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第十九話:決戦 その二

 ジェレミは抜いた剣を躊躇いなく愛奈さんに叩き込む。駐車場に金属音と共に、大きな火花が爆ぜた。

 愛奈さんはジェレミの一撃を上手くいなすと一定の距離を置いて構えた。しかし、今の攻撃を受けただけで愛奈さんは既に息が上がってしまっていた。やっぱり、どう考えてもまだ早すぎたんだ。

「どうしたどうした! 言っていたこととやっていることが噛み合ってないぞ愛奈ァ!」

「くっ……!」

 それを好機とばかりにジェレミは愛奈さんのわき腹目がけて横一閃。愛奈さんはなんとかそれを受けることができたが、重い斬撃に数メートルほど吹っ飛んでしまう。

「愛奈さんっ!」

「大丈夫、大丈夫だ……」

「素直に俺と共に来ればいいものを」

 ジェレミはゆっくりと愛奈さんに歩み寄る。

「……黙れ!」

 愛奈さんは膝をつきながらジェレミの喉元に向かって突きを入れる。

「くだらん!」

 ジェレミはそれをいとも簡単にかわすと愛奈さんの顎を持ち上げて語り掛ける。

「今ならまだ話を聞くぞ、俺は寛大なのでな」

「どの口が言うか……冗談だったとしても笑えんぞ……!」

「さすれば最上級のもてなしと共にお前を迎え入れてやる」

「……もてなし……?」

 愛奈さんはそこでぴた、と動きを止めた。

「もてなし……そうか、もてなしか……」

 そして渾身の力を込めてアスファルトを蹴り、ジェレミから離れる。

「――無駄なことを」

「……すっかり忘れてしまっていた」

 愛奈さんの言葉にジェレミは怪訝な表情を浮かべる。

「なあ佑樹よ、この間お前の言っていた〝おもてなし〟とはどういったものだ」

「へ?」

 不意に話を振られ、僕は困惑する。

「まあ簡単に言うと、見返りとか下心のない気持ちでお客様に丁寧に接することですかね……」

「そうだったな」

 愛奈さんは腕を組み、何やら考え事を始める。

「ジェレミよ、私は肝心なことを忘れてしまっていた」

「む?」

「貴様を今日ここに呼び出したのはこの私だ。要するに、貴様は私の客となるわけだ」

 ……んん?

「客には丁寧な態度で接しなければならない。佑樹はそう言った。それなのに私はもてなすことなど微塵も考えておらず、ただ憎しみの感情のみで動いてしまっていた」

 愛奈さんはおもむろに剣を上段に構えると、

「――存分にもてなそうぞ。ジェレミ・イェーガー」

 そして大きく息を吸い込み、愛奈さんはこう続ける。


「いらっしゃいませへぇーー」


 振り上げた剣に、光が集まる。

 愛奈さんの口から初めてまともに聞いたいらっしゃいませの挨拶は、渋谷のショップ店員も真っ青な、腹立たしささえ覚えるものだった。



       ◇



 僕とジェレミはぽかんと口を開けたまま思考停止。

「……ふざけているのか?」

「逆に、これがふざけているように見えるのか?」

 見えますけど。

 喋っている間にも、愛奈さんの剣はどんどん眩しくなっていき、心なしか辺りから地鳴りのようなものまで聞こえてくる。危険を察知したのかジェレミは慌てて構えると愛奈さんに向かって走り出した。

 なんだかちょっと違うような気がするけど、今の愛奈さんすごく強そうだし――

 ま、いっか!

 これで全てが決まる。僕は確信した。

「いくぞ。いらっしゃいませで気持ちよく客を迎えたら、次の言葉は決まっている。気持ちよく客を見送る言葉――」

 剣は美しい弧を描いて振り下ろされる。

「ありがとうございましたぁぁぁ!!」

 台無しもいいところだった。


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