罪者!!」
「離せって言って離す奴はいない。タブーを犯したお前が悪い。誘拐犯だとか性犯罪者とか軽々しく言うがよく考えるんだな。ご飯を食べさせてやってることでも感謝するべきなんだよ。」
「何言ってるんだ。こんな状況望むヤツなんて一人もいない。」
「部屋についたぞ。大人しくしろ。」
彼は手錠と足枷で再び拘束した。
「何で鼻血がついてるんだ?」
「彼に殴られたの。」
私はとっさに泣いた。
「おい、泣くな!」
「彼に襲われそうになったんだよ。」
「監視係を襲うとは良い度胸だな。」
「違う!元々彼女が自ら手錠も解いてて、僕のぶんまで解錠したんだ。それにゼリーまみれにしたのも彼女の仕業だ。」
「全部嘘よ。せっかく大人しく言うことを聞いてくれると思ったのにがっかり、自ら手錠を解いて私を襲おうとするなんて。」
「あれだけ守るとか言いながら同意なく襲うなんて酷い話だな。」
アンソニーに向かって彼は言った。
「だからやってない。」
「信用出来るのはここに長くいるレベッカの方だ。お前は反抗ばかりで信用を勝ち取ってない。俺に順従な彼女の意見の方が真っ当だよな?」
「証拠はない。だけどやってない。警察が来れば罪に問われるのはあんただ。」
「警察は来ることはい。外の世界はもう荒廃してる。」
笑い声をあげながら彼は言った。
「警察も動けない無法地帯だ。外に出たら麻薬中毒者がうようよしてる。外はお前が思うような綺麗な世界ではない。」
「何故そんなあからさまな嘘をつくんだ?僕はそんな不安に惑わされて自分を失うような少年じゃない。こんな所にいるくらいなら綺麗な外の世界の方がずっと良い。外には楽しことがたくさんある。こんなのおかしい。外の世界が汚いなら汚くしてるのは自分と向き合えない可哀想なあんたみたいな人間だ。」
「黙れ。俺は外の世界からお前達を守ってる。」
彼は平手打ちをした。
「こうやって人を縛って自分の心を満たしたいんだろ?そんなの理解出来ないし、理解したくもない。」
「私は理解出来る。だって彼は正しいんだよ。どうしてこんなことが言えるの?酷いことしたのはアンソニーの方よ。」
「どんなに説得しようとしてもお前の味方は誰もいない。俺どころか彼女からも信頼を勝ち得てない。」
「こんな関係で信頼なんて芽生えるわけない。あの子は被害者なんだ。」
私は被害者なんかじゃない。被害者なんて言われて人生を振り回されることの方が私はずっと嫌い。
「あんたのせいで狂ってしまったんだ。絶対そう。僕には分かる。」
私のことを分かるのはその時サイモンいなかった。
「引き続き監視役を頼んだ。」
彼は罰を受けるたびに泣いていた。私はそんな彼に同情はしない。むしろそれで良かったと感じた。
「いつまで抵抗するつもり?」
「何もしなければ何も変わらない。そうだろ?」
「パパ、今度友達と海に行きたいから連れってくれる?」
「良いよ。」
「ちょっと聞きたいんだけど。」
「どうしたんだ?」
「警察からは何か進展あるの?」
「何もない。証拠が揃わないと中々動いてくれないんだ。現実はそんなにスムーズではない。」
「警察って本当に守ってくれるの?」
「必ずしも守ってくれるわけじゃない。これだけは覚えて欲しい。それとお前は俺にとっての大事な娘だ。」
「何かいつものパパと違う感じね。」
「スーパーヒーローだからな。」
彼は彼女のことを抱きしめた。
「あんたが何を言おうと私は彼のことを愛し続けるしあんたの監視役でいる。それよりあんた学校で人気者なんじゃないの?」
「そこまで人気者じゃない。」
「私には分かる。私は人の心が読めるの。潜在的に人気者だって認識があんたの中にある。」
「超能力者なのか?こんな所で才能を使うなんてもったいない。」
「この能力を開花したのはここでなの。むしろ彼に連れ去られて良かったんだよ。私はマイナスだなんて思わない。」
「そんな所で身についた能力なんて1ミリ足りとも欲しいと思わない。羨ましくもない。」
「身につけたとしても自分のものにできないんだろうね。」
私は彼のことを見つめた。
「パーティーとかよくやるんじゃないの?」
「僕の家で学校の友達招いてやってた。今すぐにでも皆に会いたい。」
「パーティーではもちろん人気者でしょ?」
「そうだな。」
「やっぱりね。あんた見てて思う。悔しいけど頭がよく回る方なのね。サイモンとのやりとり見て思った。」
「完全に頭が狂っているかと思った。」
「パーティーにはどんな女の子が来てた?」
「いきなり何でそんなことまで聞くんだ?」
「興味があるの。あんたに近づくような女の子がどんな女の子かって。」
「学校の子もいれば学校以外の子もいる。性格もそれぞれ違うと思う。」
「来てた女の子の名前をあげてみて。」
「ジョセフィン、メーガン、エマ、イボンヌ、フェリシア」
「フェリシア?どんな子?」
「学校の女の子だよ。とても明るくて良い子だよ。」
「良いこと教えてあげる。サイモンは彼女のお父さんなの。」
それを聞いて彼は呆然とした。




