言葉
「アリッサに会わせろ!サイモン!!アリッサ!アリッサ!」
「黙れ!」
私は頬を叩かれた。何回か叩かれたので痛みも感じなくなった。
「ねえ、ここに犬がいるのは本当なの?」
「喋るなって言ってるだろ!」
「結構音漏れしなさそうな部屋なのに。分かった。もしかして外に漏れるのが怖いんでしょ?」
私はサイモンをからかった。
「余計なことをぺちゃくちゃと喋るな。」
「分かった。黙ってるよ。隣の女の子みたいに喋れなくなるのは嫌だし。」
「1つお前に聞く。俺のことどう思ってる?」
「愛してるわ。あなたが外の汚れから離れさせてくれたんだから。アリッサとあなた以外私は信じることは出来ない。」
私には彼が内心焦りを見せてるのが分かった。支配できたつもりの相手が思わぬ方向に狂い出して奇行に走ってることを。いつからか私は顔を見て相手が何を考えてるか分かるようになった。隣の少女は顔がよく見えないから何を考えてるか全てを分からない。
「本心ではないな。少しでも脱出したいから嘘をついてるんだろ?アリッサの名前を連呼するのも脱出するのが魂胆だろ?」
「信じないのね。がっかり。こんなに愛してるのに。」
愛を信じてもらえないことは絶望を産む。だけど私は絶望だけじゃ終わらせられなかった。相手の不信は追求を産み出す。
「罰としてのここの電気を消してやる。」
灰色の部屋は真っ暗になった。どんどん黒に近づいた壁や床は一気に暗くなった。暗くて何も見えなかった。私が撒き散らしたガムの跡も見えなくなった。本当に暗黒の空間になった。誰よりも光が届かない空間に私はいることになった。どんなに外で太陽が照らそうがここは光の知らない空間になった。太陽は全ての人を平等には照らさない。だけどそんな不平等など私は気にしなくなった。
「暗くても消えないものがある。それは私とあなたの愛。」
私は暗闇の中で彼の姿を思い浮かべた。吐き捨てたガムを踏みながら考えた。私の靴にこびりついたガムも今やあまりこびりつかなくなった。私はそのガムを何度もくっつけようとした。不快感があるゴミに思ってたものも今やくっついて欲しかった。ガムにまで突き放された気分だった。くっつかないか何度も試してみても変化はなかった。だけどガムは逃げることはない。暗闇でもそれらの位置が分かる。
「離れないって言ったよね?どうして私に不信感を抱くの?ようやく分かり合えるようになったのに。」
最初はガムを優しく踏んでいたがだんだんそれは強くなり騒音になった。部屋中に音が広がった。椅子がきしむ音もかき消すくらいの音量だ。
「うーうー!!」
隣の部屋メラニアは口を塞がれて何かを訴えてるようだった。私は彼女に何も答えない。私はただ一人で足踏みを続ける。
「初めて愛というのを分かったのに理解してくれないなんて呆れる。だけどそんなあなたを嫌いになんてなれない。だから愛してるのを分かってくれるよね?」
足踏みが止むことはなかった。これは愛の再生の行為。
「シャワーの時間だ。」
この時間は暗闇からの解放だった。
「どうして何も喋らないの?いつもなら私を萎縮させたり不快にさせることを言うのに何で今日はそんな一言も言わないの?」
「もう話す価値がないからだ。それ以下だからだ。」
「なら殺せば?もう用済みなんでしょ?あんたの願いなら何でも聞いてあげるよ。もう必要ないんでしょ?それもあんたからの愛として受け止めるよ。ほら刺し殺して見てよ。」
「狂ってる。」
「ここにいる人間は皆狂ってる。外の世界の人間は狂ってることを映画俳優のように隠してるんだよ。つるんでやつも同じだった。そうだと思わない?」
私は彼の顔を見て分かった。彼には他に守りたいものもあることを。それが許せなかった。私は無償の愛を受けられない存在だと苛立ちが止まらなかった。私は唾を吐いた。
「汚い!何をするんだ!クソガキが!」
「もっと私のことを見て。目をそらさないで。」
自分がようがすんだ存在だと思われたくなかった。常に注目されたかった。死ぬまで彼に注目されたかった。私は諦めらなかった。
「それなら試してみてよ!私が必要ないなら銃で撃ち殺したりナイフで刺し殺して血まみれにしたりして見て。もし必要な存在なら愛してるって言って。」
彼が導くことが出来なければ私が導くしかない。
「もし殺したりしたらその時は今までにない大声で叫ぶ。もちろんあんたへの愛の言葉を言うよ。最高だと思わない?支配したい相手の愛の言葉を大声で聞けるなんて?」
「キチガイビッチが。」
「さあ選んでよ。新しい少女誘拐するよりも簡単でしょ?」
私は笑いながら言った。
「殺す価値もない。」
「価値が無いって言うの好きだね。」
彼は私を再び暗闇に戻した。
「愛してる。」
「よく言えたじゃん。」
彼は焦って私の口を封じた。私はついには喋れなくなった。
「口封じしなかったのが間違えだった。」
口封じしなかった理由は知っていた。まず彼は少女達がもがき苦しむ声を聞きたかったから。部屋はそして外の世界に聞こえないくらい防音がしっかりしてるから。
「今まで君の声が聞きたかった。だけどその考えが浅はかだった。」
