第十七話 岩窟の研究室 其の三
ブラッドとアルは、入口から向かって左の部屋へと入った。
瓶が棚にズラリと並んでいて、瓶には薬の素材が詰められている。
「素材庫のようですね」
「そうだな」
瓶の中身は乾燥した植物や、干したトカゲやカエル、昆虫など様々だ。
アルがカエルの入った瓶を手に取った。
「コレはヤクガエルですね。捕まえた時に出る粘液が止血薬になるので、軍の野外演習で一番最初に教わるやつです」
「干してすり潰して軟膏にしたものは、皮膚再生の薬のだったか」
「そうです。魔力切れで治癒魔法が使えない時に傷口を保護する目的で塗ります。軍では魔法に頼らない戦闘も学びますからね」
「公職の位置につくエルフの戦闘は剣術と弓矢以外、魔法に頼り切りだからな。特に回復や治癒は」
魔力切れで、危機に陥った討伐を何度か経験済みのブラッドにとっては、痛い話である。
「獣人はエルフや月人より傷や体力の回復が早いですからね」
「そうだな。ん?」
ブラッドはあるものに目が行った。
「コレなんだ?」
アルコールの様な液体に漬けられた、動物の内臓のようだが、男のこぶし大で丸い形をしている。
「豚の睾丸ですよ」
「見たことなかった」
「普段はなかなか出回らないですからね」
「やっぱり精力剤とかになるのか?」
「ええ、ですが、ウチの豚のではないですね」
「分かるのか?」
「ウチは、まだ小さいうちに去勢してしまうので、この大きさにはなりません」
「へぇ〜」
「この大きさまで、去勢しない養豚場は限られてるかと」
「例えば?」
「最近、次男が騎士団の副団長に就任したエルフのベルデ家の王室養豚場? あそこは去勢しない豚を出荷していますけど」
「調べてみる価値はありそうだな」
「確か、王国の薬局にも動物性の素材を提供していたはず」
「クローリー達が研究の出資者か顧客のリストを見つけてくれれば、ハッキリするかもな」
「ウチの母方シェパード家とベルデ家は昔から交流が深いんですよ。シェパード家が王室御用達の肉を献上していて、王室の料理長だったベルデ家の先代当主が王室用の牧場を経営するため、シェパード家に学びに来ていたらしいです」
「やっぱりお前らの家、凄いな」
「今でも王室御用達ですからね。ウチのソーセージとハムは。今の王様は王室の牧場で育てている豚がお気に入りみたいですが」
「去勢しない豚ってことか?」
「ええ、野性味のある肉が好みなようで、ウチのソーセージとハムはスパイスやハーブに合うように去勢して肉質を良くしてるんです」
「色々あるんだな」
アルが手に取った瓶には金色のコウモリの翼が入っている。
「珍しい生き物もいますね」
「絶滅危惧種だ。密猟までしてるのか…」
「貴族なら、もみ消し放題ってことですかね」
「エルフの貴族の考えることは分かりたくもないな」
「ですね」




