第十六話 岩窟の研究室 其の二
クローリーは研究室の奥の扉を開けた。
扉を開けた部屋の奥には、自爆魔法で死んだはずのリンクが机に腰を掛け、こちらを見ていた。
「……リンク…自爆魔法で、死んだはずでは?」
「まさか、完全にグールに…」
ブラッドがクローリーが言うより早くクローリーの思ったことを口にした。
「グールには、なっていませんよ。僕はヒトです」
「自爆したはずじゃ…」
「自爆した僕は肉片になって、研究室にいたニンゲンの肉片と融合し、完璧なヒトとなったんです」
「肉片からでも、再生する上級グールになったのと何が違うんだ」
リンクの目は白黒の反転したグールと化しているが本人は気がついていないようだ。あったはずのウサギ耳も左右歪に崩れている。
クローリーは部屋を見渡したが、ガラスや鏡が粉々に割られていて、姿を映すものが何もない。
「同族を食べなくても生きられる。病気もなくなった。僕は、父と兄の蘇生薬の研究を完成させたんですよ」
「…………」
クローリーの隣で白露がリンクを見て、手を握り締め唇を強く噛み締め震えている。
「大丈夫か…白露」
クローリーは白露に小声で話しかけた。
「……大丈夫…じゃ…ないです」
「もう少し我慢しろ」
「…………」
「俺も吐き気がする」
ブラッドが苦い顔をしている。
ここへ来た目的は、この研究室で行なわれていた秘薬の研究が、いま追っている事件と関連があるかどうかだ。
「なぁ、リンク。秘薬の研究が完成したというのなら、それを薬にしたんだよな」
「僕は、父と兄弟の様に研究者じゃないから薬は作れない。あの爆発後しばらくして、父と兄弟の研究に出資していた、エルフのご婦人が僕の血と皮膚の一部を貰いに来たよ」
アルが呟いた。
「……ブラッド看守長。その細胞から作ったのが、追っている強化薬ということですか?」
「分からないが、少なくとも、グールの血と細胞を使っているんだから、効果のある間は細胞を活性化して再生し続ける薬にはなるだろうな」
「でも、リンクは完全にグール化している。本人が言うには食欲が抑えられているらしいが、研究が成功したのかどうかは分からない」
気になるのは、グール化しないが『細胞の活性と再生だけはする』という非常に都合のいい薬ができたのかというところだ。
「同族さえ食わなければ、いいのか…」
「それならば、酷い話です」
アルとブラッドとクローリーが話しているあいだ、白露がリンクに質問を投げかけた。
「そのエルフの御婦人の名前や見た目の特徴は?」
「さて、今の僕には、僕しかいないし、興味がないから何も分からない」
「そうですか…」
「……っ…白露っ…!!」
クローリーたちは、話に気を取られていて、白露が武器を抜いていたことに気が付かなかった。
「じゃあ、消えてください」
止めようとしたが遅く、白露の持っている長い棒がリンクの心臓を突いた。
【ナム・散】
「ぐっ…」
苦しみ出したリンクは徐々に体が砂のように崩れている。
「なんで…僕は、完璧なヒトになったはず…」
「証拠が…」
アルが手を出しかけて止めた。
「コイツもう死んでるんですよ。何も知らないから楽にしてあげたまでです。グールは不殺のカウントには入らないでしょ」
「……残念だったな。ただのグールだよオマエは」
「そんなはずは…な…」
崩れてていく、ただのグールの体が完全に砂になるまで見届けた。
「この砂、放っておいて大丈夫なのか?」
「念のため、瓶に詰めて封をして持ち帰ろう」
クローリーは風魔法で砂を球状にまとめ上げ、アイテムボックスから出した瓶に詰めた。
「神社特製、魔の物封印用の瓶だ」
「そんなのがあるんだな」
「魔の物退治は神社の特権なので。兄さまは悪魔も祓えますけど」
「スゴイですね」
「……まだ、この研究室、まだ何かありそうだ」
研究室には、二つ扉がある。
「最初からそれが目的か?」
「まあ、研究室が無事だと分かったから、データも無事だろうし、データを持ち帰るのがいちばんだ」
「部屋は二つあります。手分けして探しましょう」
「一応、武器を用意しておくに越したことはないな」
クローリーと白露、ブラッドとアルに分かれて部屋に入った。