彼はついに私の前で自分の弱さをさらけ出してくれた。好きな人の弱い部分を見るのはこの上なく嬉しい。幸福感で満たされた。
「今後は喋れないようにする。」
以外に隙を見せることがあると思った。サディストの彼も隙のある彼も平等に私は愛せる。どっちも同じ人物だから。
「うーうー!」
暗闇の中隣の部屋から訴えようとしてる声が聞こえる。とてもしつこい蚊のモスキート音のようだった。不快だった。聞きたいのは彼と彼女の声だけなのに。出来ればワイングラスで後頭部を打って黙らせたいと思った。私は縛られてるから出来なかった。縛られてなくても彼がだめと言うなら私は出来なかった。彼からの好感度を失いたくなかった。もっと私に向き合ってくれるように何だって出来る。法律を犯すことだって出来る。死刑になろうが何だって出来る。彼からの愛はどんなことも可能にする。常識と言われてることの範疇を超えたことも出来る。
私の目の前は暗くて何も見えない。座ってる椅子や私の体ですら暗くてよく見えなかった。だけでどこに何があるのかは分かっている。灰色の空間にずっといればよく分かるしつけた目印もたくさんある。私はピンで手錠をつついた。ずっとその行為をしても特にイライラはしなかった。退屈よりかは手錠をこじ開けた方がずっと楽しかった。そしてついに私は手錠をこじ開けた。さらに私は足枷も解錠した。手足が解放されても前がよく見えなかった。私は落ちたガムの感触を頼りに進んだ。そして部屋を出た。共用部はコンクリートで出来ていて無機質だった。触った感触はザラザラしていた。粒子は手に残った。それを息で吹き隣の部屋の扉にばら撒いた。扉は少し灰色の粒がついた。私は周囲を歩き周り出入り口を見つけた。するとさらに灰色の共用部が続いた。そこを上がると天井に扉があった。とても力が必要だった。私は力ずくで扉を開けた。プラスチックのケースが扉を塞いでいてクローゼットの中だった。私はそこら出た。すると彼の匂いがこもった部屋だった。彼の服を触った。いつも着ないような服だった。
「今日、パパ遅いみたいなんだよね。」
「珍しい。いつもいるイメージだけど。」
「何と言うか出入りが激しいって言うか。大人なのに落ち着きがないタイプなんだよ。」
「一人で遊園地でも言ってたりしてね。もしくは自分の離乳食買いに行ったとか?」
「パパにそんな趣味ないわ。」
「趣味だったら動画におさめてやりたいわ。」
私はこの時はじめて彼に娘がいることを知った。とても悔しかった。私がいながらもっと大切な存在がいるように見せつけられるような気分だった。だけど彼よりその娘の方が憎たらしい。自分が愛されることが当たり前のような振る舞いをしてるのが許せなかった。
「恋人のように仲良いね。将来お父さんと同じようなタイプと結婚とか?」
「それはない。もっと計画的でスマートで紳士的な男性と結婚したいね。」
「絵本や子供向けの映画の見過ぎじゃん。うちの学校にそんな男子いると思う?」
「それなら一人知ってる。アンソニーって男の子。この前の知り合いのプログラミングの集合写真に写ってた。この子よ。」
「クールじゃん!」
「王子様って感じじゃん。女子からも凄い人気なのよ。」
「男子からも人気そう。」
「そんな彼と付き合ったら学校中を敵に回しそうね。四面楚歌って感じね。」
「そんなんでうちらの友情は壊れるもんじゃない。逆に自慢したくなるわ。」
「何であんたが自慢したくなるのよ!」
「会いたい!」
「今誰かの声が聞こえなかった?」
「やめてよ!また何か聞こえるの?」
「私にも聞こえた。誰かいるの?」
3人はラケットや掃除道具を護身用として手に取って進んで行った。
「あんたの家オウムかなんかでも飼ってるの?」
「前は金魚飼ってたけど死んじゃったの。今そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。」
寝室などを調べても彼女達は私を見つけることは出来なかった。
「おかしい確かに人の声が聞こえた。」
「1回警察に連絡した方が良いんじゃないの?何かあったら怖いよ。」
「電話する。」
彼女の友達は警察に連絡して家宅捜査を行ってもらった。
「声が聞こえたのはどちらから?」
「家のどこかから聞こえたんです。明らかに外から聞こえる声じゃないと思って。」
私がわざと出した声で彼女達は慌てていた。その姿を見てとても楽しかった。
「はやく犯人をとっちめてください。」
「いったん落ち着いて。よく調べてるから。」
操作がしばらく続いた。
「ちょっとここの引き出し開けないで!下着とか入ってるんだよ!」
「捜査に協力してもらわないと困る。拒否したりしたら公務執行妨害になるのわかってるのか?」
「そんな。」
「悪いけど協力させて。」
その間私は部屋に戻った。自分で手錠をつけて足枷をつけた。何もなかったふりをした。
「頑張っても私を見つけ出すことなんて出来ないんだから。」
誰も見つけることは出来ない。
「特に異常はありませんでした。引き続き聞き込みや調査などを行いますのでよろしくお願いします。」
その日は警察が駆けつて手がかりを見つけられず帰ってしまった。




