第十八話 岩窟の研究室 其の四
クローリーと白露は、研究室の入口から見て真正面にある部屋へと入った。
部屋の中央に、長い机が置かれ、左右に天井まである本棚が設置されている。
入って右の本棚には図鑑や医学書、辞典の背表紙が見られる、入って左の本棚には紐で綴られた本がぎっしり詰まって、図書室の様だ。
「研究の資料室のようだな」
白露は右の本棚から、手近にあった図鑑を手にとり捲った。
「これは薬草図鑑ですね」
クローリーは左の本棚の中央辺りから、黒い紐で綴られた本を取って開いた。
「研究の日誌だな」
日付けは十年以上前と古く、素材の組み合わせと効能の結果が書かれている。
一段上を引っ張り出すとさらに日付が古く、本棚の上から古い順に並んでいるようなので、下方から新しそうな日誌を開いた。
「白露みてみろ。グールの血を使った薬の研究について書かれてる」
「…………」
3.1
秘薬もついに実用段階に来た。月人の生き血にはグール化を抑える効能があることが分かった。
ドワーフに伝わる祝福の花と合わせれば、あの御方の望む薬が出来上がるかもしれない。
3.3
グールの血は抜いても生きているが、月人の血はすぐに死んでしまう。
月人とグールの血を混ぜると、グールの血が抑え込まれ、やがて死んでしまう。
3.10
グール化しつつあるリンクに月人の血を輸血してみたが、拒否反応を起こした。
野ウサギの血を輸血したら収まった。
リンクは、やはり獣人なのだ。
「グールの細胞再生能力を得たいようだな」
「ここに書かれている“あの御方”って誰でしょう?」
「棚に紐の色が違う綴りの本がある。開いてみよう」
日誌は黒い紐で綴られているが、その中に白い紐で綴られた本が一冊あるので、手に取って開いた。
「人の名前が書いてありますね」
「表紙に顧客リストと書いてある」
白露はリストの中から気になる名前を見つけた。
「虹雲」
「知ってるのか?」
「ええ、かなり昔に、寺院の秘薬作りの最高責任者だった人です」
「だった。ということは」
「十年以上前に高齢で隠居なされて、修練所で修練の指導をしている方なので、私も一度しか姿を見たことがありません」
「……ベルデ。確か副騎士団長に就任したばかりの。あと十貴族のひとりヴィオレット夫人の名前がある」
「騎士団と十貴族ですか」
「持ち帰ろう」
「そうですね」
「もう少し、日誌を見よう」
「はい」




