最終話:決着
僕が目を開けると、そこには倒れたジェレミと、それを見下ろす愛奈さんの姿があった。
「くっ……がはっ! どうしてこんなふざけた奴に……どうして俺は……!」
心中お察しします。
「どうだったろうか、私の〝おもてなし〟は」
「知るかそんなもの……!」
「むう、私もまだまだ勉強不足のようだな。商いとは本当に奥が深い」
「なんだかよくわからないけど、やりましたね、愛奈さん!」
「お前までそんなことを……」
愛奈さんは納得のいっていない表情で僕を睨む。
「ジェレミよ、貴様には相手を敬うという、単純かつ簡単なことができていなかった。それだけのことだ」
愛奈さんは言うと自分より一回りも大きいジェレミを抱えて、従業員室に向かって歩き出した。
「物置まで送ろう。最後まで見送る。これも商いの鉄則だからな」
「では佑樹、私はジェレミを向こうの世界に送ってくる」
ロッカーを前にして、愛奈さんの体力もいよいよ限界のようだった。
「わかりました。愛奈さんも今日は向こうの世界で休んでください」
「そうさせてもらおう。仲間たちにも報告せねばなるまい」
しかし、愛奈さんはそこから動こうとしない。
「どうしたんですか?」
「……いや、なんでもない。悪かったな、面倒を掛けて」
「何言ってるんですか。また愛奈さんの凛々しい姿を見られて、嬉しかったですよ」
「ふっ、そうか」
「愛奈さん疲れてるんですから、早く行ってください。あ、ちなみに次のシフトは明後日午後五時、僕とですからね」
「……そうか、承知した」
僕に急かされて愛奈さんはロッカーに入る。
「――夢が続くのなら、また会おう」
「え?」
直前に、そんなことをぽつりと呟いた。
――瞬間、ロッカーは閉まると同時に、音を立てて崩れだす。
がらがらがら。
ガラクタと化したロッカーの向こうには、何もなかった。
それは僕の、彼女の新たな旅立ちを祝福するかのような、鐘の音にも聞こえた。




